第205話 空を飛んで行こう!

 翌日からは二手に分かれる予定でいたのだけど、ココさんロロさんが離れ離れになりたがらないので、結局全員で西の予定地に行くことになりました。

 まあ冷静に考えると、ココさん達の思考をきちんとトレースして言語化できるの、あたしとケンタロウ氏だけでしたわ、うん……神様が出張ると調査の正確性が担保できないから、あたしが全部やるしかないのでした。

 今回は、乗合馬車だと王都からまる二日かかる北西部の村に、レンビュールさんの召喚獣で向かうので、一日かからずに到着できるという寸法ですよ。


【やあやあ、皆さま初めまして!お空のワゴンの旅へようこそ!】

 お茶目にそう挨拶するのは、大きな乗合馬車のワゴン部分から車輪を外し、巨大な持ち手を付けた、としか表現できない物体の上、その持ち手部分に停まった、色合いは普通の茶色、但しとっても巨大な鷲さんだ。


「やあテイスパス、今日はちとお客さんが多いが、よろしくね!」

 呼び出したレンビュールさんがにこやかに挨拶している。


 大鷲のテイスパスさんは、御両親は他世界生まれだけど、自分はこの世界で生まれたから、ここが故郷、なんだそうだ。そしてその御両親は、例のライゼル関係の被害者であるらしく、顔も知らないのだという。

 なんでも、まだ卵の時に、召喚獣斡旋業者に盗み出されて、彼とその兄弟だけが難を逃れたのだそうだ。盗み出したといっても、その頃既にライゼル絡みの、被支配国から聖獣が消える話は召喚獣斡旋業界隈では結構有名で、調略が成功する秒読みに入ったという噂を聞いたある業者が、最悪返り討ち覚悟で卵だけでも国外脱出させに行った、が正しいらしい。

 というか、斡旋業者なんてのもいるんですね。まあ需要と供給のバランスって難しいし、召喚師の素養はこの世界の多くの人が持っているけど、自分で契約相手を探せる人ばかりではないのだから、そういう業種があるの自体は、おかしくはないのよね。


 翼を大きく広げた雄大な鷲が、風魔法を纏って、乗ってみたらホントに乗合馬車の胴体部分そのものだったワゴンごと舞い上がる。魔法で浮力揚力を調整しているからか、殆ど揺れない。

 まあ空の旅といっても、窓から下を眺めるのは、残念ながら制限事項だ。龍の方がたは大丈夫ですが、人間は自国民しかだめなんですよね、と言われたら、頷くしかない一応一般枠外国人のあたしたちです。なので窓はカーテンを下ろして、テイスパスさんの身の上とか、そんな話を主に聞いていたという次第。


「ご兄弟の方はどうされているのです?」

 エスティレイドさんが割と積極的に質問している感じですね。彼は龍の王族なので、実は見下ろし案件に関してはフリーなんだけど。何せ化身すりゃ自力で飛べますからね……春の旧アスガイアの時のように、他国への救援で空路で一直線、も規模の大小こそあれ、割とあるらしいからね……


【ぼく以外は召喚主に恵まれなくってね!野良聖獣やってるよ!時々差し入れ持ってったりはしてる!】

 まあそれが本来の野生の僕らの姿だしねえ!とからから笑うテイスパスさん。なおこの場合の野良、は特に守護するものも、契約も持ってないフリーの、くらいの意味合いだそうだ。但し彼らが自称するのは構わないけど、人間が彼らに向かって野良とか言ったら、相手によっては最悪激怒される奴ね。なので、そこは三人組にも教えてありますよ。

 なお卵を四つ持ち帰った業者さんは、テイスパスさんの契約手数料だけで黒字になったので、他の子の契約には拘らずに、自活できるなら自由にしなさい、としたそうだ。で、今でも家族づきあいをしているんですって。


「異世界人レベルの魔力じゃないと契約に足りないんだよねえ。超級でこそないけど、身体のサイズどおりの契約難易度だから、致し方ないんだけど」

 レンビュールさんが苦笑い。なお彼の魔力は亜竜級++。異世界人の、魔法文明出身者にしては控えめに感じるけど、と言ったら、真龍級以上は異世界人でも間違いなくイレギュラーだよ、と苦笑されました。済まぬ……


《これは口外禁止なのですが、実は本来なら、魔王級以上の魔力保持者は、召喚補助機構で弾かれるのだそうですよ。貴方の場合は、召喚前に魔力がなかったものが召喚の際の魔力変換で異常値になったので例外、三人組のほうも似たような感じですね、彼らも持ち込もうとした環境の一部が魔力変換されて本来の数値より上がっている、のだそうです》

 あらまあ、シエラ経由でメリエン様からそんな情報が。あれ?じゃあケンタロウ氏は?彼も神化する前は魔王級だったわよね?


