第207話 東の平原といえば……?
翌日、また大鷲便で移動することになりました。王都には戻らず、南東の平原地帯にある村を直接目指します。ヘッセン国に割と近い場所だったヘレック村とは、ほぼ対角線上にある、といってもいい場所ですね。
「ええと、次の目的地は……トロット村?」
こちらも同程度の規模の村を選んでいるらしい。ただ、こちらは宿泊施設がないので、テント暮らしになるそうだ。まあニ、三日程度なら特に問題はないはず。
「そうです、ちょっと湿地が近いので、酪農が主な村ではあるのですが、自給分程度の畑はあるのと、この辺りでは湿地の泥炭も肥料の原料にしていて、他所と多少違うということで、今回選定されたようですね」
工程自体は同じなのですが、と、フラマリアの調査員さん。
「そこまで差異があるなら、調査先として不向きなんじゃ?」
サーシャちゃんが首を傾げている。
「あえて魔力要素の強そうな場所を選定したんでしょう。ここは神力が強めに行き渡っている国だから、その位の要素がないと恐らく最初の計測地くらいの範囲で収まるでしょうし」
取りあえずそのように解釈はしたのだけど、正解だろうか?
「ええ、トロット村についてはそうですね。ヘレック村はあそこまで違うとまでは思ってなかったんですが……」
わあ、超発酵農法は想定外だったのか。その回答で、サーシャちゃんも何やら納得顔になった。
「なるほど、あっちが想定外……なんかこっちでも別の想定外が出そうだな」
嫌な事を言い出すサーシャちゃん。調査期間が延びるのは勘弁だぞ!
今回のワゴンは、村から離れた平地に着陸した。村内に広場がない場合は、だいたいこういう何もない、綺麗に均された、一種の来客用エリアが設定されている。この村でのベースキャンプも此処に設営されるので、ヘレック村では使わなかった機材も全部降ろして、早速天幕やテントが設営されていく。
【じゃあ、また後日ー!】
これも会議室代わりに使うということで、ワゴンは置いた状態で、大鷲のテイスパスさんとレンビュールさんだけが帰還していった。いやあ鷲ってかっこいいな!
レンビュールさんの契約召喚獣は鳥ばかりなんだけど、クソ真面目で、ちょっと初見だととっつき悪い感のあるネヴァーモアさん以外、皆愛嬌がある明るい性格の子ばかりだ。そして、一見例外そうなネヴァーモアさんも、実は無駄話をさせると、割とはっちゃけるほうだったりする。うん、たまに言ってはいけない事を言いそうになってレンビュールさんに止められてるよ!止めるタイミングが完璧すぎて、多分そこまでコミでネタなんじゃないか疑惑。
村の方から誰か来るかな、と思って周囲を見回すと、何故か『この先沼』、という標識の横に、ぽつんと火が浮かんでいるのが見えた。ん?
「んん?狐火?」
あたしにつられるようにそちらを見たフラマリアの研究者さんがそう呟いて首を傾げる。
「狐火?」
んー……?あ、そういえば、舞狐さん達の住処があるの、このフラマリアの東平原とか言ってなかったかしら?
「はい、狐の火でございますよ。皆様にはお初にお目にかかります。ワタクシは舞狐集落の案内役にございます。本日は我らが王の恩人がお見えとの由、まずは御挨拶に馳せ参じた次第にございます」
ゆらり、と、標識の横に現れたのは、狐色の髪に、狐の耳と尾を持つ獣人に似た、でもどうみても獣人には見えない、獣――狐の眼をした、一見若い男性。
へえ、王様の恩人かー、というか舞狐さんたち、王様がいるのね。
《いるのね、じゃありませんよ!イナメ様ですよそれ!恩人って、あなたのことですよ!》
あれええええ?
「舞狐の……ああ、スタンピードの時の話か、ならばカーラ嬢のことですね」
エスティレイドさんがさっくりそこに気付いてしまい、背中を押されるあたし。
「イナメさん、王様だったの……」
唯一の水の家系、としか聞いておりませんですハイ。
「我らが王は自らを余り語らぬ御方ですので……ワタクシのことは、取りあえずカガホとお呼びくださいませ」
案内役さんことカガホさんも苦笑しているので、どうやらイナメさんが自分の地位を語らないのは、よくあることのようですね。
「えっ舞狐のカガホ氏って七本尾の結構偉い人では……」
「そりゃ王の恩人なら、それなり以上に偉い人で対応するに決まってんだろ、俺らと一緒だよ」
後ろの方でフラマリアの研究者さん勢が小声でそんな事を言っている。そ、そっか、有名人なんだな、カガホさんも。
(ふふ、我々の社会は人間ほど位階は重視されませんので、余りお気になさらず。我が名は
念話でおもむろに名を明かすカガホさん。いいんですかそんな安易に!
