第四部 サンファン国編

第106話 国境を見下ろす視点。

 そういえば称号回がないな、と思ったけど作中でチェックしてる暇がないうえに2つ微変更だけだったからまあいいよね。

 という訳で本日より第四部であります!次話も同時更新!

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 ランディさんの転移魔法で出現した先は、なんだか微妙に寒い場所だった。

 なんだここ?隣に見える山、雪が見えるぞ??


「いかん、高度と季節の事を忘れていた。ここはまだ初春程度の気温だったか」

 ランディさんがそう呟いて、風の魔法であたしたち全員を包む。おお、ぬくくなった!


「……これ、もしかしてマルム山?結構な標高だよねここ」

 くるりと周囲を見渡したレン君が嫌そうな顔でそう言う。カル君もうわ、って顔してるけど、場所は判ってそうな感じ?


「流石にそなたらは知っているか。そうだよ、マルム山の山頂から、ちょいとばかり下がった辺りだ。我もここより先にはあまり踏み込んだことがなくてなあ、座標を設定できんのだ」

 特に悪びれた様子もなくランディさんがそう答えている。まあできる範囲で一番近く、という要件は満たしてるからね、しょうがないね。

 それに、最初に感じた寒さは、ランディさんがちゃんとシャットアウトしてくれている。

 夜はコテージだろうし、まあ大丈夫だろう。

 問題があるとすれば、この山道を降りていくのに、あたしがちゃんとついていけるかどうか、かなー。


 現在のメンバーは、ランディさん、あたし、カルセスト君、黒鳥のレン君、麒麟のリンちゃん、フレオネールさん。それと『荷物』がふたつ、だ。うん、既に全員から、人間扱いされてない。

 にんげんってざんこくだなあ(棒読み)。いや、因果応報ってやつなんだけどね?


「あー、此処なら虎、呼べるかな」

 レン君がそう言うと、何かの魔法を発動させた。連絡とか通信、風系の魔法だけど、聖獣式は判らないわねえ。

 暫くして、返信らしき魔力が見えた。それを受け取ったレン君の表情が、酷くがっくりした感じに見えるんだがどういうこと?


「せめて山は下りろってさ……あいつ図体でかいから、ここまで上がって来れないらしい」

 しょんぼり顔でそう報告するレン君。


「図体?化身できればどうにかなるのではないのかね?」

 ある程度サンファンの守護聖獣たちの事も知っているらしいランディさんが首を傾げる。


「実は、完全に化身できるのは、今は俺だけなんだ。虎も蛇も、神罰の楔のせいか、化身と本体の中間みたいな、半端な格好で固定されちゃってて、どうにもできない。顔も取られちゃってるし」

 レン君が不思議な事を言う。前半はまあなんとなく判るけど、顔を、取られる?


「お前には俺の姿を貸してるから、化身できているんだと思うぞ。じゃなかったら、同じように半端になりそうな感じがこっちでもしている」

 カル君がそう言うのに、ああ、とレン君も納得顔になった。


「あとそれで今気付いたんだが、リンのこの姿も、白狼の化身の姿を借りてるんだな、これ。白狼の本体の居る場所も、リンには判るんじゃないか?前に行方不明とか言ってたけど」

 カル君がそう続ける。そう言われてみれば、白い狼の獣人、の姿だものね、これ。


「うん、おおかみ、おうちにいるよ」

 そして素直にそう答えるリンちゃん。


「おうち?ああ、あいつの塒かあ、行った事ねえから、場所知らねえな。海沿いの山のどっかだったはずだから、マルム山からだと完全に反対側だな」

 黒鳥の普段の住処だった場所は、マイサラスにも近いこの山から見るとおおむね北東の方で、白狼の管理エリアはそことも反対側になるんだそうで、彼も正確な白狼の家は知らないそうだ。


 サンファンの四体の守護聖獣は、あたしの世界の書籍にあった四神相応とは色や種類が違う感じだけど、やってることは、案外変わりない感じ。朱虎が南、碧蛇が北、白狼が東、黒鳥が西。

 それぞれの方角で、警備をしたり、地脈という魔力の流れを調整したり、麒麟が代替わりするときにはそれによる影響を抑える働きをしたり、だそうだ。

 国神のランガンド神は、守護聖獣二体分くらいの働きしかできない感じらしくて、基本は国土中央の自分の神殿に引きこもってるんだとか。なお麒麟と王族が住む王宮は、そこから徒歩で丸一日くらい海に寄った場所にあるそうな。神と聖獣、仲悪いのかひょっとして。


