第11話 生と死の境界線上へようこそ!

日が陰り出し魔石の街灯が火を灯し始めた頃、

テラスラープ亭の一室に3人の人影が横になる1人の獣人を囲む。

「サチーさん、彼女が眠ってからどれくらいが経ちましたか?」大きな身体のサチーが小さくなった様に腰を丸め答える。

「すまない…正確な時間は分からねえ。少なからず昨日の朝に帰ってから、1度も部屋を出てない所を見ると、丸々1日と少しは寝てるはずだ」

「やっぱ王国からの攻撃か何かか?」黒髪を後ろで縛ったケイティーがいつもの真っ白のキッチンコートではなく、ボディーラインが出るような黒いスーツにマント、黒いマスクを付け背中には2本の刀を背負っている。

「ええ、十中八九そうでしょうね。フェンリルが反応しなかったのを見ると、何かしらのスキル…しかもかなりの遠距離からの攻撃か…」テスラが顎に手を当て深刻な顔をする。

「本当にすまねえ。店にいる間は任されてたのになんも出来なかったよ」サチーが項垂れる。

「サチーさんは悪くありませんよ。こんな形で襲われるなど想像できません」テスラがサチーに顔を上げるように促す。

「それに普通に襲って来て、勝てる人何てそうそういませんよ。元王国兵騎士団団長、無敵のグリズリーのサチーさんに」

「辞めてくれ。もう引退して随分経つし、今はザックに任せてある。テスラに力貸してもらってこの店を開けた。ただの女将のサチーだ」テスラがため息を着き首を振る。

「サチーさんが居る事を考慮し、からめ手で来る事を考えなかった私のミスです」そう言うとテスラがニャコブの胸の辺りに手をかざす。すると白い柔らかな光がニャコブの身体を包む。

「これは…」テスラが手をかざすのを辞めると光も消える。

「身体にはなんの問題もありません。ただ…」テスラがいい淀み告げる。

「魂が…ありません」

「魂がないだ!?それって死んでんじゃないのかい?!」サチーが大きな口を開きほえる。それにケイティーが答える。

「いや、死んでないよ。脈もあるし呼吸もしてる。ただ魂が無いって事はずっと目覚めず、いずれは衰弱して死ぬ」ケイティーが腕をくみ眉根を寄せる。テスラは少し考えケイティーに向き直る。

「ケイティーさん。神星のシャーベットを作って頂けますか?」

「冗談だろ!?まさか食う気か?さすがにまずいだろ…」ケイティーが眼を見開き、腕組みをとく。

「お願いします。サチーさん、ケイティーに厨房を貸して上げてください」

「ああ、よく分からんが分かったよ。ケイティーちゃんおいで!」サチーについて行きながらケイティーが「やばいぜ…流石にバレたら私が殺される…」と呟きながら2人は出ていく。テスラはぐっすりと眠ってる様にしか見えないニャコブの手をそっと両手で包む。

「君を必ず助けます…君との約束を私は忘れてないのだから…」静かなテスラの声が部屋の中で虚しく響く。




そこは幻想的な光景だった。空は紫と漆黒が入り乱れ、満点の星々が輝き大きな月が水平線から顔を出す。足元は静かに波立つ水面が何処までも広がっていて時折、水面下から魚のような影が泳いでいく。

「ここは何処なのかにゃ?」ニャコブの最後の記憶はテスラに送って貰ってテラスラープ亭の自分の部屋で眠った所だ。いつの間にこんな所に来たのだろう。

「夢かにゃ?」ニャコブが自分の頬を摘んで捻ると普通に痛い。

「痛いにゃ…現実なのかにゃ?」頬を擦りながら呟くと気付く、自分の腕がほんのり透け向こう側が見えている。

「にゃにゃにゃっ!透けてるにゃ!!」よく見ると全身が透けている。ゴーストのバルデンさんを思い出す。

「私…死んだのかにゃ…?」

「死んでないよ」突然後ろから声をかけられニャコブは飛び上がる。頭のてっぺんから尻尾の先の毛まで全身の毛が逆立ち、後ろを向き身構える。足元の水面に波紋が広がり視線の先で止まるのが見える。白い丸いテーブルが置かれ、白い椅子に腰掛けた1人の女のエルフが座っていた。彼女の瞳は怪しく金色に光り、銀の長い髪が風もないのに少し揺れている。