(お話は王から何度も伺っております。最早唯一の水狐たる我らが王の命の恩人となれば、一族皆の恩人です。我が名程度で返せる恩では御座いませんよ)
ふふふ、と笑う気配と共に、そんな返答が返ってきた。お請けしましたけどあなたも上級ですね……手が届かぬ……
《えぇ……七尾の方でも上級なんですか……あのですね、この方、舞狐族の重鎮でらっしゃいます。多分イナメ様よりだいぶ年上ですよ》
あー、やっぱりそうか。多分年齢結構行ってる方な気はしてた。って重鎮かーそっかー……
何時か召喚できたらいいねリストだけが増えていくね……
本日はご挨拶だけ、ということで、カガホさんはまたゆるりと消えて帰っていった。
そしてフラマリアの研究者さん御一行の視線を浴びるあたしであります。
流石にハルマナート国の人は最早この程度ではって研究者さんの一部とサーシャちゃん達がこっち見てるんですが!?
「……ねーちゃん、何者……?」
サーシャちゃんがまたなんか疑惑の目をこっちに向けております。
「王といっても舞狐族の中でだけそう称している、実際には村長のようなものだそうだからね、これは過去に御本人から聞いた話なのだけど、今もそうなんじゃないかな?」
エスティレイドさんがそう言って、視線を遮る位置に立つ。
「確かに舞狐族はここ三十年ほどは、増えることもなく、減りもしない、といったところのようですが……」
「そもそもこの世界の『王の定義』には、舞狐族の王も、ケット・シーたちの王も、合わないでしょう?無論、だからといって軽んじて良いものでは断じてないですが、ね」
その理屈だと我が国もちと怪しいですからね、と、フラマリアの人の言葉に続けたエスティレイドさん、その下げは些か大人げないでござらんか。皆黙っちゃったよ?
にわとりにも おうさまいるの?
いないんじゃない?
そんな中、コココ、と呑気に首を傾げている鶏ズがかわいい。でもそうね、鶏の王様はちょっと思いつかないわねえ。というか、ケット・シーも王様いるのか、あ、そうだわ、我らが王の使いとかキャスケット略氏が初対面の時に言ってたわ!
「ふふ、龍の子の文官殿は手厳しいな。諸君、僕が今更こんなことを言うのもなんだけど、異世界人なんて行動がカッ飛んでてなんぼだよ?そもそも、人の複数国の王に知己のある異世界人だよ?、狐や猫の王とも知り合いでも、なんにもおかしくなどなかろうよ」
ランディさんがなんか言わなくて良さそうな事を言って混ぜっ返しにかかっている。それ流石に逆効果じゃないかなあ!
「というか、人の国だって、王様や王族なんて、任じられて役目を果たしてるだけの人間だからねえ?まあ我々は上に神はいませんが、他にやることもないからやっていますが、ね」
それを受けて、今度はエスティレイドさんが王族じゃないと言えない系自虐に走っている。君たちフォローしたいのか混乱を増したいのかどっちなの!
まあその発言で、そういやこの人からして王族だったわ、と我に返るハルマナート国の人たち、つられて素に戻るフラマリアの研究者さんたち、といった感じで、ようやっと雰囲気がもとに戻った。
「……で、人の王様複数知ってるってどのくらい」
サーシャちゃんが寝る前にこっそり聞きに来ましたよ。
「三か国くらいだから異世界人的には普通じゃない?この国だって、国神様には会ったけど、王族の人とか、影も見てないし」
そうなのよ、フラマリアの王都でも待ち時間で観光は散々したけど、基本神殿から直に移動で、美術博物館の旧王宮は行ったけど、新王宮は通ってすらいないのよね。
なので王様の顔を知ってるのは、ハルマナート国と、ヘッセン国と、サンファン国の三か所だけだ。マッサイト国なんて、王都に足すら踏み入れていないし。
「異世界人の普通って……」
「自称勇者様、行ったことがないのはライゼル本国だけ、行った国全部で王様と謁見、しかも現代より国の数自体が六つも多い。それに比べたら完全に普通でしょう」
ちなみにこれは伝記のほうの記述なうえに、本人からも裏取ってあるので確定の事実だよ!
「普通の概念がおかしい」
サーシャちゃんがそうジト目で言うけど、あたしたちが異世界人で一からげにされるような状況が、既に世間一般で言う普通じゃないんだから、諦めよう?
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