第22話 夜明け前の攻防戦。

 こんばんは、カーラです。今、龍の背中でたてがみにしがみついているの。


 いやマジでしがみついてないと、振り落とされるんじゃないかという勢いで飛んでおりまして。

 今あたしを載せてるのは、ハラルカールさんといって、イードさんたちのお兄さんの一人。エンブロイズさんよりは下、カルセスト王子よりは年上。やや細身のいぶし銀の身体に末端が金属光沢のある海老茶色のグラデーション。掴んだたてがみの感触は、意外と柔らか。

 あとねえ、鱗が、思いのほか滑らかで、滑りそうになる。正直言って、だいぶ、怖い。


 誰があたしを載せるのかでは妙に揉めた。

 マグナスレイン様とサクシュカさんは狙われがちだからと真っ先に脱落していたし、カルセスト王子は知らん顔だし。

 で、他の人が我も我もと立候補してきたんだけど、ええい時間が勿体ないわ!と、マグナスレイン様の強制指名が入った結果こうなりました。


【遅い!しかもモイはおらんのかモイは!!】

 声が聞こえる距離になった瞬間、ハイウィンさんの怒りの声。お怒りごもっともですはい。


【済まん、うちの若造共がうっかり呑ませてしまってまだ起きておらぬ。ハラルカールとサクシュカは待機、他は判っておろう、突撃せよ!】

 マグナスレイン様がハイウィンさんに謝りつつ、即指示を出す。

 迷いの魔の森からのスタンピードは、空飛ぶ魔物も結構出るので、治癒役は序盤はあまり近づけない。

 他の皆が空飛ぶ連中を叩き落としてからが、出番。いえ、治癒役の出番なんてないほうがいいんですけどね。

 あと、時間がね。真夜中は過ぎたけど、まだまだ暗いのよ。龍の皆さんは夜目が効くようだけど、あたしはそこまでじゃないのよね。

 とはいえ、今のあたしだと、龍の皆さんくらい大きいものなら余裕で見える。視力いいなあ。


 空中でハラルカールさんが一時停止したので、あたしもようやっと一息、いやだめだ、滑る。

 ずっと結構必死でしがみついたままでいたから、だいぶんと手の感覚が、怪しいのだけど!


 なおコートの中には兎はいません。ミモザがまだ調子悪いみたいだったから、看護役にジャッキーを付けて王宮に預けてきましたハイ。

 ジャッキーは物おじしないタイプだけど、ミモザは人間より大きい生き物はちょっと怖いみたいだしね。


 先頭切って金色の、速度からしてカルセスト王子が飛んでいく。前にも思ったけど、やっぱり本気出すと速いなあの人。

 そのまま勢いよくブレスを撒き散らしながら、魔物の集団の中央を突っ切っていく。

 その後を他の龍たち。マグナスレイン様はというと、こちらに気付いて接近してくる連中をブレスや物理で叩き落としている。

 いやでもその配置は微妙に悪手では?一番大きい人が手前だと、戦況が見づらいというか、あ、ほら、尻尾の影から一匹。


「〈ライトレーザー〉」

 単体だし、さくっと撃ち落としておきましょうねえ。

【そういえば、そなたは自らを守れるのだったな……】

 ハラルカールさんが遠い目をしてそんなことを言ってるけど、さっきから魔法攻撃ぶちかましてるの貴方ですよねー?

 ええ、攻撃魔法陣で、結構な弾幕が展開されております。おかげでだいぶんと明るい。

 光より炎のほうが多いかな?光魔法は龍のブレスに近い感じ、いやこれ実際龍のブレスだわね?で、炎魔法はこれなんだ?細く収束された炎が一直線に飛んで行って魔物を貫通してるんですが。というかあれ?これって無詠唱で発動してる?

