第49話 悪意マシマシの晩御飯?
サブタイがこれなのにちょっとおシモの話がございます。ごめん。
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そういえば御夕飯どうするのかしらって思ってたら、本日は会食予定の繰り合わせが付きませんでしたのでお部屋にお運びしてよろしいですか、とお伺いが来ましたよ。
作るのも面倒だしそれでいいです、と返事をしたまでは良かったんだけど。
「帰ろっか」
一見豪華そうな食事の並んだ食卓を前に、サクシュカさんが額に青筋立てて静かに宣言する。
「流石にこれはないなあ。我々を何だと思ってるんですかね?ここまでの流れで類推するに、あの第二妃の差し金なんだろうけど、頭大丈夫かな?」
こちらはカルセスト王子張りに目が笑ってないカルホウンさん。
「ほぼ敵対姿勢の人の頭の心配はどうでもいいですが、神殿って何時まで開いてるんですかね。聖女様にだけはご挨拶していきたいわ」
離宮を出る事自体に否やはないけど、あの聖女様はちょっと気になっているあたし。
ええ、見た目は確かに美味しそうな食事が運ばれてきたんですけどね。
痺れ薬と睡眠薬と、あと媚薬だったかな。痺れ薬はちょっと苦いそうだけど、あとの二つは無味無臭。そんなものが漏れなく混入されておりまして。
命に別条のある薬じゃない?組み合わせが嫌がらせってレベルじゃないよこれ。
誰がどれを取ってもいいように、誇張なく、全部に混ざってました。食えるか!!ごはん作った人と食材に謝れ!!
龍の王族の皆さん、こういう薬は口にする前に判るんだって。便利ねー。じゃないんだわ!
身体に影響が出ない微量だけ、薄めたうえでちょっと舐めさせてもらったら、それだけでもちょっとなんかくらっとしたから、これ複合効果も出てるとかじゃないかな。舐める以上の量は、絶対ダメ!
そして舐めたらいつもの検索ベースくんが反応して分析してくれました。シエラがまたあわあわしてたけど、この機能は便利と言えば便利ね。
今後同じ物質に遭遇すると判るようになりました。チートだなあ!あたししか得しないけど!
……解毒方法あるかどうか、あとで調べよう。そのほうが皆にも便利だろうし。
「そもそも私たちにこういうのは九割がた効果がないって、近隣じゃない他国でも王族なら知ってて然るべきなんだけどなー?」
サクシュカさんの眼が座っている。美女の怒り、怖い。でもそっか、基本効かないのか。
「カーラ嬢狙いなんですかね?それとも我々全員がターゲット?」
カルホウンさんは首を傾げている。流石にやり口が雑に過ぎませんかね、とも。
そうねー、普通ならこんなやり方はしないんじゃないかなあ。とはいえ、此処に来てからまだ一回しか会ってないけど、あの第二妃も第二王女も、普通とはあんまり言い難い気はしている。
「うーん、媚薬はあたしじゃない気がするな……?流石に婚約者にとか言い出す可能性がある相手を事前に傷モノにする気はない……いや純粋に上手くいかないし排除でいいや、とか……いや、それだと媚薬じゃなくて毒盛るよねえ……」
なんとなく、なんとなーくだけど、媚薬だけターゲットがカルホウンさんなんじゃないかって気がするんですよね、ちょっとだけ。
「まあどっちにしたところで、害意は明白なわけだから、此処にこれ以上居る理由はどこにもないですね。
証拠保全したところで、あのババア下手すると我々に何らかの冤罪を擦り付けてきかねないですし」
カルホウンさんの発言がだんだん毒割り増しになってきている。ババア呼ばわりは流石に止め……まあいっか。
ねえシエラ、結界魔法ってあたし今使えるかな?
《結界、ですか。ああまた書庫が》
〈要請受諾:光結界魔法が使用可能、構成用魔法陣構築完了〉
シエラに聞いたのに検索ベース君がささっと魔法陣の書式をお出ししてきた。成程なるほど?
しかし本当に謎システムだなこれ。あたしの知識と記録を管理してるはずなのに、あたしの知らないこの世界の魔法まで管理できてるのは、何故なんだろう。で、このシステム自体への疑問には、全く答えは返ってこないのよね。
《ほんとに謎ですねこの機能。普通にわたしにコントロールが戻ってくるところとか。ところで何故結界魔法?》
ああ、使わないといけない気がするのよね。今!
