第109話 まさかの魔法、まさかの出番?
同時更新の2話目です。新着からの方は一つ前からどうぞ!
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『荷物』の始末と、解放の儀式は夜の方がいい、ということだけど、流石に今からコテージを出すほどでもないな、というので、テントを張って、簡単にお茶の支度をした。
あ、今日は焚火でお湯を沸かす、普通のアウトドアティータイムですよ。
そういやこの世界、珈琲も見ないな。やっぱ温度か?温度のせいか?
《え?カフワでしたらメリサイトにありましてよ?マイナーな飲み物ですけれど》
あるんかーい!ああでも確かに炎熱神の加護でクソ暑いメリサイトの砂漠近縁なら、珈琲も胡椒も作れそうではあるわねえ、いや、水が足らんか?
《そうですね、貴方が想定している品種だと水が足りなくて育たなかったそうです。カフワは運よく水が少ないエリアでも育つタイプのものが異世界のどこかにあったそうなので、細々と作付けされていますけど、輸出するほど育てる余裕がないのですよね》
成程、それで訳語が違うのか。で、メリサイト行けば飲むチャンスはあるな?
いや、あたしそんなに珈琲好きじゃなかったわ。落ち着け。
【なに無言で百面相してるんだ、おもしれー女だなあ】
とらにツッコミ入れられたでござる。うぐう。
「たまにやってるよね、何考えてるのかわかんねえけど」
カル君まで便乗してきた。君だってちょいちょい表情変だったんだぞ、最近はそうでもないけど。
「いや、異世界以下略って塩と胡椒とカレー辺りが定番チートだけど、人類圏がギリ亜熱帯かどうか、っていうこの世界だと胡椒とかマサラの元育つとこあるかなーって考えてた」
実際に考えてたのは珈琲だけど、敢えてカレーを出してみる。『自称勇者様の冒険』でもカレーが手に入らない話があったから、通じると信じてる。
「あー、自称勇者様シリーズにありましたねえ、カレー。温度が足りないとか」
フレオネールさんが真っ先に反応した。そうよね、移動時間の八割、本読んでましたもんね。
「あ、その本知ってる。国によって結構収録エピソードが違うんだけど、カレーの話は全部の版に入ってるんだよなあれ。異世界人どんだけその辛い?奴、好きなの?」
まさかの:黒鳥が知ってた。というか国によって、ってそんなにあちこちで本読んでるのか、君。
そして辛いに疑問符が付いているな?もしかして、君、味覚も鳥か?辛味無反応か?ああでも翼人のフェリスさんもそうだったし、充分ありそう。
「好きな人は好きらしいですね。あたしは食べたことないですけど」
刺激物は!禁止だったのよ!なので、珈琲は発病前にちょっと飲んだだけだし、カレーも……あれ?いや待って?カレーって小説と漫画とゲーム以外で見たことないぞ?家でも、ちょっとしか行けなかった学校でも、出た記憶、ない。VRゲームには存在したけど、味覚は再現不可だったしなー。
前者は親も同じ病気だったから、だろうけど、学校で出ないとか、あるだろうか?ええと、知識検索で……うわあ、架空の食品カテゴリになってる!?
「なにびっくり顔で固まってるんだ」
カル君が不思議そうな顔でこっちを見ている。
「いや、どうもあたしの元の世界、カレー、現物が、なかったみたい?あたしの中では、架空の食品枠になってるわ……」
衝撃の事実。しかしだとすると、元の世界のフィクション中のカレーの概念、何処から来たんだこれ?やっぱりお他所の世界から?いやいやまさかそんな?
「ほほう?興味深い話だね。確かに異世界というのも一律ではないのは我々にも知られている話ではあるが、魔法のない、もしくは薄い文明でカレーがないとは初耳だ」
ランディさんが身を乗り出してくる。好奇心旺盛だなあ。
「どっちかってーと、あっちこっちに違う異世界あるのに、圧倒的にカレーが存在する、って方が怖い」
そ れ な 。思わず黒鳥の発言に頷いてしまった。
「まあどちらにせよ、元の世界だとあたし病人だったから、辛いものはだめね、食べられなかったはず」
黄色くて辛くて、香りが食欲をそそる、だいたいごはんに掛けて食べるもの。そのくらいしか、判らないなあ。といいつつ、詳細なカレー粉のレシピが何故か知識枠にいるっていう謎な!