「仲が悪いっていうより、向こうが勝手に僻んで、拗ねてる感じって、皆揃ってる頃に白狼が評してたな。俺はランガンドとは相性自体が悪くて、殆ど会ったこともないから、よく知らないけど」

 アスガイアと同様、神の力に豊穣を頼る感じの政策が続いているのに、その神の力があまり強くないのが、守護聖獣の一部が出稼ぎなんて事を始めた原因なんだそうだ。

 一般の人間は人族至上主義者が多いこともあって、守護聖獣を軽んじがちで、これまでも、彼らが他国のような土地政策を何度か提言しても、妨害されたり無視されたりで、上手くいってなかったようだ。知識が足りてなくて説明が上手くなかったのもある、とは本人談だけど。


「力が田舎の神より強いったって、俺たちは所詮聖獣であって、神じゃないからな。属性の合わない俺や虎が土地管理とか言うのは、そもそも無理があんだよ」

 そうねー、君、風が最大だから、特に土ものとは相性悪いよねー。

 成程、土地そのものを弄るのに相性が悪いから、黒鳥と朱虎が国を出て出稼ぎしてた、という面もあるのね。まあ納得できなくはない。

 それでも、麒麟が居た時は、その属性力を融通して貰って、帳尻合わせもできてはいたのだそうだけど。


「……正直、俺の管理地域、今どうなってるのか、怖い」

 誰もフォローする余裕なんてないはずだしなあ、とレン君がしょんぼりしたまま呟く。

 とはいえ、彼は今はサンファンに立ち入ることはできない身だ。直接それを見る日は、多分来ないだろう。なんかカル君が俺が見てくればいいよね?みたいな顔してるけど。


 山からサンファン方面を見下ろす。おお、国境の境界も、神罰の境界も、くっきり見えるわ。そう、当然ながら、この二つ、別物なのよね。神罰は、永続的なものではないからだろうけど。

 ここもアスガイアと同様、普通に地続きで、関所のようなものも、特にない。

 というのも、サンファンは反対隣りのメリサイトとは仲が悪いんだけど、マッサイトとはそうでもなかったんだよね。昔、朱虎がマッサイトの、結構厄介なトラブルを解決したことがあるんだそうで、今でも恩義があるというマッサイト人が多いんだってさ。

 多分、それも出稼ぎの一環だったんじゃないかしら、とは思うけど、為さぬ善より為す偽善とも言うしね。

 この世界、国境を跨ぐのは本来割と厳しくて、サンファンでも、メリサイトとの間には防壁と、検問の厳しい関所、マイサラス側にも、防壁と複数の関所があるんだって。

 人が少なくなりすぎて関所が実質廃止されたアスガイアや、恩義で国境を開いているこのマッサイトーサンファン間は例外だそうだ。

 そうよね、ハルマナート国ですら、フラマリアとの間には関所があるって言ってたもんね。

 そうすると、あれか。この世界で一番国境管理が緩いのか、マッサイト?

 とか思ってたけど、後で聞いたら、マッサイトでも、管理が緩いのはアスガイア側とサンファン側だけだそうだ。そしてそれは、もとをただせば弾圧された亡命者を引き受けるためだったそう。なので、この二国の弾圧や亡命者絡みの資料は、マッサイトが一番揃っているんですって。


 ついでに言えば、守護聖獣たちは、基本的に人族も、亜人も、差別も区別もしないから、というのも、マッサイトの対応が緩い理由ではあるっぽい。

 彼らは、基本的に虐げられた亜人や獣人が出ていくのは止めてないそうだ。奴隷扱いしていた者に逃げられた人族が追いかけていくのも、止めないそうだけど。彼らが管理するのはあくまで国土と魔力関連であって、人同士の面倒事は業務外、ということなんだろう。


「国境界隈は、昔から虎が一般民の立ち入りを制限してたからな。反抗的でも禁制には流石に従うんだよ、人族も」

 人食い虎とでも思われてそうだけど、と言って、レン君が薄く笑う。

 虎氏、どうやら盗賊を齧ったことくらいはあるようだ。


 それでも神罰までは、そこまで多くの逃亡者がいた訳ではなかったらしいから、神罰効果って妙なところに波及するものなのね?


《ああ、基本的に奴隷制を維持している国は、逃げることができないように、奴隷を契約でガチガチに縛っているのですよ。国が神罰を受けると、そういった一方的な契約も基本的には反故にされますので、逃亡しやすくなるのです。殺人などの明確な悪事による罰則が噛んでくると、それでも解放はされませんけどね》

 あーあーあー、契約か。なるほどな!そして悪人は流石に解放されない、そりゃそうか。

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