第180話 バードストライク!
タイトルが、出オチ。
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ひとりで、海岸線に立つ。目の前に拡がるのは、所々に雲が浮かぶ青空に、白っぽいけど暖色系の砂浜と、穏やかな初秋の青い海。とっても綺麗だけれど、季節的にクラゲとかいそうだな。いや、あたしは泳げないから、水に入るという選択肢は、最初からないけども。
あと近隣に人家はないけど、漁業権持ってる魚人族がいるから、貝掘りはするな、とランディさんに釘を刺されている。いや、やらないよ!?ぶっちゃけやり方知らんし道具もないから!インドア派の極みなめんな!?
えーと、ごほん。
ここはハルマナート国の西岸、民家からも離れた砂浜の一角だ。
三人組の様子を見に来たランディさんに、ちょっと一人で西の海岸まで行きたいといったら、ここに転移された。帰りはサイレンティ君に連絡取って貰う予定。流石に徒歩で帰宅するような支度はしていない。
海を眺めることしばし。お目当てがあたしに気付いて、すいっと飛んできた。頭が一筋黒い、白い鳥。長い二本の真っ赤な尾羽、広げた翼の風切り羽にも、ちょっと黒いところがあるのね。
(おう、お嬢ちゃんか。どうした今日はこんな場所で。もうクラゲうようよで泳げる季節じゃねえぞ?)
くるりと宙返りなど披露しながら、挨拶とも警告ともつかない事を言うのは、パエトーンのケラエノーさん。今は仮契約だけしている中級の聖獣様だ。というかやっぱクラゲいるんだ、この季節の沿岸って。
なお通常のパエトーンは幻獣です。この子とその嫁さんだけ聖獣格なんだそうだ。つまりパエトーンで一番偉い鳥。いやまあ、群れる鳥ではないので、上下関係とかは特にないらしいけども。
「泳げないのよ、あたし。そのうち習うべきかとは思わなくもないけど。今日はあなたに用事なの」
ええ、例の結界ごっちん猟大作戦を、いえ、猟じゃないんですけど。命を狩ってはいけません。本末転倒になっちゃう。
(うん?ああ、仮契約の件か!速度勝負って訳じゃなさそうだから、捕獲勝負かい?
ルールはおれさまが飛び出してから三分以内の捕獲で、手段はまあ、おれさまが確定で死ぬようなもんじゃなきゃ、何でもいい。あんまり殺傷力の高い手段はやめとくれよ?火魔法ぶっぱされた時は流石に相手を伸したが、お嬢ちゃんにそんな乱暴は働きたくねえからな!)
うわあケラエノーさん意外とえぐい目に遭ってた。いや返り討ちにしてるんだから、きっと本鳥は無傷で逃げ切ったんだろうけど。
「そもそも火は適性ないから安心して。あらかじめ開示しておくけど属性は光と風がメインよ」
水は相変わらず極小のままです。〈湧水〉はそれなりに使うようになったのだけど。
(ほー、光が真のメインか……まあ良い、今すぐ開始でいいか?)
自慢げな顔で、ケラエノーさんが言う。いやあほんとにこの子、鳥なのに表情が凄く、判りやすい!
「いいわよ、貴方のタイミングで飛んでくれればいいわ」
準備はもう、できていますからね。
(おうさ!じゃあいくぜ、三、二、一、行くぜっ……ぐあ!)
スタートダッシュのその瞬間に、無詠唱で物理結界。盛大なごちん!という音と共に、ケラエノーさんが落っこちる。はいごっちん猟完了。速度が完全に乗っちゃうと、このやり方でも首の骨辺りをやらかしかねないので、初速がきっちり載る寸前を狙ったけど、それでも意識が飛んだようだ。大丈夫、死な安死な安。正直ちょっと冷や汗かいたけど、治癒師の技能は命に別条はないよ、と言ってるから、うん。
脳震盪を起こして、翼を半分畳んだくらいの、無様にひっくり返った状態(これはこれで、妙に愛らしい)で砂浜に落ちたケラエノーさんを掬い上げて、〈治癒〉をかける。
(……お、おう……何があったかはおいといて、あんたの勝ちだな……改めて、おれさまはケラエノー。今後は正式にあんたの召喚獣として働こう)
意識を取り戻して、ぶるぶる、と頭と身体を振うと、そう述べるケラエノーさん。いやあすまんね、反則技に近いけど、そこまで危ないことはしてないよ、多分。
「ありがとう。速度的にあんまり待つと本格的に危険だから、初速載る直前を狙わせてもらったわ。あと真似されると困るから、移動担当者に人気のない所を選んで貰ったけど」
流石にこのやり方連発されたら、禁じ手に指定してきそうだしなー。
(ああ、配慮は助かる……とはいえ、あのタイミングで無詠唱で完璧におれさまの飛ぶ方向に結界を張れるって、そう簡単にできる事じゃ、ねえだろ?)
