第201話 アスガイアの遺産。

 秘宝館を一巡した後は、また神殿に戻る。アスガイアからレンビュールさんが持ち出したという、アースガイン神の創った品物の検分の為なので、今度は奥の宝物殿まで。

 いやまあ距離が長いからってまた転移ですっ飛ばされたんですがね。びっくりするくらい周囲の一般人が驚かないんですけど?いや、流石に宝物殿前に一般人はいませんでしたけど、警備の人がクソデカ溜息付いてたくらいで。


「やあお仕事ご苦労!ちょっと客人を連れ込むんで暫く立ち入り禁止で宜しく!」

 軽い調子でケンタロウ氏が警備員さんにそう告げると、また転移。


 転移で出た場所は、宝物殿の中ではあろう、と思うのだけど、ひっそりとしていて、薄暗い廊下の一角。どん詰まりと思しき場所で、突き当りには簡素な扉。そしてその前でいたた、としゃがみこんで頭を押さえているケンタロウ氏。はて?


《……連れ込むって表現がアウト判定だそうですよ》

 溜息と共にシエラが教えてくれた。ああはいお仕置き……


「随分と、巫女ちゃんに過保護じゃないかい……?いやまあそれは置いておいて、この奥が、僕以外の作品を纏めて一時保管してる倉庫なんだ。盗難事件の加減で、ちょっとセキュリティレベル上げてあるから、できるだけ僕から離れないでね」

 そう言いながら、簡素な扉のその隣の壁を押すケンタロウ氏。すると、くるり、とあたしたちの横の壁面が開く。


「またややこしいトラップだなあ」

 サーシャちゃんが何に気付いたのか、そう言いながら、ケンタロウ氏側に歩み寄る。

 ってああ、ほんとだ、開いた側がトラップなんだね、これ。踏み込むとどうなるのか……ああ、滑ってそのまま丘の下の衛兵詰め所の監獄にずどーんと直送?なんでトラップの内容が理解できるのかがよく判らんですけど。


「ややこしいって程じゃないよ、基本基本。皆もこっちに来てね。じゃあ本命開けまーす」

 といいつつ、発動したのはまた転移だ。ただ、今度のは神力ではあるけど、固定の転移装置のようなものらしい。神力が下から来たね……。


「……この警備で何故盗難?が発生したの……?」

 ワカバちゃんが首を傾げている。そうよね、物理的に繋がってない場所に人間が自力で入り込むの、ちょっと無理ですよね?


「いや、盗難事件までは、流石にここまでしなくていいかな、と思って、術式書いたとこで止めてたんだよ。ここまで出入りを制限しちゃうと、整頓とか僕が全部付き合うしかなくなるしさ。実際、地続き状態にしてても、この一件が発生するまでほぼ八百年近く、一回もそんな事件なかったし。

 そもそも盗難といっても、やらかした本人が任務の為って信じて行動してたもんだから、元のセキュリティでは対応できなかったんだよね……」

 認識が甘かったよ、とぼやくケンタロウ氏。


「……意識や認識次第ですり抜けできるとか、大分ガバくね?」

 サーシャちゃんの意見は辛辣。まああたしもそう思う。


《とはいえ、異端審問官としての強烈な契約縛りの下でなお、それを成すって、大概な事ではできないはずなんですよね……一概にケンタロウ様の認識が甘かった、とまでは言えないと思いますわ》

 シエラはそう言うけど。でも一番気を付けないといけないポイントな気はするのよねえ。


「まあ異端審問官がやらかすのは、流石にどこの神殿も想定してないとは思うんだよねえ、君たちはこの世界の審問官の実態を知らないから判らないかも知れないけど」

 レンビュールさんが擁護するようにそう口を挟む。


「一応説明はされてるけど、契約による縛りとかは、正直実感ないとしか言えないな」

 うん、実はあたしがある程度説明はしているのです。少なくとも、サーシャちゃんには知っておいてもらわないといけない気がしたので。


「まあこの世界の異端審問官って特殊も特殊だからね。最初にネーミングした奴吊るし上げたいくらいには、違うそうじゃないってなる奴だし」

 まあ僕がこの世界に来た時にはそいつもう墓の下だったんで手遅れだったけどねー、とブラックな事を述べるケンタロウ氏。


「システム的には、異端が審問する官職、とは言えますかね……」

 そういう意味では単語ごとの意味はあんまり間違ってなかったりするから、タチが悪い。


「……だれうま」

 ケンタロウ氏がぼそっと呟く。別に上手い事言ったつもりはないですよ。



 で、部屋の中を改めて見回すと、成程雑多な品々が積まれている。うん、積んであるんですよね、割と、雑に。

 さっきランディさんがケンタロウ氏に渡していたアイテムは見当たらないけど、纏う雰囲気が似た、割と派手に金ぴかな物がいくつか隅っこに置いてある。その隣にある十個ほどの地味な、なんていうかステンレスを思わせるような金属色のアイテムが、雰囲気からしてどうやらアスガイアから持ち出された物、のような感じがする。


「このへんの……十八個だったかな?」

 ケンタロウ氏が確認するのに、レンビュールさんが頷く。あれ、見た目より多い!