「座りなよ」エルフが手で前の白い椅子を示す。ニャコブが警戒しながらも白い椅子に腰を下ろし、テーブルを挟み向かい合う。

「うん。素直でよろしい」エルフがニコリと笑う。

「ここは何処なのにゃ?それにあなたは誰なのかにゃ?私ほんとに死んでないのにゃ?」ニャコブが一気に質問し、エルフがニコリとした笑顔を崩さないまま喋る。

「ここは生と死の境界線上だ。君は今、臨死体験をしている」

「臨死体験にゃ?」ニャコブが首を傾げるとエルフがクスリと笑う。

「私の魔法で君の魂をここに呼んだんだ」

「そんにゃ事、出来るのかにゃ?そんな魔法聞いたことないにゃ!」ニャコブが尻尾を立て言う。

「魂の魔法はかなり高度な技術と膨大な魔力が必要だ。そこらの人が知ってはいまい。ましてや魂を呼び出せるのは世界で私だけだろうな」エルフが少し得意げにフンと鼻を鳴らす。

「あなたは一体誰なのにゃ?」

「私の名はセイクリッド・サルガタナス・エジン。エジンマール王国国王だ」エジンが亀裂のような笑みを見せ、ニャコブが席を立ち上がる。

「もう少し話に付き合ってもらうよ」エジンがそう言うとニャコブの身体は自由を失い、言われるがまま席に着く。

「身体が言う事聞かないにゃっ!」ニャコブが幾ら席を立とうとしても動かない。

「あんまり動き回られると危ないんだよ。君も魚になりたいのかい?」その言葉に水面下の光る魚が向こうで跳ねる。

「あれは人の魂だよ。人が死に魂はここを泳いで月に向かう」エジンが跳ねた魚の波紋を眺めながら語る。

「一体月には何があるのだろうな…私はずっと研究をしているが今だに分からないままだ…」波紋がテーブルと椅子に当たり消える。

「王国は何を考えてるにゃっ!帝国とは休戦協定を結んでるのにゃ!何で帝国に攻撃するのにゃっ!」エジンが大きくため息を吐く。

「帝国は強すぎるんだよ。テスカバロル皇帝を初め、宮廷魔導師宰相ソラウェッティー、元帝国兵騎士団団長無敵のグリズリー、元冒険者ブラックスワンズメンバーの紅稲光のアインザック、暗部ケイティーベルセルク、デススワンダ・イブ…名前を上げたらキリがない」そしてエジンがこちらに金色の眼光を向ける。

「そして…伝説の英雄冒険者…ニャニャガルとニャリーナ…」ニャコブが息を飲む。自分の両親が優秀な冒険者だったのは知ってはいる。ただ伝説の英雄とは?

「余りにも力が帝国に傾き過ぎている。このままではいずれ…王国は滅びかねない」

「何でそうなるにゃ!帝国が王国を襲うと思ってるのにゃ!?」ニャコブが声を荒らげる。

「ああそうだ。歴史がそう語っている。帝国は力をつけては王国に何度も戦争をしかけてきている。今回もそうならない保証はないだろう?」

「テスラが…皇帝陛下がそんな事する訳ないのにゃっ!!」ニャコブはテスラが王国に戦争を仕掛けるような事を絶対にしないと確信している。だがエジンがまた大きなため息を吐く。

「そんな事は分からないだろ。仮にだ、皇帝がそんな事は微塵も考えてないとする。だが他の貴族はどうだ?これだけ国が戦力を保有しているのなら、自ら戦争を起こし、自分の国を巻き込めばいい。それももっと狡猾にな…」ニャコブが王国に唆されたヴィラン伯爵を思い出し、やりかねないと思う。

