第263話 冬の海をショートカットする。

 地図見直して作者もあっ。ってなったんです()

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「まあ、普通に航行していては、間に合わぬだろうねえ」

 海図を見て流石に遠くない?と呟いたあたしに、ランディさんが呑気な声でそう答える。

 まあ知ってて言ってるよね、この真龍。船でって言ったのもこのひとだし?


「確かにこれ、ヘッセンとかオラルディの領海に入らずに回り込むの、時間かかりすぎるよね」

 操船していたカナデ君も渋い顔。魔力消費は特に問題ないそうだけど、体力的な問題で集中力が切れるのが先だと断言していたから、距離は気になるよね。


「まあこのくらい離れてしまえば、問題ないだろう。少しズルをするから、停船しなさい」

 ランディさんがそう言うので、カナデ君が船を停止させる。


「流石に移動中の座標からは飛べなくてねえ」

 そう、なんでもない事のように言いながら、全員を、どころか船ごと転移するランディさん。以前海底遺跡からの脱出時には、アンダル氏がいると距離が出せないと言っていたけど、ってあの時は人間がもう十人ちょいいたっけね。流石にあの人数が減れば多少は違うか。


 転移で出た場所は、やっぱり海上だ。ってあれ?以前海の上には出られないと言ってなかったですか貴方?いや違う、移動中の亀の上には出られない、だったか。


「海底のポイント指定でもちゃんと海の上に出られるものだな」

 こら真龍!!テストなしでやったんか!!まあ結果オーライだけど!!

 出た場所は、オラルディ国の北の沖合の公海上、だそうだ。直線距離だと、そこまで遠くはない、ということらしい。ランディさん本人の弁によれば、真っすぐ東進すればレガリアーナ方面に出るようだ。


「流石に質量的にこの距離が限界だねえ」

 三人程度までなら、直接亀の居場所に近い地上に飛ぶくらいはできるが、とランディさん。まあそこはしょうがないし、むしろショートカットできるだけ有難いのは確かだわね。

 なおポイントは古い時代の真龍の骨が沈んでいる場所なんだそうだ。流石に真龍ともなると、骨はそう簡単には朽ちないのだそうで、あと千年くらいは座標指定に使えるだろうね、という話だった。そもそも真龍って死ぬのか、ってとこからですけどね、あたし達の感想としては。


「真龍も死ぬんだ?」

 寿命はないって言ってたよね確か、とサーシャちゃんの疑問。


「そりゃあ寿命はなくても一応生き物だからね。ここに沈んでいるのは、複数の神とひとりで争って敗北した個体だから、そんな事でもなければ、そうそう死なない、とも言うが」

 流石にそこらの人間や聖獣、魔物ごときを相手にした程度じゃ死なぬな、とランディさんは胸を張る。


「真龍さんってたまにけんかっ早い個体がいるということでしょうか……?」

 ワカバちゃんの疑問ももっともだとあたしも思いますハイ。


「たまに、というか、比較的力に驕った個体が多いのは確かだね。まあ神が複数合同で待ち構えている所に自分から突っ込むレベルの阿呆はこの下の死体くらいだったと記憶して居るが」

 どうやら沈んでいる骨の主は、ランディさん基準だと自業自得で死んだ奴、という事のようだ。


(沈んだ阿呆は進むべき道を見誤った挙句、多数の人を喰らったので討伐されたのだ。流石に我等の基準でもそれは死に値する罪であるからな。当時の討伐当事者たちには悪い事をしたよ)

 ランディさんが念話で補足をくれる。どうやら、神々側にもそれなりの被害が出たらしい。


(フラマリアとヘッセンの国神が替わる遠因にもなった故な)

 あーあーあー、そういう。フラマリアの方は負傷が元で堕ちて、ヘッセンの方はそうなる前に後継者に引き継いだ?


