第111話 想定外の影響。

同時更新の2話目です。新着からの方は一つ前からどうぞ!



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 うーん、なんかが、おかしい気がする。いくら完全無欠の被害者側だったからといって、ここまでジャッジ、甘くなるもんだろうか?

 あともう一つ気になるのが、妙に顔立ちがサクシュカさんの龍の姿に……あああああ!!あれだあああ!!!


「ねえ、麒麟くん、御守り、どうした?」

 名前を知らないままなので、種族名で聞いてみる。流石にもう仮の名では呼べない。


【あんなままのおまもり?あれ?あるけど、ないな?】

 うわあやっぱりか!


【御守り?何のことだ?】

 朱虎氏が首を傾げる。まあ彼はあの事は知らないはずだもんね。


「鳥と虎さんに質問です。この子、親とどのくらい似てますか、主に顔」

 取りあえず、あたしも確信は持っていないので、質問で返す。


【む?……そう言われてみると、随分と趣の違う顔立ちだな?】

 朱虎氏は曖昧な表現ながらも、違う判定。


「えーと……あれ?なんか龍の人の誰かの顔に似て、る?」

 カル君を通じて龍の王族の面々も大体顔くらいは知っている黒鳥の方は、微妙に心当たりのある顔になった。やっぱそうだよね?


「え?あれ?そう言われてみると、龍の時のサク姉に、似てる?なんでよりにもよってサク姉?」

 黒鳥に言われて麒麟くんを見たカル君も、久々にサクシュカさんの呼び名を出して、首を傾げる。

 まあでもそうね、カル君までサクシュカさんに似てる判定を出したのだから、これはもう確定でいいだろう。


「その子、サクシュカさんがアンナさんにあげた御守りの半分を、持っていたのよ。サクシュカさんが、自分の鱗で作った物をね。どうやら、それを取りこんじゃったみたい」

 恐らく、それが神罰回避の最終的な決定打だったんだろう。今の麒麟くんは、ハルマナートとの、というかサクシュカさんとの繋がりも、完全にできてしまっている。まああまり強いものではないから、再度敵対するなんてことでもない限り、気にしなくても、直接の影響はないんじゃないかな、とは思うんだけど。


 あたしの説明で、聖獣ふたりとカル君が、うへえ、って顔をして、それぞれ顔を見合わせた。


「そんなの持ってたのか、全然気づかなかった……」

 がっくりと落ち込む黒鳥。残念ですが、これは君の確認忘れ、パーフェクト落ち度だと思います。


【龍の鱗を取り込むとか、アリなのか……だが確かに、本来ないはずの属性がある、な?】

 朱虎氏が困惑している。聞けば、本来の属性は光と土なのに、なんか氷が見えるそうだ。

 言われてあたしも確認する。わあほんとだ、光特大土大氷極小だわぁ。


「えぇ、サク姉の氷って極小なのに、それが付くんだ……?」

 カル君が呆れたような声。だって風は本来の属性の反属性だから付かないじゃない。あとは光と水だけど、ってそうか、水が付くほうがまだ納得いくのか、属性力のランク的に。

 ちなみに儀式の時の雷は、儀式そのもので発生させるもので、術の行使者の属性は関係ないんだそうだ。よく外国人のあたしたちにそんな情報開示するなあって思ったけど、こんな情報程度で返せる恩じゃないからいいんだよ、って真顔で言われた。そっか。


「見たところ特に実害はなさそうに見えるから、問題ないのではないかね?」

 ランディさんは軽い調子でそう言う。まああたしもそう思うんだけど、ね。


「そうですね。うっかりハルマナート国とまた敵対、なんてしなければ、大丈夫じゃないですかね?」

 思った通りに発言したら、元守護聖獣二人がぶんぶんと首を横に振った。


「しないしない!これ以上そんな無茶、できるわけない!」

【流石に次はない、そのくらいは理解してっぞ!】

 口々に否定の言葉。まあそうですよねー、普通ならねー。


【てきたいとかーしないよー、りゅうのみんなもすきー】

 ああ、麒麟くんはそうだよね、城塞に来てた龍の人たち、ほぼ全員、君の頭撫でたことあるもんね!


 その日は結局そのままそこに留まることになった。儀式が夜じゃないと、ってことで夕飯後だったからね、しょうがないね。


 麒麟くんがコテージに入るのを嫌がったので、今日はテントで完全キャンプ仕様でおやすみなさい、だ。

 そうそう、夕飯の時には、これも自称勇者様から貰ったのだというバーベキューセットとか出てきて、思わず笑ってしまったのよね。

 でも、ああ、うん、そうね。病気に掛ったばかりの頃には、憧れていたわね、野外でのバーベキュー。楽しかったです!