自分を落としたそれが結界術だったことには、ぶつかった瞬間に気が付いたらしいケラエノーさんがそう返事をしてくれる。
「そうねえ、確かにマスターではあるわね、結界術」
うん、飛ぶ方向じゃなく、あなたの周囲全方位に、球形に座標固定で結界を張ったんだ、というカラクリはばらさないでおきましょう!
《正直、それができるのは現状貴方位じゃないかと思うんですよね……》
シエラからのツッコミ。いや流石にもう一人二人くらいは結界術マスター、いるんじゃないの?知らんけど。
《マスターしているからといって応用に長けているとは限らないのですよ。結界術マスター自体は地元の民にもそれなりにいますけどね、結界術は、需要は常にありますから》
ただ、儀式結界が主流なので、あたしのように雑にあっちこっちに単体で結界を張る、なんて人があまりいない、そうだ。そ、そっか……
なお実際にはトップスピードで、仮に何かにぶつかったとしても、高速時には風魔法の防護を展開してるから、脳震盪すら起こさんらしいよ。そういう意味でも初速狙いは正解だったみたい。
まあ、そんな激突事故なんてやらかしたことなかったけどな!とケラエノーさんは胸を張っていた。うん、なんか、すまん。
(ところでよ、あの金髪小僧、おれさまの初代の主を最近見ねえが、何処にいるか知ってっか?繋がりもあるんだか、ないんだかって感じで、よく判らねえことになっちまってるし)
ケラエノーさんが言うのは、当然カル君だろう。そういえば神罰のせいで召喚術も制限されてるから、直接確認もできなくなっちゃってるのね。
「カル君の事なら、今はサンファンにいるわ。諸事情であそこの神罰のあおりを受けてしまってて、一時的に召喚術が制限されてるから、繋がりが辿りづらいのはそのせいね」
説明を全部すると割と長いので、端的に、簡単に説明する。
(また難儀な事になってやがるなあ。まあ神罰の縛りがあるってんなら、逆に無茶はしねえか。あいつはどうも昔っから、自分を大事にしなさすぎるからなあ)
以前より思うところがあったらしく、ケラエノーさんが心配顔になっている。というか神罰の縛りを抑止力扱いって、カル君どんだけ無茶すると思われてんだ!?
……いや、めっちゃ心当たりあるわ、ありまくるわ、その通りだわ。自分の生命線たる鱗を自分でカチ割った男だったわあいつ。
(……なんか、やらかしてたんだな?)
思い至った事実に思わず固まったあたしの表情を見て、ケラエノーさんがそう言うと、でっかい溜息を一つついた。鳥の溜息とか、レアなものを見た気はする。
「あー、ええ。ほら、飛べなくなったでしょう、彼。その時に結構命に係わる無茶してたのを、思い出しただけ」
そういえば、この熱帯鳥に最初に会ったのは、アスガイア行きの時だから、カル君が飛べなくなったのにびっくりしてたっけ、ケラエノーさん。
あたしがいなかったら、彼は鱗を割った時に死んでいたんだろうと、それはあの時にもはっきり判っていたけれど、今思い出すと、本当にぞっとしないわね。
(あー、まあ、そうだろうなあ……最初に会った時から、なんつーか自分の命を軽く見てる奴だとは思ってたが……)
思わず慣れない説教なんかしちまったけど、効いてなかったしなあ、とケラエノーさん。
(結局勝ち逃げされちまったなー。まあサンファンから出れば、また呼ばれる日もあるんだろうが、なあ。
そうだな、たまに奴の近況なんかも、教えてくれれば、ありがてえな。契約もしちゃいるが、おれさまには数少ない友人ってやつだからな、あいつは)
ああそうか、彼もカル君の空仲間なのね。ほんとあの人、空好きにはとことん好かれるのねえ。
近況報告はすることを約束して、ケラエノーさんとは一旦別れた。
よし帰るぞ、と、サイ君に、ランディさんに連絡取って貰ったら、なんか取り込み中だからって一人で帰るミッション発生してちょっと涙目になったけど。
幸い徒歩半日かからない距離に村があったのをサイ君が見つけてくれたので、そこから乗合馬車で帰った。ウェストポーチと日常遣いのお小遣い持ってて、本当に良かった……
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