(そうだ。あの女、人に顔の傷を見られるなど許されないとか言って、堕ちるまで引き籠り続けおってな……当時の地上の民にどれだけ被害が出た事か)

 おおう、フラマリアの先代、女神だったのか。そして、堕ちた女神は、討伐された人食い真龍の被害の数十倍ではきかない人的被害を出したのだそうだ。だよねえ、人間の間の内戦まで起こったって話だったもんな。


(そうとも。あの女は神殿と旧王家を傀儡として自分の苦痛を紛らわせる為のおもちゃにしておったからな……討滅されるのも当然であろう。ただ、我一人でやればよかった、と今も思わないではない)

 ケンタロウ氏を巻き込むつもりはなかったのだというランディさん。でも、あたしの中の何かが、それではだめだったんだ、と明確に否定している。なんだろうね?どうも、裁定者称号っぽいんだけども。


 あいつをまきこんででも そのこをうしなうわけには いかなかったのだ


 成程?久し振りに直接注釈が来たわね。ランディさん自身が、この世界にとって何か重要な役割があるのだろうな、と、一時的に遮蔽した思考で、ちょっとだけメモ書きのように記録しておく。うん、なんか後日重要になる気がするんだ、この情報。

 後から補足情報として、真龍が神を討伐すると、そしてその逆も、タイマンだと対消滅に近いことになる、というのがしれっとライブラリ部分に追加されていた。成程、それはいけません、非常によろしくないですね?

 だって、ランディさんがいなかったら、あたし自身の行動にあっちこっちで遅延が発生して、きっと色々な事が間に合わなくなるし、そもそもその場合、フェアネスシュリーク様が超級に至る道筋も見えなくなるっぽいし、そうなると、これまた超級召喚師への道筋を失うイードさんがね、生き残れない気がするのよ。まあこれは、そこに至る道がもうない、終わった過去に対する仮定の話だから、今はもうどうでもいいのだけど。

 あれ、でもそうすると、ランディさんもそうだけど、イードさんも何気に世界に対して重要な存在な気がするわね?ってあの国境城塞の役割を考えると、イードさんの存在って人類圏の現状の存続の為にはほぼ必須になってる訳だけども。


《国境城塞の役割、ですか?対魔物防衛の要なのでしょう?》

 それもあるけど、あの一か所で全てを受け止めているのは、不自然でしょう?魔の森との境は、ハルマナート国の南の国境線全てだというのに。

 あの城塞は、魔物を引き寄せる為に存在しているの。あそこで一網打尽にできるようにね。

 だから代々の城塞詰め役は、囮かつ戦力足り得る聖獣や幻獣たちが自主的に集うように、国内随一の召喚師だけが勤めている。イードさんが役目に就く前は、フェアネスシュリーク様とランディさんが契約して交代で詰めていたというし。


 だから実は、アンキセス村は本当はあの土地に開くこと自体を認可してはいけなかった。あの村は気が付いたら既に村の形が完全に出来ていて、本来なら不法就労者として処罰されるべきところを、収穫収量がいやに良い土地だったのと、当時はやたらと高齢者世帯が多くて、不用意に移動するのも無理があると判定されて、魔物被害に対する抗議や賠償請求を一切行わないという念書を交わした上で、実質的には黙認という形で存在していたそうだから。

 召喚獣による隠蔽を施して、村の形ができるまで隠していた初代の村長だけは、国民を危険な場所に誘導した罪で、召喚契約獣のうち、一番彼に従順だったものを手に掛けさせて、召喚術そのものを剥奪の上、追放処分になったそうだけど、村人は彼の口車に乗せられたとはいえ、他所の土地で食いっぱぐれかけていた人たちだったから、一旦は念書のみで不法就労自体は不問にされた。

 結果的に、およそ一世代分ほどの期間は無事だったものの、去年の春の事件で、そのツケを自分の子や孫の命で払うことになったわけだけれど。

 以前隠蔽状態の麒麟くんを保護してくれていて、春のスタンピード被害で亡くなったアンナさんの家も、最初は夫婦の親世代の四人だけが移住していて、高齢になって生活が不安だから、と、別の真っ当な農村から呼び寄せられたっていう話だったし。被害にあったのは、そういう呼び寄せられた子世代が大半だった。初期の住民はそれ以前に過半数が墓の下だったからね。


 去年の出来事に思いを馳せているうちに、船は再び進みだしていて、気が付けば、進行方向に大きな山がいくつも見えるようになっていた。


 いやこれ時間的にも大陸の地形的にも、山じゃないな?あれが、城塞亀の、背中島だな?


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