 翌朝起きたら、割と面白いことになっていた。

 サンファン側の野草が、妙に伸びている。うん、丁度昨日麒麟くんがぴょこぴょこ跳ねてた辺りね。マッサイト側には、特に何の変化もない。


「ほほう、こんなに違うのか」

 ランディさんが感心したような声を上げて、草を観察している。隣で黒鳥もへー、とか相槌を打ちながら、伸びた草に見入っている。


「んでこの後の予定はどうなってるんだ?麒麟連れて王宮?」

 カル君は次の予定の確認。ってこれ誰が予定把握してるんだっけ?

 ああでも、あたし個人というか、現在のあたしの職務としては、確かここの国神はシメなきゃいけなかった、ような?


【うむ、可能ならそうして頂けるとありがたい。実を言うと、昨日始末した連中が呪詛をかけていた相手は、うちの王族達なんだ。今戻れば、誰かは生き残っているやも知れん】

 おいいいいい?!なんでそんな重要な事を昨日のうちに言わないの!!あ、でも術者が死んだ時点で呪詛自体は解除されてた気はするな?


「また随分と突き放した物言いだな。見捨てるつもりだったのか?」

 カル君が久しぶりに、なんだか鋭い眼で朱虎氏を見ている。


【ああ、そうさ。国神共々な。今代の王は辛うじてまともな方だったが、代々の奴らのしたことと言えば、異世界からの無茶苦茶な召喚、一部亜人の殲滅、獣人への無意味な弾圧、挙句呪いで全滅寸前で、単純馬鹿の勘違い野郎な宰相を野放しにしちまって、その結果が侵攻による神罰ときたもんだ。

 呪いに関しては、奴らの咎という訳ではないが、それを置いておいても、この期に及んですら、国神めも声ばかりで、一向に姿を現さんというのだ。流石に愛想が尽きた】

 守護聖獣たちは、異世界からの召喚はもうやめておけ、と何度も警告していたらしい。それは以前黒鳥にも聞いた。あいつら、俺らが獣だからって全然言うこと聞かねえ、とも言っていた。

 まあ人族至上主義あるある、ではある。アスガイアも神罰前は守護聖獣こそ居ないけど、割と他国とかの警告とかはねつけて逆に人体実験やら異世界召喚術の研究やらに邁進するとか、そういうとこだったらしいし。

 うん、ランディさんが結構古い異世界召喚実行国の実態調査をまとめた本を持っていて、見せてくれたんだよね。内容ですか?ぶっちゃけ、割と、酷かった。とだけ言っておく。


「んー?朱虎もついに義理をぶん投げる覚悟、決まった?」

 黒鳥がからかうような物言いで、朱虎氏に声を掛ける。前からそういう話もしていたんだろうな、という口ぶり。


【流石に、俺たちがこうで、蛇があの様だとな、確かにもうどうしようもねえ。坊ちゃん以外は、俺らも含めて、総とっかえするしかなかろうよ】

 腹を括った、という心境がスキルのせいで流れ込んでくる。ああ、こいつ、本気なのね。


「だよなー、俺も付いていければいいんだが、ってあれ?」

 何かに気付いた、という顔で言葉を途切れさせる黒鳥。そして、カル君を見る。


「何これ?」

 端的な言葉。それだけで、通じるのか。


「ん?俺が見てくりゃいいかと思ってたが、流石に国内の事情までは判らんからな。お前も来れるなら、そのほうがいいだろ?」

 見ると、黒鳥の首に、何か、かかってる。ぶら下がっているのは、金色の、鱗?


「なんだこれ、坊ちゃんのお守りと似てるけど」

 掛けられたものをつまんで、頸を傾げる黒鳥。

 ああ、見たことが、あるわ。あたしはこれを知っている。かつての、龍の姿を取れた頃の、カルセスト君の、鱗、だ。


「昔サク姉が作ってたのを見て真似して作ったことがあってさ。壊れてるんじゃないかと思ったけど無事だったから、貸してやる」

 ふふん、と自慢げな顔でそんな風に言うカル君。何処に隠し持っていたんだろう。格納は自分じゃアクセスできないって言ってなかったっけ?それともあれ、ブラフ?


「うーん、流石にこの先は、私は遠慮した方がいいですよねえ」

 ここまで黙って何かを考えていたフレオネールさんが眉を寄せる。時々忘れそうになるけど、そういえばフレオネールさんってガゼルの獣人さんなんだった。耳も尾も小さいから目立たないんだよね。


「そうだなあ、レオーネさん獣人だもんなあ、流石にこの先は安全が保障できないなあ……」

 黒鳥もフレオネールさんの事は結構好きだと公言していて、心配顔だ。


【んー?居残り組が出るなら、そっちに付き合うぜ?俺はどう頑張っても入れねえからなあ】

 朱虎氏がそう言うので、お言葉に甘えることになった。と言っても、フレオネールさんもまあまあ強い人なので、それなりにこの近辺の様子見はするつもりのようだ。

 この方面は人家もないから、そうそう逃げてくる人はいないかもしれないけど、と笑ってたけど、逃亡者がいたら保護するつもりなんだろうな。

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