第20話 突撃!お城の晩御飯!
さて、何時までも兎と遊んでいるわけにはいかない。遅刻厳禁って女王様が宣言しちゃった晩御飯が待っているのだ。
お針子さんと侍女さんがさりげなく促してくれたので、もふもふタイムはいったん終了だ。
ええ、御夕飯用の着替え、だそうです。また選ぶところからかー!
幸い、今度は女王様が主導で割とあっさり決まりました。良かった……
夜用の衣装はイブニングドレスかなあこれは。いや、マキシ丈であってヒール丈じゃないからディナードレスってやつね?
フェロニエールがあたしの瞳の色に合わせて緑色系なので、衣装もそちらに合わせて、緑のチュールレースと、光沢のある、こちらは淡いめの緑の生地を合わせたものですね。チュールレースには細い花唐草模様の刺繍にあわせて小さなビジューが所々についていて、きらきらしている。
透ける袖と胸元、光沢生地の本体は胸元ストレートラインのあまり裾は広がっていないシンプルなドレス。
髪も軽く結ってハーフアップに。装身具もレンタルされましたー。最後に胸元に一ノ褒章のビジューをつけたら、できあがり。
夜だから、と軽くお化粧もされたよ!
……人生初の化粧ですわはい。元の世界じゃ病院暮らしで、常時すっぴんでしたしあたし……今の顔とは違うからノーカンで。いや、そもそもカウントするものがないって話でしたね……
《私も内向き勤務予定の巫女が化粧してもなあ、って、お化粧は殆どしたことがないですね……なるほど、プロの手にかかると、こうかあ……》
あたしの視界を共有しているシエラが、鏡を見て感心している。
そうよね、美人度が凄く割り増しされてるよねこれ……
「どうした、浮かぬ顔で」
なかなか良くできておるのに、と女王様。
「ああいえ、ちょっと過去を振り返ってしまっただけです……お化粧とかする機会がなかったなって」
うっかり正直に喋ってしまったけど、まあ別にいいか、事実だし。
「あらあら、うちの子になればいつでもできるわよお」
サクシュカさんが茶化してくる。うちの子ってなんだうちの子って。
「うーん、そんなにしょっちゅうしたいものでも、ないような……?」
なんていうか、落ち着かないんですよね、顔に何やら塗られてる状態が。
「それはそうよ。我らの年齢にでもなれば、話は別だけどねえ?」
女王様が頷く。女王様とサーラメイア様は昼間の化粧を一度落としてから全面的にお直ししていたけど、あたしに使われてたものより、化粧品の種類自体が多かった気がする。サクシュカさんは、あたしと同じような感じ。
そんな感じで、お城の衣装部屋から化粧室で全部の準備をしていただいて、晩餐会、ならぬ夕食会。
ほぼ家族での食事だから、晩餐なんて堅苦しいものじゃないわよ、と言われたわけですが。
でもドレスは着替えたし化粧までしましたよねって。
ああ、うん。晩餐、じゃないね。ばんごはん、だね……
いや、龍の王族の皆さん、食べる量が、凄いの。
テーブルの上のあちらこちらに、こんがり焼かれたチキンぽいお肉やら骨付きリブロース的なお肉が山に積まれてたり、するの。
それがもりもりと減っていくんですよ。なにこれこわい。あと肉率すごい。
時々兄弟喧嘩が発生しそうになって、その度に女王様がすぱーん、と見事なコントロールで大きなスプーンを投げつけているのが、いっそ愉快。
だって投げる専用スプーンが用意されてるのよ。なんでスプーンなの。いやフォークやナイフだと危ない、ってのは判るんですけど。
投げられた方はだいたいみんなきちっと受け止めてごめんなさい!と言って喧嘩終了。そういうルールなんでしょうかね。
黙って立ってればガチのイケメン集団なのに、すっごく残念な食事風景を展開しているなあ……。
……あたしはイードさんとサーラメイア様と一緒に、隅っこのほうで普通の人向けの分量の、普通に肉と野菜と穀物のバランスの考えられたお食事を頂いております。
香辛料はあまり豊富ではないようだけど、素材がいいみたいで、あっさりした味付けでも美味しいんですけどね。