「たぶんお前の考えているヴィラン伯爵だが、少なからずアイツもそう考え、戦争を仕掛けようと武器を集めていた。だから王国は攻撃される前にアイツを取り込み唆し、逆に戦争の為の武器を使って帝国民を襲うように誘導した」エジンは頭を抱える。

「君が思っている以上に今の王国と帝国は緊張状態にあるんだ。私や皇帝の一存でどうこうなる話はとうに過ぎた」ニャコブは口を開きかけるが何も浮かばない。何て言えばいいか分からなくなってしまう。

「そこで君に頼みがある。王国に来ないか?」

「何でそうなるにゃ?」ニャコブがエジンを睨む。

「君に王国で貴族位を与えれば君の両親は王国に着くだろう。それだけで他の帝国貴族連中の抑止力になり戦争を回避出来るかもしれない」エジンはニャコブの眼を真っ直ぐと見つめた後、頭を下げる。

「君を無理やり誘拐しようとした事や村を魔物に襲わせた事は謝っても許されない程の罪だ。だがちゃんと理由がある。説明したいがアイツが来る…時間が無い。多分、皇帝が君の魂に干渉できないようにするだろう。何とかして解いてくれ」すると近くの水面が渦を巻き、水面に穴が空く。

下からゆっくりとテスラが上がってくる。

「こんばんは。エジンマール国王殿下」テスラが胸に手を当て頭を下げる。

「これはこれは皇帝陛下自らお越しとは王国に来る気になったかな?」エジンが皮肉たっぷりと言ったように片眉を上げ言い放つ。

「ニャコブさんを返して頂くために参りました。よろしいですね?」テスラの瞳が青く燃える様な視線を向ける。

「嫌だと言ったらどうする?」エジンの金色の瞳が火花を散らす。

「力ずくで連れて帰ります」その言葉で白いテーブルが吹き飛び煙が上がる。気付くとニャコブはテスラの腕の中にいる。

「にゃ…にゃにゃ大丈夫にゃっ!1人で歩けるにゃ!」ニャコブが暴れる。

「ニャコブさん落ち着いて下さい。今は危険です」見るとエジンが金の枝のような短い杖を右手に持ち、左手に光の剣を持っている。

「あの泣きべそかいてた子供がどれほど強くなったか見てやるよ」金の枝の杖をこちらに向けたと同時に閃光が走る。光が全てを覆い隠し影ひとつない世界になる。その中をテスラがものすごい速さで動いているのを感じる。

「我が声に答えよ!ウィル・オ・ウィスプ」先程の光が無くなり青白い影が前に立つ。それは次第に形をなしていく。柄に青い火が灯るランタンをぶら下げた大鎌を持ち、ローブを着た存在。顔はローブの影になり見えないがそこから呼吸するように冷気が漏れ出る。

「神話の化け物か…魂に干渉できると見える」エジンが金の枝の杖を振るとウィル・オ・ウィスプのランタンの青い火が燃え上がり、辺りに炎を撒き散らす。それに怒ったのかウィル・オ・ウィスプが鎌を振り下ろす。それを光の剣て弾くが片膝を水面に付け、エジンの身体が一瞬陽炎のように揺らめく。

「くっ…!弾いただけで魂がぶれるか」ウィル・オ・ウィスプが追い討ちをかけるがエジンはそれをまた弾いて距離をとり、杖から7色の閃光を放つ。ウィル・オ・ウィスプのランタンに直撃すると弾け、青い炎が水面に燃え広がる。ウィル・オ・ウィスプが手を広げると辺りの炎が収束し、壊れたランタンのガラス片が集まり直り始めるが、その一瞬の隙を着き光の剣でウィル・オ・ウィスプを切り伏せる。真っ二つに別れた胴体が水面に転がると今度はウィル・オ・ウィスプの胴体が治ろうと戻り始める。

「ここは生と死の境界線上だ。無駄だよ」ウィル・オ・ウィスプの身体が治りきる前に水面下へと引きずり込まれていく。もがく様に手をばたつかせて水面を掴もうとするが、もはや水面は足場では無くなったかのように、水飛沫を上げるばかりで掴むことは叶わない。次第に波紋だけを残し消えていく。

