Side:??? 後悔の果ての選択

 二話更新の2つめです。新着からの人は一つ前からどうぞ。


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 どこで、間違えてしまったのだろうか。あるいは、そもそも、我らが時の初めからか。


 我々を生み出した、いや創り出した創世神。彼は随分長い事、所在すら知れぬが、今思えば、我々から見ても、歪んだ性格をしていたように思う。当時は流石にそんな不遜な事を考えるほどの人格が、我々側に形成されていなかったから、それを疎んでいたのはメリエンカーラくらいのものであったと記憶している。

 メリエンカーラは、本来なら創世神の伴侶、そして境界と神罰という、特に重い権能を与えられていて、そもそもの造りが特別だったからな、それが故だろうと、軽く考えていたのだが。

 その為に創ったにも関わらず、出来が気に入らん、の一言で伴侶の部分はなしにされ、ゲマルサイトのような粗雑な男に下された時は、流石に何が気に入らなんだのか、と噂にはなった。

 今は判る、あの方は、ただ、色の濃い者を好まぬのだ。批判者だからではなく。ただ、それだけだ。

 あの色合いの濃さは、創世神の白さに対比させるための必須事項であったのにな。

 正直に言おう、ゲマルサイトが、羨ましい。あれは、職責の面に目を瞑れば、大層、いや、この上なくいい女だ。創世神の最高傑作に、違いないとも。


 異世界の産物を、幻獣を、そして異世界の民を。この世界に呼び込み続けているうちに、幾度か疑問は生じていた。産物は物言わぬ故、最初は本当に何も考えずにやらかしていた、と今でこそ判るが、その当時でも、いくつか導入してはまずいと判るものは混ざっていて、今でいう魔の森の地域に投棄されたものもある。

 そう、投棄だ。今思えば、これもまたなぜそんな雑な始末の方法を選んでいたのか。持ち込んだものは返すことまかりならん、という創世神の意向が全面にあったことではあったにせよ、だ。やむなく消去を頼んだものもあるが、それらのいくつかは消えぬままになっている。あれは誰の職能であったかな。光だし、ライゼリオンだったか?あ奴も変節して、もはや初期の権能は失っておるようだから、今はもうそれも行えまい。


 人族は国によって、いや国を規定する我らによって、それぞれに随分と違った気性を持つようになった。魔の森の北側に、いつの間にか神の介在せぬ国が出来上がっていて驚きもした。

 あのハルマナートという地域は、本来は魔の森との緩衝地帯、只の荒野であったのに。

 いや、時の初めの折には、魔の森なぞ、なかったのだ。色んなものを捨てていた場所でしか、なかった。ある時突然瘴気が吹き上がり、見る間に今の形態の魔の森が形成されたのだ。その頃には、ハルマナートはただの荒野であったはずだ。

 今では最早、あの国の穀物が世界を支えようとしている。恐らく、ハルマナート産の麦を食ったことのない人族は、ライゼルの被征服民くらいだろう。あれらに、小麦など、子実どころか、藁のひと欠片すら届きはしないだろうからな。

 真龍共によれば、ハルマナートを統べるのは、異界から流れ来た龍の血筋だというが。

 異世界からの召喚を幾度となく大小問わず繰り返した結果、メリエンカーラの権能だけでは追いつかぬ程に、世界の境界は緩んでいて、近頃は勝手に入り込む、いや落ち来たるモノも、結構増えている。

 世界の外側には異世界召喚を確実なものとするため、そして境界の最後の砦として、恐らくメリエンカーラが構築したであろうシステムが存在しているから、致命的なものは流石にそこで弾かれているようなのだが。うん、あの創世神の性格で、あんな緻密な、そしてメンテナンスの必要なシステムを創るわけがないからね。今は判るよ。


 異世界からの召喚は、わが国とサンファンがほぼ同時期にやらかしたゴブリン族排斥事件によって、他国では一気に廃れていった。我は、止めたのだぞ?だというのに、異世界から呼びこまれた子供の、ゴブリンって魔物なんでしょう?という無邪気な言葉に、何故か王が従ってしまった。

 いや、何故か、ではないな。我が国は、人族以外を極度に見下げる思想が蔓延っていた。守護聖獣を持たず、人に近しいカタチの我しか、庇護する者がおらなんだせいかも、知れぬ。

 サンファンも似たようなものだったようだ。ああ、あれほど守護聖獣がおりながら、その様では、大差ない、ということか。結局は、我らの気性が反映されたということだろうか?

