第3話 ディナーへようこそ!

ここテスラカフェは日が沈むと日中とは容貌が変わる。荒くれ者や冒険者に傭兵など、様々な種族が1日のストレスを発散するように酒を飲み、歌い、喧嘩をする。

「テスラの旦那!」そう言ってカウンターの下から声を掛けてきたのはドワーフのジェムズだ。ジェムズはジャンプしストンと椅子に腰を下ろす。

「おや、ジェムズさんいらっしゃい。本日はどうなさいますか?」テスラがグラスをタオルで念入りに拭きながら聞く。

「生ビールをジョッキで1つとピザを1枚頼む」ジェムズが長い顎髭を扱きながら注文する。

「かしこまりました」そう言うとテスラはジョッキを取り出し、金に輝く蛇口を捻り一気にジョッキを黄金色の液体で満たす、上の溢れた泡を鉄のヘラで落としもう一度ジョッキに注いでいく。金色の液体と真珠のような泡が溢れ落ちる。

「おぉぉ…!相変わらず勿体ないのう!」ジェムズが身を乗り出し、溢れ出た純白な泡を口惜しそうに見つめる。

「そうですね。ですがこの方が口当たりが良くなるんです」そういいながらジョッキに着いた泡を拭き取り、ジェムズの前に提供する。黄金色に輝くその液体の上には目で見ても分からないきめ細やかな真珠色の泡が乗っている。ジェムズはゴクリと息を飲み、ジョッキ片手に一気に口へと運ぶ。ゴクリっゴクリと音を立てて喉の奥えへと流し込む。冷えたビールが1週間の疲れと熱を一気に冷ましてくれる。

「っかあああ!美味いっ!」髭に着いた泡を手で拭き取り、歓喜の声を上げる。

「ありがとうございます。ジェムズさんの飲みっぷりはいつも素敵ですね」胸に手を当てテスラはお辞儀する。

「ここのビールはどこの酒場の酒より美味い!ゴクゴク一気に飲めてしまうわい!」ジェムズは少し赤みがかった頬で残りを一気に飲み干す。

「テスラの旦那!おかわりじゃ!」空いたジョッキを突き出す。

「かしこまりました」爽やかな笑顔で空いたジョッキを受け取り、新しいジョッキを取り出すとビールを注ぎジェムズの前に生ビールを提供する。すると奥からケイティーが顔を出し「ピザ上がったよ!」の声と共に何とも香ばしいイイ香りが鼻腔に届く。

「来たのう!」ジェムズがピザに目を奪われる。テスラがピザをビールの隣に置き言う。

「お待たせ致しました。こちら3種のチーズのピザでございます。本日は良いチーズが入りましたので格別かと」テスラが胸に手を当てウィンクする。ジェムズの前に置かれたピザは丸く8等分にカットされ、チーズと緑のほうれん草、ベーコンが色味を作り食欲を沸き立たせる。1枚を手に取り口に運ぼうとするがチーズがそれを拒む。チーズが手元まで伸びている。ジェムズは伸びたチーズを先に口にする。すると濃厚なチーズの味わいと熱さが口に広がる。

「あっちあっち!」ジェムズが空いた手でジョッキのビールを口に流し込み落ち着く。口の中が火傷しそうな熱さにチーズの深み、気持ちが高まる。今度こそピザを口に運ぶ。するとチーズの濃厚な旨みとベーコンの肉汁とスパイスの香り、ほうれん草が吸ったピザの旨みが噛めば噛む程に口いっぱいに広がる。それと同時にチーズの熱さが広がる。やはり熱い。口の中のピザをもっと味わっていたいが火傷してはいけない。ビールで流しこむ。