《謎ですねえ確かに。というかこのカレー粉のレシピ、わたしも見たことがありますから、同じ異世界から流れたレシピなんじゃないですかね?》
それこそ自称勇者のとこから流れてきたとかかなあ。レシピの出所までは、判んないや。
「まあこの世界は、異世界人の一部がとみに愛するというコメというものも、ないからね」
ランディさんがにやりとして言う。そうらしいわよねえ。
「ああ、『カレーも無ければコメもない、なんて悲劇だ!』でしたっけ」
どの国の版の『自称勇者様の冒険』にも、必ず出てくるという台詞を、フレオネールさんが口にして、ランディさんと鳥小僧がそれそれ!とウケている。ああ、なんだかすっごく平和な光景ですね。この後割とえぐいことするんだけどね。
【しかし、蛇をハブると、流石に半数か。うまくいくかねコレ?】
地面にがりがりと棒で魔法陣の大きさ基準になる丸を書きながら、朱虎氏がぼやく。なんだここにきて準備不足なの?
「どうせ境界の件があるから、それは今更だろ?問題はそれ以外にもあってなあ、見てよコレ」
おもむろにカル君の格納から、例の毛皮を取り出す黒鳥。うん、ほぼ半分黒いね……
カル君がまた妙な顔をしているけど、格納魔法って他人に弄られると妙な感覚でもあるんですかね?いや、そもそも他人が弄るとか本来ありえないらしいんだけどさ。
【え?なんでお前他人の格納弄れてんの?どうなってんのそれ?ああいやいかん、今はそうじゃないな、ほぼ半分か、厳しいなコレ……】
あちゃあ、という雰囲気になって、毛皮をまじまじと見つめているらしき朱虎氏と、そうだろ?としょんぼりする黒鳥。
「その染みって瘴気に近い性質のようだけど、祓えないのかな?」
ランディさんがあたしの方を見る。
「浄化というのは、本来正式の巫女じゃないと使えない技能なんで、あたしの現状では、祓うのは無理ですねえ」
今は巫女というより、裁定者として動いてるっぽい上に、正規契約も、仮契約もないので、浄化技能はグレーアウト状態だ。いや、技能を視認できるわけじゃないけど。
【むう、てっきりできるもんだと思っていたが、アテが外れたな……】
朱虎氏ががっかりしている。すまぬ、すまぬ。まだ修行もあんましとらんのよ、あたし。
というか、あたしそんな事を君たちにアテにされてたのか、初耳だよ!
「……これをどこかに移す、ってことはできないか?」
唐突にカル君がそんな事を言い出した。瘴気を移し替える?そんな手段あったっけ?
〈要請確認:ターゲットの状態確認中……・・・の仕様確認//結論:〈コンバート〉使用可能、呪詛返しと同等手法として再分類〉
うぉ、今度は検索ベース君の方が出てきたぞ。ってコンバート?あれで、呪詛返しの応用??
呪詛を返すことはできる。で、今の毛皮に染みついているのは、呪詛とかに使った時に発生した瘴気が染みついたもので、呪詛の結果とみなすことは、可能。
『荷物』を見る。うん、術者としての繋がりは、ある。
こいつら、最初から呪物にするために、ライゼル本国の後押しを受けて、麒麟を狙ったのね。なるほどなるほど?
「……そうね。そこの『荷物』になら移せると思うわ。呪い返しの応用ね」
実際に使用する魔法は〈コンバート〉になるけれど、まあやることは呪詛返しで、確かにそれであれば、巫女の仕事で、間違いない。
「おー?理屈は良く判んねえけど、禁忌に触れるとかじゃなくて、できる?」
黒鳥が微妙なところの心配をしてくれている。まあ気になるのは判らなくはない。
「呪詛を術者に返すのと、本質的に同じだから、普通に神殿でもやっていることよ。禁忌でもなんでもないわね」
ちょっと、変則的ではあるけどね。
《いやいやいやいや?普通はできませんよ?神殿でそんなこと頼まれても、困っちゃいますよ?確かに禁忌には引っかかっていませんけど!》
例によって検索ベース君に押しのけられていたのから復帰したシエラのツッコミ。まあ禁忌じゃないなら、問題ないんじゃないかしら?検索ベース君も、そもそもそういう禁忌に引っかかる場合はやらせてくれない感じだしね。
「普通はこの状態を神殿で返すのは無理じゃないかね?」
はいランディさんからもツッコミ、頂きましたー。
「ええ、普通には無理ですね。なんで、
さっくり普通と違うことをするよ宣言はしておこう。他の神殿の皆様に無茶振りが行くような迷惑をかけては、いかんのです。
正直隠し玉だから、以前だったら絶対、黒鳥の前では使わなかっただろうけど。
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