 ともあれ、小僧、あるいは小娘の言葉は、渡りに船、ただのきっかけ、というやつに過ぎなかったのだろう。


 この国では、我が司る医療は発展していたが、亜人や獣人の数え切れぬほどの犠牲の上に成り立つ、砂上の楼閣のようなものだった。見よ、最早、正しい知識を継承したものなど、絶えてしまったではないか。そして、治癒魔法の禁忌すら忘れた結果、誤った治癒魔法の運用の後押しを受けて蔓延してしまった疫病。もはや、アスガイアは、国の体など成してはおらぬ。

 まあその正しい知識というものも、異世界から齎されたものではあるのだが。

 いくつかは、致命的なまでにこの世界に、合わなかった。創世神の意向で、生物相の中でも、分解者が極度に乏しいのも理由の一つだと、異世界から来た医学生だという男がぼやいていたのを覚えている。生物的分解は腐敗を伴うことが多く、基本的にそれらはこの世界では闇属性に分類されている。闇を極度に厭うのだ、あの創世神は。必要なものであるにも関わらずだ。そのくせ、これも闇属性である発酵を伴う酒は、好む。自己矛盾の塊のような、難儀な性格。

 世界に必要とされていないあの瘴気、あれなぞ、黒くは見えるが、属性などない。闇とは無関係だ。だというのに、人も、神も、いつしかそれを混同している。

 過剰な正の力、人の言う魔力が、髪や鱗を染めるように、過剰な負の力が黒く見えているだけなのだがね。


 まあ、我の力が、影響力が、足りなかったということだろう。神の手のそもそもないハルマナートや、成り代わられたフラマリア、あのメリエンカーラが支えているメリサイト辺りはともかく、マッサイトも、マイサラスも、レガリアーナも、本当に上手くやっているではないか。ヘッセンは異世界の巫女の手を借りてどうにかした、というところのようだが。いや、あれも元はライゼルがちょっかいをかけていた案件で、守護神や民に咎はない、か。


 しかしあの異世界の巫女、早々とメリエンカーラの紐が付いていたな。ここ数日近くで見た限り、どうやら適材適所とはいえようが、あれは苦労するぞ?何せ、職責が、重い。


(「全ての市門を閉ざせ。何人たりとも、最早出入りは適わぬと知れ。ああ、王宮の門は開いてやれ。最後の観光くらい、許してやろうぞ。金目のものは皆食料と引き換えてしまって、碌なものは残って居らんがな」)

 ああ、王が、最期を、覚悟してしまったか。先代の王家のやらかしの尻拭い、などという重すぎる貧乏籤を、自ら引いた現王家の初代王の子も、その孫も、また自らの全てを擲つ者であった。

 なれば、我も覚悟を決めよう。もはやこの地に、王も、神も、存在する意味がないのだ。

 民無くして、どうやって国を名乗れよう?

 民を滅ぼした悪疫を持ち込んだ、もしくは活性化させるきっかけを作ったのは、恐らくはライゼルの手下共。今も我が神体の傍で、国土に張り巡らせる為の我が力を掠め取り、どこぞに送っている、この屑共。少しずつ、こちらからもちょっかいをかけ、我の望む『贄』に作り替えてやっているが、この程度の奴らで、どこまでいけるか。

 しかしライゼリオンがこのような事を是とするだろうか?あいつは、正義を司ると標榜するだけあって、悪事には煩い男だったはずだが。創世神の御座のある国を併合したあたりから、どうにもおかしい。変節した、と思ってはいたのだが、最早反転に等しい。しかし、反転であれば、流石にこの場所、この人の子に精神を預けていた状態であっても、判らぬはずがないのだが。

 ああ、そうだ、この他人の物を掠取する、という性質は、創世神の、それではないか?

 

 おっと、サンファンから逃げてきたあの二人は、残しておいてやらねばな、せっかく巫女まで連れて、彼の地の守護だったものが来ているのだ、土産はくれてやらねばならん。

 我がもとに守護聖獣でもあれば、と思った時期も確かにあったが故に、一度は匿い、謀を巡らせもしたが……


 そうとも。もうこの地には、何も、要らぬのだ。国も、守護聖獣も、王も、そして、神も。


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という訳でアースガインの独白でした。次回から第四部!

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