第5話 神の目線(で物事を見る・物事に対応する)
小説「大地」の作者パール・バック(の文体)に見る「神の目線」
これは宗教の話ではありません。
小野寺氏は、パールバックという小説家の文体(文章のスタイル。語彙・語法・修辞など、その作者らしい文章表現上の特色)について語っているのです。
なぜ、中国人という捉えどころのないくらい大きな人間(民族)を、人類学者でもなく大学教授でもない、いち外国人(アメリカ人)であるパールバックが、これだけ正確・緻密に描き出せたのか。そして、それが永遠不滅の輝きを失うことなく、世界中に存在し続けることができるのか。
それは、彼女が神の目線で中国人というものを捉えているから。
といっても、彼女がクリスチャンであったということは、ひとつの象徴に過ぎず、その愛読書であったであろう聖書の文体こそが、実質的・現実的効果をもたらしたのではないか。
そのことを、日本人の翻訳者である小野寺氏が「大地」の解説で述べられた文章です。
世界文学全集 35 集英社 小野寺健 訳(1975年第一刷)における「大地」パール・バック(1931年出版)の解説
<引用開始>
・・・
「大地」がこれほど多くの人に読まれてきた理由は何か。
それは、この小説が中国の事情を伝えてくれるからではない。
中国という特定の場所を超え、パール・バックという作者を離れて、おそらく人間の生活についての普遍的な真理を語った古典の域に達していることにある。
・・・、作品「大地」は、あるいは作者自身の「中国への愛情」をさえ上回って、より普遍的な、人間の運命についての書になったのである。その原因は、パール・バックが人間を超えた神の存在を信ずる人であったことにあるのではないかと思われる。
彼女がクリスチャンであったこと、また「大地」が作者をさえ離れた古典的な傑作にまでなっているという事実は、この作品の文体に、象徴的に表れているといえるかもしれない。
パール・バック自身はどう見ていようとも、多くの人が指摘するとおり、「大地」の文体は明らかに英訳聖書、それも1611年に英国で編纂された「欽定英訳聖書」のそれである。
その文体は、現代人にとっては時としてやや述語の繰り返しが多かったりして、単調に感じられるところがあるのは事実だ。
だが、普遍的真理を説く文章に固有のこの素朴な文体は、パール・バックが意識していたと否とに関わらず語ることとなった、場所と時間の制約を超えた「人間」の生活を記述するには、きわめてふさわしいものであった。
おそらく、これは人間の上に、人間を超えてその運命を支配する神の存在を感じることのできた精神によってのみ、可能だった文体にちがいない。
その精神が、こういう、いわば骨太な、はかない人間社会の変化に耐えうる一大叙事詩を生み出したのである。
「大地」を書いた時期よりははるか後でも、「毛沢東や蒋介石のような老虎といえども、永遠に生きるわけではない。明日は常に存在するのである。」(「私の見た中国」1970年)と語ったパール・バックの言葉は、人間や歴史を見る彼女の本質的な視点を示唆してくれる。
・・・つまりパール・バックは、そんな革命でも、すべて本質は同じ、という立場に立つ。
要するに、それらは多少大規模な社会の「変革」「動乱」にすぎない。そして、生来平和な性質の人々は、こういう動乱のなかでも、いわば神に対するものとしての個人の務めを守り、個人として人に危害を加えることなく、危害を加えられることもなく生きていく工夫をする。
この視点に立つならば、飢饉も戦争も革命も、社会的動乱としては等価であり、違いはないのである。
これこそ、彼女が直接見た中国人の生き方立ったのに違いない。パール・バックは中国人たちの人生観に即して、中国人たちの生き方を描いたのではないだろうか。
彼らの人間としての生き方の上には「あるもの」が存在する。この寛大な肯定的精神に読者は無意識のうちに惹きつけられ感動するだろう。
この作品の基盤にある、人間と歴史に対する作者のこういう思想それが「大地」を普遍的な古典の位置まで高めることができた。
もし作者が、作中の人物を「裁いて」いたなら、作者もまた、作中人物の孟と、同じ過ちを犯すことになったはずである。
「大地」の女たちは、パール・バックにとって、中国人の中にいくらでも見つけることのできた人物像だったにちがいない。
・・・
<引用終わり>
○ 宮本武蔵は「五輪書」で「観見自在」という言葉を使い、「神の目線」の重要性を説きました。
○ 山岸勝榮「スーパー・アンカー英和辞典」 第5版 株式会社学研プラス とは、
パールバックの「大地」と同じく、著者山岸勝榮氏の「神の目線」から生まれた優れた文学書(辞書)です。
○ 「シートン動物記」
○ 「ファーブル昆虫記」
(共産党中国では、「神」という考えは歓迎しないかもしれませんが。)
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