第50話 王国中央神殿にて。

 祝☆本編50話!


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 王城を抜け出したあたしたちは、取り合えず神殿に向かったのだけど。

 神殿前には、夕飯時にしては人がごった返している上に、口々に不安や不満を述べているのが聞こえてきた。

 どうやら帰宅前にお祈りを捧げに来た人たちが、突然強制的に締め出されて、神殿が閉門してしまったらしい。


「あら、臨時閉門?」

 サクシュカさんが平常の声音でそう呟いて、すぐにそのまま裏手に回り込むコースに移動したので、あたしたちもそのまま付いていく。

 コレは多分なにかあったんだろうな。原因があたしが飛ばした結界魔法であるなら、まだいいんだけど。そういえば聖女様の所に飛ばしたほうはまだ効果が持続しているから、危険な事にはなってなさそうね。杞憂だったかしら?


 このヘッセン国の神殿は、国の守護神たるフォルヘッセナーレ神を奉じている。

 この神様の権能は音、器楽、そして歌唱。実はこの国は芸術、それも音楽に特化した国でもある。王族の皆さまもそれぞれ得意な楽器を持っているのだそうだ。

 ……アリエノール王女だけは、特に得意がないらしいけど。どの楽器もすぐ飽きて放り出すので、習熟しないのだそうだ。残念が過ぎるぞ。

 驚いたことに、彼女はその状態を、『わたくしはこの国にある、あらゆる楽器に触れたことがありますのよ』と自慢しているんだそうだ。まあ確かに、触れたことはあるんだろう、弾けるとは言ってないそうだし、それ自体は間違っていない、のか。

 あ、あたしは楽器どころか音楽自体がからっきしです。音感自体がちょっと、怪しい。そもそもお静かにお願いします、な病院暮らしだったから、歌も歌った事ないしなあ。

 あたしの記録書庫、実は音楽のアーカイブもあるんだけど、学校で聞いたクラシックや唱歌と、ゲーム音楽しかなかった。あはははは。


 サクシュカさんの後を追って辿り着いたのは、神殿の通用門。お勤めしている人たちの中でも、住み込みじゃない人たちが出入りする場所だ。

 ここもそれなりに人はいたけど、表の人たち程騒いではいない。何故なら大多数が神殿関係者だって一目でわかる身なりだからね。困惑してる人自体は多いんだけど。

 サクシュカさんは慣れた様子で通用門の門番さんの所に真っすぐ向かう。

 門番さんもサクシュカさんの顔は知っているようで、無言でしゃきっと敬礼した。


「申し訳ないのですが、只今下位神官の方より階位の低い方にはご遠慮してもらっている状況でして」

 こそりと耳打ちするように、門番さんがあたしを見ながらサクシュカさんに囁く。


「大丈夫よ、ホウ君はともかく、もう一人はここのじゃないけど巫女候補だから」

 えっそれバラすんだサクシュカさん?いいの?いやここのじゃないって明言してるから平気?

 サクシュカさんの答えを聞いた門番さんの背後で、別の門番さんか神官さんかが走り去る足音。多分中の上位神官さん達にお伺いをたてに行ったんだろう。



 程なくして、あたしたちは三人揃って中に招き入れられた。

 そうして、そのまま神殿の拝殿の方には行かず、奥の院という神様の御座所に近いほうに案内される。案内してくれている神官さんは女性で、見覚えのある神官服を着ておられるから、もしかしてアデライード様の従妹という人かな?金髪にちょっと緑がかったきらめきがあるのがそれっぽい。


「ハルマナート国の方々、お連れ致しました」

 到着した扉の前でそう告げる女神官さん。程なくして扉が開く。


 わあ。これは、我ながら、ひどい。


 結界はあたしが飛ばしたものが、目に見える形で、そのまま残っている。まあまあの広さだったけど、囲んだのは聖女様だけだったようだ。

 その外側、張られた結界の際で気絶している男がひとり。聖女様は結界の内側にいて、静かに祈りの姿勢を取っていたのを、あたしたちに気付いて立ち上がり、こちらに一礼した。


「カーラ様、何度も助けて頂いて、本当に感謝の言葉もございませんわ。ただ、このままでは夕食にも支障が出ますので、大丈夫そうでしたら、そろそろこの結界を解いて頂きたいのですけれど」