「〈結界起動:範囲/あたしたち三人+遠隔で聖女様のとこ〉」
遠隔オプション付けられたから聖女ちゃんにも飛ばしておいた。場所?地図で覚えてるからまあ大雑把に。流石に王太子殿下とかは対象外だと思いたい。遠隔を二つも三つも飛ばすのは無理、少なくとも、今は。
「えっ何結界ってカーラちゃん?」
「!」
サクシュカさんがびっくり顔に、そして無言でいきなり鋭い威圧を放つカルホウンさん。
威圧というのは軍人さんとかが結構持っている技能で、精神と魔力で発動させ、効果はそのまんま、相手に威圧感を与え、強力なものだと一時的に行動不能にさせたり相手を逃走させたりできるものだ。精神力か魔力、どちらか高い方で抵抗できるので、あたしにはまず効果がないけど。なんでもできるな魔力……
物理的にも魔法的にも一般空間から一定時間隔絶されるタイプの結界に、甲高い音を立てて弾き飛ばされたのは、針のような何か。暗器なんですかねー。
そして、針を放った相手はカルホウンさんの威圧によって短い悲鳴を上げて転がり出てきて、そのまま床に白目を剥いてひっくり返った。うわ根性ないな、本職暗殺者とかではなさそう。
《いや、龍の方の威圧とか、下着が濡れてなかったら頑健ですねって言われるレベルですよ?流石にこれはかわいそうかも》
そっか、一般人は漏らすレベルか……ああ、だめじゃん。結界に今からでも臭い遮断のオプション付けたい。流石に後付けはできない、ぐぬぬ。
「……ホウ君が酷い」
サクシュカさんが鼻をつまんで文句を言う。
「あちゃあ。これ完全に我々が龍化の一族だって認識自体がどっか行ってるんじゃ……ごく普通の暗殺者を我々に送り込むとか、流石にあり得ないよね?まあそんなもの送られた経験のある奴自体、殆ど、いないはずだけ、ど。」
やらかした、と顔に書いてる状態ながらも、平常通り言葉を紡ぐ努力をしているカルホウンさんですが、やっぱり臭いに負けそうな模様。まあそうよね、これ、認識したくないけど、社会的に死にそうになってる推定暗殺者さんのお漏らし、大、ですよね……
この世界、衛生関連、特に下水やトイレ周りの仕組みが良くできていて、普段他人のこういう臭いなんて感じる機会がないから、つらい。
龍の王族の皆さんは、迷いの魔の森の魔物を抑える役割を、世界が今の形になってからずっと、代々担い続けている。
そんな人たちに害意を向けるのは、自滅行為でしかない。それはこの世界での一般常識のはず、だよね。少なくともあたしがこの世界に来てから読んだ歴史書にはそうあったし、シエラの認識もそうだというし。
これは、普通に常識で物事を図ってると足元を掬われる、そんな気がしてきた。
そんなわけで、大して荷物も持ってきていないのをいいことに、離宮からそそくさと脱出するあたしたち。
そういや王太子殿下はともかく、第一王女殿下とか第二王子殿下とか、大丈夫かなあ。
とか思っていたら、王宮のほうが騒然となっているのに気が付いてしまった。
げ、火の手が上がっている。後宮、王族の居住スペースの方じゃないかな。
この王城の基本構造図は頭に入れてきたから、ここ数年の増築以外はだいたい覚えているけど、流石に公的スペース以外の居住スペースに関しては外観以外の資料はないので詳細は判らない。
まあでも、そもそも今は自分たちの安全確保のほうが重要だ。子供たちは確かにいい子達だったし、できたらなんとかしてあげたい気持ちもないではないけど、なんせ本来なら関わりのない他国だしなあ、ここ。
「第二妃の居住区域近くですね。第一妃の居住域は反対側のはず」
カルホウンさんがそんな情報をくれる。あれ、そっちなんだ。
「あれーそっち?第二王女がなんかやらかしたかしら」
サクシュカさんはありそうな理由を軽く述べるけど、あたし的にそのセンはないかなあ。
彼女に今やらかす理由はない。いや、解呪に気が付いたなら、何らかのアクションを起こす可能性はあるけど。でもそれは恐らく聖女様のほうに向かうものになる確率の方が高いよね。
幸い騒ぎはまだ然程大きくなっていないし、何の伝達もされてないらしく、あたしたちは普通に王城の門を抜けることができた。なんだこの雑な警備。
「いや、こっちが普通だからね。龍の王族、基本友好国ではフリーパスだからね?」
相手への礼儀として挨拶とか色々考えるけどさ、とサクシュカさん。
わあ、思ってたよりこの人たち偉い人だった。いや今更だけど。
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魔力が万能扱いなのは君くらいですよカーラさん。と誰かそのうち突っ込んであげてください。
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