《召喚された時には真龍級++だったそうです。魔王級に昇格した唯一例だそうですわ》

 あ、成程……昇格もあるんだったわね。

 で、なんで魔王級越えると弾かれるかというと、実は、読んで字の通り、だ。本当に、魔王的なクッソ危ない存在が飛んで来る事があるんですってよ。で、そういうのは流石に機構の防衛システムに排除されるという次第。

 ……メリエン様、今まで思ってたより力あるな……?


《地上と違って割と好き放題できるから、というのもあるようですよ》

 あー、副次被害が出ないから、あー……なんか、地味に、判る。スケールが全然違うけど、あたしが陸より海のほうが楽に殲滅行為ができるようなものね……?


《だいたい間違ってないあたりが、貴方ですわね……》

 どういう意味ですかねえ?!



 半日過ぎたあたりで、前方に海が見えるよ、と、一部のカーテンだけ開けてもらえました。

 おー、ほんとに海だわー。三人組が窓に張り付きにいっている。そういや彼らはレメレ上陸以降、海には行っていなかったわね。


「君たち海が好きなのかい?」

 レンビュールさんが、あまりの張り付き具合に苦笑している。


「海も好きだが!魚が好きだ!冬になるし白身魚!カニ!」

 サーシャちゃんが身も蓋もない事を言う。そういや西の海だと魚種が違う話は、地理の勉強の時にしたわねえ。


「ああ、西と東で魚種が違う話とか聞いたかな?とはいえ今回は日程的にちょっと漁港までは厳しいかなあ」

 レンビュールさんの回答に、しょぼんとするサーシャちゃん達。


「今日伺う村ってどんな感じの場所なんです?」

 事前資料によれば、ヘレック村といって、麦の産地ではあるようなのだけど。


「麦各種と芋類、あと山手で蕎麦を主に作ってる、典型的な北西部の農村だね。他の候補地よりも宿が整ってるんで、ここになったんだ」

 麦と芋と蕎麦。なんだろう、なんか一瞬、サーシャちゃんだけ喜んで、年齢制限に引っかかって落ち込むような連想が浮かんだけど。

 あと気のせいか、ドワーフとか一杯いそう。気のせいだと思うけど。


 ふわり、と風魔法の補助によって、殆ど振動も揺れもしない見事な接地で、ワゴンが地面に置かれる。目的地のヘレック村の広場ですね。ハルマナート国もフラマリア国も、緊急時の空路の発着の確保と称して、着陸時の目印だけ刻まれた、だだっ広い広場が設置されている村が多い。

 普段は乗合馬車の発着や、村の朝市やら、行事の時に有効活用されているそうだ。


「おう、着いたか!ようこそ異邦人たち!儂が村長のゴッドンメッツだ」

 降りるなりそう挨拶してきたのは、ドワーフとしてはやや長身の、それでもあたしの肩より低い感じの、髭もじゃのいかついおじさんだ。いやドワーフって見た目では余り年齢も性別も判らんのだけど、この世界の場合。ええ、女性にも髭があるほうです、この世界のドワーフさん。


「はい、お久しぶりですゴッドンメッツ村長。数日間ですが、お世話になります」

 旧知の仲らしいレンビュールさんが丁寧に挨拶している。


「初めまして、ハルマナート国から参りました、エスティレイド・ハルマンと申します。短い間ですがよろしくお願いいたします」

 続けて、一行で一番位階の高いエスティレイドさんが挨拶する。


「ハルマン?ほう、あんた南の龍か。酒はいけるクチかね?」

 挨拶もそこそこに、酒の話をする辺りが、判りやすい酒飲みタイプドワーフさんだな?そしてハルマナート国の王族と知ったうえで、そういう口ぶり。判りやすいドワーフ仕草だな、ドワーフ自体、間近では初めて見たけど。


「生憎あまり得意ではありませんね。貴方方の種族のようには参りませんよ」

 そう答えるエスティレイドさん。あ、これ後半の台詞が重要なやつだな?聞いたゴッドンメッツさんがニヤリとしたもの。


「ほうほう!そうかそうか。だが今日はもう休むのであろう?我が村の火酒たちを味見していくがよかろうよ!」


 そして大人組は全員酒場に連れていかれました。ええ、全員です。あたしと三人組は未成年申告したので許されました。


 サーシャちゃんが付いていこうとしたのは阻止したよ!


―――――――――――――――――――――――――

ワゴンが乗合馬車の胴部分なのは単に入手しやすいからですね。

この村の宿泊施設が整備されている理由?酒好きが寄ってくるからだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る