「美味い!美味すぎる!」ピザとビールの組み合わせで無限に食えてしまえる。



「ふぅぅ食ったのう…」ジェムズは大きく出た腹を摩る。

「気に入って頂けたみたいで何よりです」そう言うテスラの手元は大量のジョッキの山を素早く丁寧に洗っている。爽やかな笑顔と素早く動く腕のギャップが何だか可笑しい。

「何だかすまんのうテスラの旦那、忙しいだろうに」ジェムズは少々申し訳ない顔をする。

「いえ、私はお客様が満足して頂くのが1番の宝なのです。ジェムズさんの楽しそうに食べる姿は私に取っても励みになります」テスラは頭を下げる。

「しかし、本日はいつもの方々がいませんがどうなさったのですか?」ジェムズは暗い顔をする。

「怪我して今は教会じゃ…」

「怪我ですか?何かあったのですか?」テスラが洗い物の手を止める。

「ああ…鉱山でサラマンダーが出てのう…」サラマンダーとは火を噴く大きなトカゲだが、ドラゴンの近縁種でありとても凶暴で危険性が高い。

「幸い死人は出なかったが鉱山に入れずに困っているのじゃ」ジェムズがジョッキの僅かなビールをチビりチビりと飲む。

「確かサラマンダーの好物は魔石でしたよね?」テスラが真剣な顔になる。

「その通りじゃ…鉱山で取れる魔石を食い漁っておるじゃろうな…」ジェムズがチビりとまた飲む。テスラは少々難しい顔をする。

「冒険者協会や帝国兵に相談はされたのですか?」ジェムズが頷く。

「相談したわい。相談したが無視されたわい…」

「何故ですか?」テスラが少々驚いた顔をする。

「わしにもわからん…上から止められたとか何とか…」そう言うとジェムズはお代を置き椅子から飛び降りる。

「すまんかったの!愚痴っちまって、また来るわい」そう言ってジェムズは小さいが太い腕を1振りし出ていってしまう。

「私達の元にこの話は?」テスラは奥の厨房で聞いているであろうケイティーに聞く。

「いえ、上がって来ておりません」ケイティーが小声で奥から返す。

「何処かで口止めしてる連中がいるな…魔石は我が国の要だ。また貴族連中か…」テスラが眉間に皺を寄せる。

「直ぐに口止めしてる連中を炙り出し、背後関係を洗え」テスラが冷たく言うと奥から「はっ!」と聞こえ静かになる。




次の週、ディナーの時間に3人のドワーフがカウンターにやってくる。ピエルとビジュとジェムズ達だ。

「ピエルさんビジュさん退院おめでとうございます」テスラが深々と頭を下げる。

「何を言っておるのじゃ!大した怪我では無いのに大袈裟なのじゃよ」ピエルがハゲた頭をペチペチ叩く。

「そうじゃそうじゃ!ジェムズは心配症なのじゃ!」ビジュがボサボサ髪を揺らしながら言う。

「全く!人の気も知らんで!お主ら半分黒焦げじゃったんじゃぞ!?」全くとジェムズは長い髭を扱く。

「それより店主!わざわざ見舞いありがとのう!あの酒美味かったぞう?」ピエルがニヤリと笑う。

「そうじゃ!あの酒はあるかのう?わしはあの酒が飲みたくて退院したのじゃ!」ビジュがバンバンとカウンターを叩く。

「ございますよ。ウイスキーですね。ロックでよろしかったですか?」

「それじゃ!それ!」と2人が言うのに合わせテスラはアイスピックで氷を丸く整える。

「何を抜かしておるのじゃ!酒は生ビールに限るじゃろう!テスラの旦那!ビールをジョッキで頼む!」

テスラカフェは3人のドワーフを中心に今日も飲めや歌えやの大宴会。



席に座る男の新聞の見出しにはこう書かれる。「以前に捕まったヴィラン伯爵派閥、複数人逮捕!」元貴族の男達は皇帝陛下の領地の鉱山にサラマンダーを解き放ち、帝国原産の高価な魔石を取れないように画策したと見られ逮捕された。またも皇帝陛下の早急な対応で事なきを得た。と書かれている。

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