 魔法陣を読んでみたけど、炎のは多分ライトレーザーと同等の魔法っぽいわね。で、あたし、炎は適正ないな?読めはするけど、属性指定部分が書ける気がしない。そしてどうやら、無詠唱は魔法陣には書かれていない。


《そうですねえ、カーラの属性適性は光と風、あと生活に便利な程度の水、みたい。私とほぼ同じですね。私は水がなくて炎が点火程度でしたから、そこだけ違うんですけど》

 へえ、そんなことになってたのか。というかいい感じに属性もお揃いなのねあたしたち。

 ……魔法適性が盛りすぎてるから、属性も盛りまくりかと思ったら、流石にそこまで盛られてなかったか……


《光属性優位自体が希少なので、巫女修行もまだしていないのにメイン光、の段階で、盛られてる感は否めませんけどね!私のは修行して光をメインといえるところまで頑張ったのですよ?》

 アッハイ。いや、物語だと全属性とかあったりするじゃない?


《ああ、この世界の魔法法則では、全属性は無理なんですよ。光と闇、炎と水、土と風の各組み合わせは、基本的に反発してしまうので、同時に適性を得ることはできません。逆に氷や雷などは複合属性という説が有力で、どれとも反発しませんが、とても希少ですね。人ではほぼ見かけません。龍の王族の方にも滅多におられないと聞いたことがありますが、如何せん伝聞なので、どこまで本当かは。ああでも、サクシュカリア様は氷を持っておられるようですね、少しですが》

 へえ、不便だったりしないのかしら。いや、一人でなんでも全部やろうとしなくたっていいのよね、きっと。


《召喚術でもその影響は多少あるんですよ。ただ、そちらは召喚獣との親交を深めたりすることで和らげることができますし、そもそも特定の属性に偏っていない幻獣もいますけどね》

 なるほどなあ、ミモザは基本が水っぽいんだよね。ジャッキーのほうは特に偏ってない感じがするけど。


《治癒を使える時点で光が優位のはずですけど、そういえばあの子そこまで光は突出してないですね》

 そうよね?多分光以外にも持ってはいるようなのだけど。

 なお、光優位だからといって治癒を使えるかというと、そうでもないらしい。治癒を使えるなら、光優位だけど、そもそも治癒には才能が必要なので、龍の皆さんにも、光優位だけど治癒は使えない方が数人いらっしゃるそうな。


 そんな風にシエラと話しながら、龍たちの攻撃をたまに抜けてくる魔物をライトレーザーで撃ち落としていく。マルチロックがあるなら当然単体のターゲットロックもあるんですよねー。便利便利。


《ライトレーザーって上位魔法だから、普通はそんなにぽんぽん撃つもんじゃないんですけどね……》

 光属性魔法は基本的にどれも魔力食いらしく、光闇以外の属性の三倍消費くらいになる、らしい。まあ魔力周りに関しては、今更ね。



 海と違って、龍の皆さんの攻撃も阻むものなしといった様子で、ぐいぐいと戦線を押し上げていく。

 カルセスト王子、速度だけじゃなく敏捷性というか、小回りもきくんだねえ。大活躍だ。金色銀色あたりは暗くても目立つというのもあるのだけど。

 まあ正直、まだカルセスト王子とマグナスレイン様とサクシュカさんしか、龍の姿をちゃんと覚えていないともいう。あとハラルカールさんは流石に覚えたけど、今乗せて貰ってるからね。

 大きな怪我をする龍はいないけど、瘴気に当たり続けるのは良くないと前回学んだので、動きが怪しいな、と思った段階で適宜治癒をばら撒いておく。



 今回のスタンピードは、国境の城塞で防ぎきれなくて、そこそこ内陸に押し込まれていたのだけど、夜が明ける頃に、国境の城塞の上まで押し戻すことができた。侵入経路的に、近隣の村にも多分被害が出ているはずだ、と、マグナスレイン様が苦々しさを声に表していた。


 空中の敵はもうほぼ制圧しつくして、あとは地上を掃討していくのだけど、半数が人の姿に戻って地上を走りだした。

 成程、確かに空から見るだけより、地上からも確認して掃除するほうがいいのかもしれない。


 城塞自体は、侵攻にどうやら耐えきったらしい。ただ、明らかに怪我をしたものがたくさんいるそうなので、取り合えずマルチロック治癒をばらまくあたし。城塞の怪我した人や獣、それに龍の皆にばら撒かれる治癒の光。


 おお、実感できるくらい魔力が減った!

 ……といっても、五十分の一すら使っていない。その半分以下だ。いやほんと我ながらどんだけ馬鹿魔力?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る