「そうです、ここから、ここまで。まあこちら側からの十一個は、僕の知識にあるタイプの、魔法ありきのアイテムなので、今回は検討の俎上に上げるまでもないでしょう。僕が使い方を知ってますからね」

 レンビュールさんがそう言いながら、半分強のアイテムを除外し、それ以外を手前に寄せる。


 ……いや待って、これを見た目で判定するのは無理じゃないですかね?

 大体が、メーターめいた表示部分っぽいものやランプみたいなギミックがあったりなかったりするけど、基本的に直方体、極めてシンプルな形状でしてね?文字が書いてあるわけでもないしさあ。


「これ、取説とかねえの……?」

 サーシャちゃんも困惑の顔でそんな風に聞いている。いや取説があったらそもそも謎アイテム化はしないのでは?


「あったら用途に悩むなんてしなくていいんですがね。一部は僕でも起動できるんでちょっと動かしてみましょうか」

 一時、アースガイン氏の精神体と契約していたレンビュールさんは、一部を動かすことができるという。そもそもその時に用途も聞いておけばよかったのでは?


「……ガイガーカウンター……?この世界に、要る……?」

 動かした一個目を判定したサーシャちゃんが、首を傾げる。


「天然放射性物質がないわけではないでしょうから……」

 流石にちょっとくらいは、あるよね?半減期数千年単位以上のとかならワンチャン?


「なくはないが、地上にはほぼないねえ」

 さらっとランディさんが回答。ねえそこの真龍、そんなこと知ってる位なら他の物の用途も判るんじゃないの?なんて疑惑が発生中。

 そして二つ目を動かしたら一つ目が反応しました。二つ目これ、放射能発生装置、か?作成者の権能を考慮すると、透過装置?画像どうやって見るんだコレ……いや、あたしの判定と、認識してる個数が違うってことは……?


「あー。これ多分組み立てて運用するタイプの品物だと思います。レンビュールさんの認識してる個数とあたしの技能が判定した個数が合わないので」

 そう指摘したら、レンビュールさんがあ、という顔になった。


「そういえば挙動がおかしいからってバラして、そのあと組み立て直すのに失敗した話を聞いた気がする……?何の話か、当時は判ってなかったんだけど」

 失敗したんだ……?神様も失敗ってするんだ……


 そしてその後想定されるもの全部を組み合わせてみたけど、レンビュールさんが用途を知ってる品物を二つほど追加して、それでもなお部品が足りなかった。画像が出せない。


「部品不足で実際の運用が不可能だけど、多分これ簡易型のCTだな?」

 肝心の画像を処理するパーツがねえけど、とサーシャちゃんがぼやく。


「そうですねえ、簡易型というか、動作制御を神力もしくは魔法で行ってるから、ごついガワが要らないというか」

 そう言うところは、なかなか上手く創られている、という気はする。


「それでも用途不明だったものが、動かないにせよ使い道が判ったのは進歩だよ。ありがとう」

 ケンタロウ氏はそう言うけど、CTの基礎理論は知っていたのだから、実は把握済みだったりするんじゃないかしら。これって、試されたんじゃないのかな、あたしたち。


《ないとは言い切れませんねえ。パーツが足りなくて、自体は本当なようですけど》

 といっても、神様なんてそんなものだからね。しょうがないね。


「部品を作り足して運用可能にしたりはできないのかな?」

 カナデ君がそんなことを質問している。


「残念ながら、神器だからねえ。他の神やヒトが作ったアイテムでは、適合させられないんだ。そもそもこんな風に複数を組み立てて使うタイプの神器自体が希少ではあるんだけどね」

 ケンタロウ氏が、そこまで残念そうでもない口調でそう答えている。


 まあ実際のところ、スキルの〈診断〉とかあると、問診すら不要で、そんなレアスキルじゃなくても、この装置を判定できる程度の、でも動かすまでは無理な程度の医療知識があれば、治癒師の技能の診断でも、割とトンデモな精度で腫瘍も含む病気や怪我の原因、発見できちゃうからなあ。


―――――――――――――――――――――――――


Q:神様も失敗するん?

A:本体ロストなんていう致命的な失敗する奴が創った連中だぞ?当然だろう。

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