第107話 山道辛い。そして新魔法。

同時更新の2話目です。新着からの方は一つ前からどうぞ!


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 案の定、あたしが足を引っ張ることになりましたよ、山下り!

 山なんて初めてですから!シエラも流石にこの標高は未体験ゾーンだそうで、早々に息が上がってしまったというね。うん、結構標高が高い場所だったんだ、最初に出た場所。

 位置としては、サンファンとの国境を望んでいるけれど、マイサラスにも結構近い辺り。ちょっとばかり遠くに見えていた、山頂が白く輝く山が、もうマイサラス領なんだそうだ。


 おまけに、結構道が悪いというか、ギリギリ獣道っぽい所を降りていたら、見事につんのめって、軽く足を痛めてしまって、おんぶされております。まさかのフレオネールさんに。

 ええ、男子全員に遠慮されました。おのれ!そこまで重くないわよあたし?!


《問題はそこじゃないと思います》

 シエラのツッコミが冷たい。判ってるわよそのくらい……言ってみたかっただけよ……


「カーラさんは軽いですねえ」

 楽しそうにフレオネールさんが言う。いや待って?あたしを背負っても、全然速度変わんないんですけどこの人?!


「流石レオーネ、兄弟とか従妹とか一杯背負ってたもんな……」

 カル君がそんなことを言いながら、軽く引いている。引くとか失礼だな君?


「ひいおばあちゃんも背負いましたよー。こういうのはね、コツがあるんですよ」

 引かれたことを気にもせず、にこやかに返すフレオネールさん。慣れてんな?

 まあカル君も城塞近くの村には割と顔出してたっぽいし、フレオネールさんも城塞によく来てたから、顔見知りよりは知り合いって感じで、慣れてるんだろうな。


 それでも、城塞周辺の村あたりは、せいぜい丘陵地、と言える程度の、起伏の少ない土地柄で、山道は慣れていないよね、ということで、今日は早めに休もうということにはなった。カル君はあちらこちら出歩くのも仕事だったから、山道も然程苦ではないらしい。聖獣組と真龍様は、言わずもがな。

 と思ってたら、リンちゃんも足をひねってしまった。まあ自分以外には治癒掛けて治すんだけどね!


 夜、例によってコテージに引っ込んでから、ジャッキーを呼び出す。いや、モフりたいわけではない。モフりもするけどさ、もちろん。


(おう、どうしたマスター久し振りじゃん?ってあー、足捻った?)

 幻獣でも治癒持ちは、やっぱり体調を見抜く系の技能があるらしく、ジャッキーは現れた途端にあたしの異変を察してくれて、手早くくるりと形成される魔法陣。

 うー、やっぱり掛けてもらう治癒はサイコーだけど、有り余る魔力が空しい!ほんとこの自分にかけられないクソ仕様、どうにかならんのですか。ならんからこその現状ですよね、ハイ。


「はー、癒されるぅ、ありがとジャッキー。ほんとこの自分に治癒とか掛けられない仕様、どうなってんのかしらね」

 お礼代わりに気持ちよさそうなところをモフってやりながら、ぼやく。


(なんかね、昔異世界から来た人が、自己治癒しながらなら龍でも倒せる!とか豪語して、ほんとに真龍倒しちゃったらしくて、それから禁止になったんだって。サリム先生が言ってた!)

 うわ、マジか。ほんとに死なない無双の結果禁止されたのか。うへえ。


(おまけに人族が使える治癒魔法の効果も同時に落とされたらしいよ。だから幻獣のほうが治癒系の魔法が豊富なんだってさー)

 詳しく聞いたら、なんと、状態異常回復系の魔法や、中級の光や水の攻撃魔法も、その時に削除されてしまったんだそうだ。創世神のジャッジだそうだけど、やることが、雑!

 そして、一度削除されてしまった魔法は、類似の性能のものを創りなおすことが、もうできないんだそうだ。その仕様自体はまあしょうがないかな、と思わなくもないんだけど、代替手段くらい用意すべきだと思うんですよねえ?

 せめて、病気に対する抵抗性を上げる魔法とかあればなあ、と思う訳ですよ、今回の旅のここまでを振り返った感想ですけども。


(んー?そういう魔法は幻獣式の治癒系列には、多分ないよ?そもそも治癒魔法じゃない気がするから、んーと?)

 ジャッキーが耳を片方ぱたり、と倒し、首を傾げてそう言う。うわああざとかわいい!じゃなくて!ないの?!

 ああでも健康管理だから治癒の領分だと思ってたけど、確かに抵抗性を上げるだけって、どっちかといえば護法の領分だわね?