「ここでは不死性は無くなる…どんな者でも死に相当する手傷を負えば魂は月へと帰る」エジンの金色の瞳がテスラ達を捉えて離さない。腕の中でニャコブはテスラの心臓の鼓動が早くなるのが伝わってくる。

「水の精霊ウンディーネ!我が声に答え守れ」

目の前の水面が波打ち水の塊が宙に浮く。弾けると中から小さな青い身体に長い青い髪、手には水かきがある可愛らしい精霊が飛び出す。

「ちょっと!テス!こんな所に呼び出すとか正気!?」精霊が幼い声でテスラの顔の前へ近ずき小さな指を鼻先に当てる。

「すまない。時間を稼いでくれ」テスラが申し訳なさそうに頼む。

「ここの水はとっても怖いのよ!?余り長居は出来ないわ!」そう言うと精霊はエジンに向き直り、水面の水を操り出す。水面から2つの水柱が立ち上がり、一気に項を描くようにエジンに襲いかかる。その間にテスラは聞いた事のないような言語の呪文を詠唱し出す。

「大精霊を時間稼ぎに使うとは何とも罰当たりなやつだ!」エジンが亀裂のような笑みを浮かべ水の柱を光の剣でいなしていく。

「本当よ!でもそこが素敵なんだからっ!」精霊が水の柱をもう4本追加し攻撃に加え、手の先から大きな水の玉が出来る。それが一気に凝縮しだすとビー玉にも満たない大きさになり色が黄色く変色しだす。

「これは特別なプレゼントよ?あなたにあげるわ」精霊の言葉でその小さな塊はエジンが水の柱を捌く中に飛んでいく。その瞬間、気体でも液体でも無くなった超臨界水が大爆発を起こす。周りには大雨が降り注ぎ水蒸気が上がる。

「テスっ!殺しちゃったけど良かった?」精霊がテスラに顔を向けると呪文を詠唱したまま首を横に振る。蒸気の中にまだ人影が立っている。

「嘘でしょ!?本当に人間?!」精霊が驚いて両手で口を塞ぐ。

「私はエルフだよ。ウンディーネ様」エジンの身体の周りには銀に輝く薄い膜が覆ってるように見えた。

「人間もエルフも大差ないわ!私にとって人間かテスかの違いしかないんだから!」

「そうですか。ウンディーネ様は皇帝にご執心の様子…皇帝の血筋が絶えたならどうなるのでしょうか?」エジンが杖をテスラ達に向けると瞬間、真っ黒でこの世の全ての光を飲み込まんとするような漆黒の塊がが向かってくる。

ウンディーネが間に立ち塞がろうとするが届く前にそれは消失する。

「ありがとうウンディーネ。後は大丈夫だ」

「わかったわ!何とか逃げなさいよ?」ウンディーネがテスラの頬に口付けをし掻き消える。

「おや?何で私の魔法が消えたのかな?今度は何を呼んだんだい?」

「神話生物…歴代皇帝でこれを出すのは多分私が初めてです」ズン…ズン…水面が揺れる。

「こんなのを世にはなったら世界が滅びかねないですから…」水面が大きく揺れ波打つ。

「おいおい…皇帝はこんな奴まで使役しているのか?」エジンの額から冷や汗が垂れる。

「まさか!誰も使役なんか出来ません。ただ呼び出したら全てを滅ぼすだけですよ」グゥオオオオオ!狂ったような叫び声が何処までも響き渡り、水面下から緑のそれは立ち上がる。数十mはあろうその身体は背中にコウモリの羽のような翼が生え、手には水かきがあり頭はタコのような顔に数百本はある髭のようなタコの触手がそれぞれ自我を持ったようにうねっている。