なおテーブルマナーはシエラにお任せであります。まあマナーより食欲、という感じの人が多くて、全く目立たない訳ですが。
「……普段は軍の俸給で賄っているから、食べ足りないという者も多くてな。たまに王城で食事となるとこの有様さ」
イードさんがため息をつきながら教えてくれた。なるほどな……イードさんは食事量は普通というか、むしろちょいちょい食べ忘れたりして、小食なほうだから、まさかこんなんだとは思わなかったわあ……
なおハイウィンさんは城塞の方に帰っている。ここの食事は甘いものが少ないから家で食べるそうな。
そういえば、グリフィンであそこまで甘党なのはハイウィンさんくらいだそうだ。他のグリフィンさんは肉のほうを好むとかなんとか。
初対面の時に蜂蜜あげたら味を占めちゃったのよね、とは、原因を作った女王様談。
「ごめんなさいねえ、すっかり騒がしいお夕食になってしまって」
サーラメイア様が優雅な手つきでリブロースの骨を外しながら微笑む。
「いえ、これはこれで、なかなかの見ものかしら、とは」
不敬かなーと思いつつそんな感想を述べておくあたし。ああ、このチキンぽいお肉、柔らかくてジューシーで美味しい。
「おうイード、食ってっかー!ってまたそんな嬢ちゃんみたいなちまっとした盛り付けしちゃって!」
カルセスト王子が寄ってきてイードさんにちょっかいをかけている。なんだ君酔っ払いか?お酒は出てなかったよね?
そして隣のあたしは相変わらずスルーかね。いやまあ絡まれてもめんどいから来なくていいけど。
「そなたらのような底なし胃袋と一緒にするな。そもそも今日はカーラ殿という客人もおるのに、なんという体たらくだね」
呆れ顔のイードさんが正論をぶっておられる。いや、あたしはほっといていただいて結構ですよ?
「いやーそれはもう今更っしょ。ケツ見られた馬鹿もいるんだし、って流石に食事中にする話じゃなかった、ごめん」
それは!食事中云々の前に!覚えてて欲しくなかったですね!
「……その件は忘れて差し上げましょう?」
あたしはもう見なかったことにするから、決めたから。絶対いつか忘れてやる!って、そういや、忘れられないんだっけ、あたし……。
思わずジト目でカルセスト王子を睨んでしまったけど、あたし悪くないよね……
「あっその節は!申し訳ありませんでしたっ!」
折悪しく、近くに当の赤毛の兄ちゃんが、えーと、ファガットルースさんだったわね。今は当然普通に服を着ています。両手に骨付き肉持ってるけど。
「いえ、もう、忘れましょう?」
思い出させないでいただけますかねえ?!
「ファッちゃんカル君、アウトー」
お兄さん二人の背後から、ドレス姿のサクシュカさんがそんな台詞と共に現れて、二人の首をがっちりホールド。
「げっサク姉いつの間に」
「ぎゃーサクシュカお姉さまあああ」
何やらわざとらしい台詞と共に、二人はサクシュカさんに引き摺られて去っていった。
ちなみにイードさんやカルセスト王子から見てサクシュカさんは叔母にあたるのだけど、叔母様というと怒るからだいたい皆姉さまと呼んでいるそうだ。まあ見た目も性格も若いもんね……
「ほんとに、ごめんなさいねえ、賑やかが過ぎるわよねえ」
気が付いたら女王様がこちらに最接近していた。いつの間に?
女王様も結構な健啖家で、物凄い量をぱくついておられたのだけど、割と細い身体のどこに入ってったんだろうね、あの大量のお肉。
「いえいえ、なんていうか、新鮮ですね、色んな意味で」
当たり障りなく答えておく。いや、嘘は言ってませんよ。あらゆる意味で新鮮ではありますからね?
まあ正直、マグナスレイン様までがっつり手づかみで骨付き肉にかぶりついてるとか、想定はしてなくもなかったけど、実際見ちゃうとなかなか……
びっくりするくらい似合うんだよねえ。ほんとに飛びぬけたイケメンって、なんでもありなのね……。
――――――――――
お給料が安いわけじゃなくて、食い気が勝ってるだけ。あと褒賞の儀の加減で時間も遅いからね、しょうがないね。
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