 いかん、聖女様もごはんまだだったのか。取り合えず危険はなさそうなので、結界はさっくり解除。

 気絶している男は、カルホウンさんが取り押さえてくれたので問題ない。


「ところでこの男性は?」

 気絶状態で放置されていた、そして手に暗器らしき細い短剣のような武器、ということは、碌なもんじゃないだろうとは思うけど、一応聞いておく。


「結界が構築された直後に突っ込んできて、そのまま結界に激突して失神されたのですけれど……命に別状はないようなのですが、まだ起きられませんね」

 おっとりと答える聖女様。


「そういえば何か妙な……ああ、睡眠の術式が掛かっているね。これも君ですか、カーラ嬢?」

 カルホウンさんが尋ねてきたので、首を横に振る。そんな状態異常系の術式なんて、知らんぞー?


「あ、睡眠ですか。それでしたらこの部屋に元からある警戒トラップです。人の、危害を加える意思に反応するものの、実は出力不足であまり強い効果はないのですけれど。恐らく気絶したせいでまともに抵抗できなくなって掛かってしまったのでしょう」

 ここまであたしたちを案内してくれた女神官さんが答えをくれた。成程、侵入者は穏便に寝かせるのが神殿式かー。でも出力不足とはちょっと悲しいわね。


 というわけで明らかに暗殺者系の不審者君は眠ったままがっちり捕縛されて、神殿の牢に連れていかれました。

 そしてあたしたちは、まだでしたら是非ご一緒に、と、聖女様と晩御飯を戴くことになりました。やったーやっと食事ができるぞ!



 幸い神殿での食事には余計な何かなんて混ざってなかった。流石に心配しすぎですねははは。

 とはいえ量がカルホウンさんにはちょっと少なかった気はする。簡素なんですよ聖女様の御食事。

 豆のスープと、しっかりした食感のパンと、チシャと茹でた雑穀としゃっきりした食感のお芋らしきもののサラダ。飲み物はグリューワイン。あ、味はどれもシンプルだけど美味しいです。この国も素材が旨い系ねえ。


「龍の方には少し少ないですよね、申し訳ないですわ。神殿の食事はこれが基本で、余分というのもあまり御座いません。余裕があれば併設の孤児院や養護施設に回してしまうものですから」

 聖女様が申し訳なさそうにしているけど、立派な事をしているのだから、もっと堂々としていていいと思うのよ、あたし。

 ちなみに案内の女神官さんも同席している。やっぱり王子王女様がたの従妹、この国の公爵家の方で、マリーアンジュさん、だそうだ。上級神官になったばかりだけど、もう身分的には家の籍からは出されていて、神殿から出る予定もないので、様付けはしないでくださいね、って自己紹介の時に言われました。ほーう、そういうものなんだ。


「大丈夫よ、行軍中とか全然食べないときもあるし、そもそもいくら私たちでも、運動しない時期に食べまくったら太りますから、普段はそこまでがっつりは食べないものですよ」

 サクシュカさんがそう返す。ちなみに運動しない時期というのは、鱗の生え変わりの時期らしい。化身じゃなくて、人の姿の時に生えている一~数枚の鱗が数年に一回くらい、生え変わるんだって。この時の一週間ほどだけは化身もできないので、基本的に王宮でおとなしくしているんだそうだ。

 なお鱗なしの人には当然この生え変わりはないし、何もできない体調不良の期間、なんてのは特にないそうな。これは以前サーラメイア様に聞きました。


 そういや聖女様の食卓、お肉がないな。豆はたっぷりだけど。

 この国の神殿の仕様なのかなあ。


《この国だけではなく、神殿の食事に肉が上がるのは、祝祭の時だけですね》

 なんとー。普段は精進料理なの?


《お魚は出ますよ、近隣に産地があれば、ですが》

 つまりメリサイト国だと、出ない?

 無言で肯定の雰囲気だけ返ってきました。そっか、辛いかもしんないな、それは。



 カルホウンさんは食後に魔法収納から非常食の干し肉出してこっそり齧ってた。まあ見逃してあげましょうね……

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