「クトゥルフか…こんなの呼び出すとはお前は頭がおかしいとしか思えんな」エジンは眼を細めテスラを睨む。瞬間、エジンがいた場所にはクトゥルフのとても大きな腕が水面を歪ませる。それは大きな津波を引き起こしテスラ達の元まで直ぐに到達する。だが波はテスラ達を避けるように流れていく。

「今のうちに逃げますよ」テスラが腕の中のニャコブに言う。

「はいにゃ」ニャコブは我に返り答える。テスラの呪文で徐々に渦ができ穴が空き始める。

「ここに入ります。飛び込んで下さい」テスラが言う後ろでクトゥルフがエジンのいた場所に拳をすごい速さで連打しているのが見える。その度にとても大きな波となっている。2人は穴に飛び込み意識が薄れる。


「やれやれ…お前のせいで逃げられただろ?」エジンが不敵に笑う。クトゥルフはそんな言葉に反応することなく狂ったように拳を打ち込む。それを杖の先からでる銀の膜で上手く防ぐ。

「全く、会話も出来ないのか?神話生物とは言えこれではそこらの獣と変わらんな」エジンが光の剣を振るう。すると光の刃がクトゥルフの腕を捉え何処までも飛んでいく。腕が水面下に落ち沈むがクトゥルフが腕を抑えると直ぐに腕が生える。

「不死性が消えない?ただの再生とは違うのか?実験するか」エジンは光の剣を高速で振る。光の刃が無数に飛び続け、クトゥルフの身体を細切れにしていく。だがクトゥルフは直ぐに再生し倒れない。

「では一欠片も残さずに消したらどうだ?」杖を振るうと空間が歪み世界に亀裂が走る。割れると同時に凄まじい風が割れた穴に流れ込む。クトゥルフがあっという間に飲み込まれ穴が塞がる。辺りが静まり返る。

「ふむ…世界から消したがこれは効果があったようだ」だがその言葉は虚しく、世界にまた亀裂が走り穴が開く。先程の巻き戻しを再生するようにクトゥルフが戻って来る。

「これは面白い!どんな攻撃も効かないのか!では、次で最後だ!」エジンが光の剣と杖を宙に放り出す。杖と剣が落ちる前に掻き消え、新たなワンドを握る。それはどす黒く先には真っ黒い宝石が埋め込まれ、冒涜的な形をする。見るもの全てが気が狂い出す狂気の沙汰。侮辱と恥辱が支配し、感情を溶かしては蝕み喰らう。「大大罪の玉の枝だ。美しいだろ?人に見せられないのが残念でならない」エジンがワンドを撫でると黒い宝石が煌めき、黒い汁が水面に垂れ覆っていく。次第に光る魚が水面に腹を見せ浮かぶ。クトゥルフが少し身動ぎし動かなくなる。

「出し続けると不味いか…汚染されてしまう。何とも全てが儚いな…」ワンドを向けるとクトゥルフは仰向けに倒れグズグズに黒く溶け、次第に消えていく。エジンがワンドを消す。

「全く!皇帝め!私の自慢のテーブルを壊しやがって!ここに物質を持ち込むの大変なんだぞ」フンとエジンが鼻を鳴らし壊れたテーブルを探す。

「ニャコブちゃん可愛かったな。また会えればいいけど。お!あったあった」デジンが壊れたテーブルを引き上げ、魔法で元通りに治す。デジンが椅子に座り、宙空からカップと茶葉を出し紅茶を入れ出す。爽やかな柑橘系の香りが静かになった星空と水面の間に広がり出す。デジンはカップに注ぎ、口に運ぶ。

「やっぱりアールグレイティーが1番だよね。とことんアイツとは合わん!」デジンが月を眺めながら紅茶を飲む姿はどこにでも居る普通の女の子の様だ。

沈まぬ月が大きく水平線から顔を出し、空に浮かび上がる事も無い。夜空は紫と漆黒が入り乱れ幾万もの星々が辺りを照らし、凪いだ水面は星の光を返す。泳ぐ魚は優しく光り、月へと向かい泳いで行く。

ここは生と死の境界線上、魂を送る場所、デジンが紅茶を楽しむ場所。

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