《魔法式を計算しますか?ってシステムが》

 あれ、直接検索ベース君が介入するんじゃなくて今回はシエラ経由?まあいいわ、答えははい、一択だ!


《はーい、計算できたそうなので、お出ししますね》

 するっと魔法陣構成が頭に流れ込んでくる。これもシエラが制御しているらしくて、いつもより流れ込み加減が、優しい。


「ふむ。キーワードは〈抗体強化〉、か」

 取り合えず魔法陣を構成してみる。うん、システム君謹製の魔法陣にしては、無駄があんまりないね。ある程度の遊びはあるっぽいから、カスタムすることもできなくはないけど。

 ちょい、とジャッキーに掛けてみる。


(お、抗体系魔法!これ、護法だったんだねー、マスター使えるんだ?)

 種別も判るということは、聖獣式にはある魔法なのね?こっちは今作ったとこだけど。

 ジャッキーは判別はできるけど、使えないんじゃないかな、という回答。属性力が足りないか、護法の適性がないのかは、ちょっと判らない。まだ幼体だから属性力はまだ増えるみたいだし、育ってからもう一回使えるかどうか確認して貰うかな?


《問題ないですね、ライブラリにも登録されました。光護法中級だそうです、サクシュカリア様には使えない可能性が高いですが、マリーアンジュさんが使えそうですよ》

 そうか、聖女様は治癒以外の適性ないからだめで、サクシュカさんは種族特性で護法が基本使えないからだめか、難しいなあ。

 そういやカル君、種族地味に変わったから使えたりしないだろうか?いやだめか、光は相殺され中で無効化されてるな、確か。

 その前にランディさんがこの種の魔法を知ってるかどうか聞くところからね。



「ほうほうほうほう!〈抗体強化〉!我らには必要ないので研究されていない分野だが、これはいいな!」

 コテージには共用部分と、ツイン仕様の寝室が二つ、それに簡単な台所とシャワー室、あとトイレがついている構造。

 共用部分で何か書いていたランディさんに魔法を見せたら、見事な喰いつきだったという次第です。真龍は病気にならないそうで、特に必要ないから、と、研究されてこなかったテーマだったそうだ。人との関わりが多いランディさんですら考えもしなかったそうだから、他の真龍たちは当然そうなるよねえ。


「あれ?我ら式のライブラリに、あるな?誰が作ったんだコレ?」

 あたしの魔法を解析して、真龍式に翻案したところでランディさんが首を傾げる。

 そうか、真龍もライブラリを認識してるのね。でも人族用のそれとは別物、と。

 ちなみに人族の場合、魔法ライブラリそのものを認識している人は、殆どいない。但し、あたしも含めて異世界人はライブラリの存在を程度の差はあれど、認識しているのが基本だそうで、その概念だけは現地民にも知られている、というのが現状らしい。

 あたしの場合、書庫の魔法――最近は通称検索ベース君――経由ではあるけど、実質アクセスし放題らしいので、そういう意味でもこの魔法、地味にチートだな?


「人系の少数部族を保護している真龍さんがいるって前に聞きましたから、その方あたりでは?」

 恐らく、真龍側で需要があるとしたら、そこらへんくらいなもんだろう。


「あー、あやつか。確かにありそうだ。まあ人族が使えるようになったのは重畳だな。魔法陣式を教えてもらえるか。奴の所の人族にも使えるものがおるやもしれん」

 特に面倒ごとの起こるタイプの魔法ではないはずなので、素直に教える。むしろ今までこの魔法がなかったのが不思議なくらいね。


「ああ、我らのライブラリのほうに但し書きがあるな。乱用すると本来の抵抗力が落ちるケースがあるそうで、悪疫発生時以外に使うなとある。あいつらしいマメさだな」

 普通はライブラリの方にそんな但し書きなんぞ付けないそうだ。まあそうよねえ。むしろそこに但し書きができる、ってのにびっくりですわ。

 あたしもそれに倣って、ライブラリならぬ魔法陣書式の写しにはその旨を書き込んでおく。

 うーむ、それだと多分マリーアンジュさんより、もっとしっかり医療知識のある人に覚えて貰う方がいいのかも。まあ今そういう知り合いが人族にいないから、今後の課題ね。


 この世界の人も、異世界人も、魔法には割と即効性と見た目での判りやすさを重視する傾向があるので、抗体強化や、回復のような地味な魔法群って、あんまり注目されてきてなかったみたいね。うん、なんとなくだけど、この魔法、作ってはみたものの、あんまり普及する気がしません。

 予防は大事だけど、おろそかにされがち、なのは、どの世界でもあまり変わらないのかな。


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 流石に人族用ライブラリに但し書き付けても、そもそもそこを読める人がおらんので機能がオミットされてるとかいう話。

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