第2話 ランチへようこそ!

道に迷った。ここはどこなのだろう?帝都は中央街から裏路地に入ると迷宮の様に入り組んでいて自分が何処に居るのかわからない。宿屋に向かうはずだったがこれはたどり着けるだろうかと不安になる。

「こんな事になるにゃんて、地図をケチらずに買えばよかったにゃ」そう言う。彼女は黒ネコの獣人ニャコブである。歩き疲れて足が棒である。

「にゃーー!疲れたにゃっ!!ここはいったいどこなのかにゃ!?」そう言うニャコブの腹がぐーっと鳴る。朝、帝都についてから何も食べてない。よくわからない店の前の石段に腰を下ろす。

「腹減ったにゃ…こんな事なら村を出るんじゃなかったにゃ…」ニャコブは反対する両親を押し切り、田舎の村を飛び出して来たお上りさんだった。するといい香りが鼻腔をくすぐる。

「にゃにゃ?美味そうな匂いがするにゃ」匂いにつられて立ち上がる。

「向こうからにゃ!」匂いの方にフラフラとニャコブは向かって行く。何度かの角を曲がるとテスラカフェと書かれた看板が立っている。中を覗くとあまり広くはないがお客さんは沢山いる。匂いはここからのようだ。お腹がいっそう大きくなる。

「いい匂いにゃ…ご飯も出してるみたいにゃしここで腹ごしらえにゃ!」そう言うとニャコブはドアを開ける。カランカランと軽快にベルが鳴り、中からメガネをかけた顔立ちの良い男がやってくる。

「いらっしゃいませ。テスラカフェへようこそ。こちらの席へおかけ下さい」男は椅子を引き、手を椅子に向け言う。ニャコブは男に言われるがままに座る。

「お客様は始めてのご利用ですね?本日のランチはオムライスとポトフのセットでしたがいかがなさいましょうか?」男が爽やかな笑顔で聞いてくる。ニャコブはどちらも知らない料理だが大丈夫だろうか?店内には獣人も居るから問題ないか?

「そ、それでお願いするにゃ!」ニャコブはぎこち無く言う。

「お飲み物は何になさいましょうか?」男の質問に戸惑う。飲み物は水か牛の乳、果物を絞った果実水くらいしか知らない。どうすればいいか悩んでいると男が言う。

「温かいお飲み物か冷たいお飲み物どちらがよろしいでしょうか?」

「あ…温かい飲み物がいいにゃ…」そう言うと男が胸に手を当てお辞儀をする。

「かしこまりました。それではカフェラテをお持ち致しますので少々お待ち下さい」男はカウンターへと行ってしまう。カフェラテとは一体どんな飲みもなのだろうか?気になり男を見ていると何やら機械を動かしている。ノズルからシューーっとスチームが上がり、ポットに入れるとチチチチと音が鳴る。その後はゴォーーっと籠るような音が聞こえる。止まったと思うとポットを回しカップに何やら白い液体を注いでいく。一体どんな飲み物なのだろうか?

男がカップを持ってやって来る。

「お待たせ致しました。こちらカフェラテでございます」そう言われて出された飲み物は1つの絵画の様な色合いで白と赤茶色のコントラストが葉っぱのように見えた。

「凄いにゃ!飲み物に絵が描いてあるにゃ!」びっくりし、見惚れていると男が言う。

「ありがとうございます。こちらリーフのラテアートでございます。お口に合えば幸いです」

恐る恐るカップを口に運ぶと濃いなんとも言えない香りが鼻腔に着く。心が落ち着くような、長い旅の疲れが取れるような居心地。飲むとこれは牛の乳の味だ。しかし、口当たりがまろやかで食感を感じられる程にまろやか。こんな牛の乳を飲んだことは無い。それに後から来る苦味、だがこれは嫌では無い。その香ばしくもほろ苦い香りが鼻を抜け、口いっぱいに広がる。癖になる味だ。

「美味いにゃ…」これ以外に感想が出てこない自分が恥ずかしくなる。

「それは良かったです。最高の褒め言葉を頂き感謝致します。お料理はもうしばらくお待ち下さい」男が深々と頭を下げカウンターに戻って行く。その立ち振る舞いは昔、村に来た貴族を思わせる程に優雅だった。正直かっこいい。

「にゃ!見惚れて居る場合じゃなかったにゃ。カフェラテ?が冷めてしまうにゃ」そう言ってニャコブは1口また1口と飲んでいく。牛の乳がこんなに美味いと思うのは初めてだ。それにこの牛の乳と混ざっている赤茶色の飲み物は何なのだろうか?

「お待たせ致しました。こちらオムライスとポトフでございます」いつの間にか男が隣に立っており料理を並べる。オムライスと呼ばれたその料理は黄金色に輝き艶やかな表面に赤いソースがかかった食べ物でとても綺麗だ。反対にポトフは色合いが落ち着いたソーセージや野菜が沢山入ったスープに見える。

「本日の料理に使われている野菜は全て、帝国で取れたばかりの物を使わせて頂いております。それではごゆっくりとお寛ぎ下さい」男は胸に手を当てお辞儀をし去っていく。

ニャコブは手に持ったスプーンを恐る恐る黄金色の食べ物に差し入れる。中から一気に湯気が立ち酸味の混じった匂いを感じる。中からは赤い穀物?が入っていて黄色いそれと合わせて口に運ぶ。すると口いっぱいに広がる酸味と香ばしスパイスの香り、それと黄色いこれは鳥の卵だろう、トロッととろける舌触りに赤い穀物が絡み合い何とも言えないハーモニーが口いっぱいに広がる。

「凄いにゃ!こんなに美味い食べ物は初めてにゃ!」一気にオムライスの半分を平らげ、ポトフに目が行く。色合いは地味だがスープはどうだろうか?沢山の野菜とソーセージが入ったそれをスプーンで掬い口にする。すると野菜の旨みが一気に広がる。スープの熱さと野菜の旨みが身体を全身温める。ソーセージにかぶり付きパキりと音を立てる。スパイスの辛味と肉厚でジューシーな肉汁が口に広がる。その後オムライスの残り半分を口に掻っ込み我を忘れて食べる。


「お腹いっぱいにゃ…」食べたらほんの少し眠くなり、うとうとする。

「お気に召していただけましたか?」男が空いた皿を片付けながら言う。

「最高だったにゃ…私が食べてきた人生で1番だったにゃ…」正直な感想を男に告げる。すると男はクスりと笑い。

「そのお言葉きっとケイティーも喜ばれます」爽やかに笑いながら言う男に見惚れ自然と言葉が出る

「私を雇って欲しいにゃ!」男は驚いたようにするが直ぐに冷静な顔になりこう言う。

「週一回のお仕事ですがよろしいですか?」

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