第18話 褒賞の儀。

「ではその褒賞であるが、今回の最功労者はカーラ殿で相違ないか?」


 女王様、ちょっと待って。あたし?


「相違ないとも。我は戻ってからも助けられた故な」

 あああマグナスレイン様にまで追認されているううう!?


《そりゃそうですよ。あれだけ無双しといて何をおっしゃいますやら、ですよ?諦めてお受けしましょうねえ》

 とどめにシエラが煽りよる……いやまあやらかしたという自覚自体はありますけどもー心の準備がですねー


「異論のあるものは居るか?」

 女王様が子供たちを一瞥する。はーい、って言いたくなったけど、流石に空気は読むよ、黙るよ。


「いやー、あんだけ働かれちゃうと、異論とか無理ー。マルチロックこともなげに使って十人いっぺんに治癒とかレーザーぶっぱとか、その子魔力量どうなってんの?」

 カルセスト王子が軽い調子で声を上げる。というか君、常時その調子なのか……


 それを皮切りに、他の人たちも口々に意義ナーシ、とかもちろんー、とか、賛同の声。

 女王様の満足そうな頷きと共に、再び静かになる室内。


「異議なしとして、一ノ褒章はカーラ殿に。我らが不得手とする海において、一人の損害も出ず鎮圧できたのはそなたのお陰。

 聞けば異国に召喚され、事故で我が国に至ったと申すが、そなたさえ良ければ、褒賞とは別に、他国で言う貴族待遇での帰化も認めよう」


《他国で言う……?龍の国に貴族は居ないってほんとなんですね……他国では普通の制度なので誰も信じていませんでしたけれど》

前にほとんどいない、みたいに聞いていたけど、実態は全然いない、っぽいわねえ。


「ええと、過分なお言葉、有難うございます。国に関しては、今はまだ答えを出す段階ではないと思っていますので、保留でお願いします」

 メリエンカーラ様の巫女にいずれならないといけないのは確定しているから、所属国は保留のほうがいいわよね?


《そうですねえ、メリエン様の御力はあらゆる境界に存在してそれを支えておられますから、この国でも祈りは届くでしょうけれど、一応本神殿はメリサイト国ですしね……

 それに、噂通りなら、この国には神殿自体が殆ど、どの神様のものもないはずですわ。国として特定の信仰を推しておられぬのだそうです》


「そなたには目的があるのかえ?」

 女王様があたしの答えに首を傾げる。


「いえ、あたしはこの世界をまだ全然知りませんから。このハルマナート国が個人的に居心地良さそうなのと、ライゼル国が控えめに申し上げて屑なのは知っていますけど」

 世界の国の両端しか知らない女!とか言ったらウケるかな、受けないなきっと。


「ははは、彼のライゼル国を屑呼ばわりか。あれで世界最大ぞ?まあ拡大の動機もやり様も褒められたものではないがな」

 女王様はからからと笑うと、一転真面目な顔になった。


「成程、調査報告にもあったが、そなたはライゼル国に召喚されたものの、あやつらの碌でもない手からは逃れ得たということか。なんと重畳であることよ。気が向いたならば、何時でも申し出るが良い。我らはそなたを受け入れようぞ」

 そう宣言すると、女王様は自分のドレスの襟にいくつも付けていたビジューを一つ外して、あたしのドレスの胸元に付けた。


「その衣装はサーラメイアのものであったかな?似合うておる故、持ち帰ってもよいものとしよう。良いな?あとはこれを」

 視線を向けられたサーラメイア様がにっこり頷くのを見て、女王様が頷き、今度は少し下がったところにいた侍女さんをちょっとした視線の動きだけで呼ぶ。

 侍女さんは斜め後ろでずっと何か、ビロードのクッションめいたものに載せたものを捧げ持っていたのだけれど、女王様はそこから宝石の付いた鎖を取り出すと、あたしの頭に掛ける。そっと手ずから位置をなおしてくれたそれは、確かフェロニエールとかいう額飾り、かな?


「うむ、そなたの瞳によく映える。カルセストはこういう物を選ばせるとそつがないの」

 なんと、腹黒王子セレクト?いやまあ宝石に罪はない。いや彼に罪があるわけでもない。混乱するな、あたしよ、落ち着け。


「ありがとうございます」

 他にやりようも思いつかなかったので、真似事ながらにカーテシー。うん、これはやっぱりちゃんと練習したい所存。

 女王様に微笑ましいのう、という顔でふふ、と笑われてしまいましたハイ。


 その後も褒賞は続き、マグナスレイン様やカルセスト王子や、イードさんにも、それぞれ何かが与えられたようだ。

 流石にそこまでは見えてない。皆さん結構長身の方が多いので見えんのよ。

 ずっとあたしの隣にいてくれたサクシュカさんも、数少ない治癒持ちとして、これまたビジューと何か指輪の様なものを貰っていた。

 サーラメイア様が耳打ちで教えてくれたけど、このビジューが褒賞の証、引換券みたいなもの、らしい。いや実際には引換えはしないで手元に残るのだそうだけど。

 後で聞いたのだけど、順位ごとに定められた種類と大きさの石を使って、毎回新しいデザインで作るから、コレクションとしても楽しめるのだそうだ。

 で、あたしが貰ったものが一ノ褒章と言う、一番大きな石を配置されたもの。金で形作られた長いタイプの龍が透明なローズカットの石をぐるりと取り巻いたデザインですね。このキラキラ感、ダイヤだったりするのかしら、これ。

 サクシュカさんが貰ったほうは、銀色の龍の指が丸いムーンストーンらしき石をつまんでいるデザインだった。


「では此度の褒賞の儀はこれまでとする。夕餉まで各々好きに致せ、夕餉に遅刻は許さんがの」

 ほほほ、と最後に笑うと、女王様は最初の扉から退出してゆかれた。


 好きに、かあ。取り合えずハイウィンさんたちと合流したいな、と思ったんですけど。


「あ、これはまずいわね。退出するわよ」

 サクシュカさんの言葉と共に、速攻で列柱の並ぶ横手側から外に引っ張り出されるあたし。

 後ろの方でカルセスト王子の声がする。どうやら他の人を引き留めているような?


「カル君が気を引いてくださっていますから、今のうちに戻っておしまいなさいね。あんな場所で質問攻めも挨拶攻めもお嫌でしょう?」

 サーラメイア様もそういうと、すっと立ち止まってあたしたちを見送る姿勢。


「あ、ありがとうございますううう」

 お礼は言ったけど、サクシュカさんに引っ張られているので語尾が死んだ。



 そして戻ってきました衣裳部屋。

 まあここなら男性陣は来ないよね、うん。


 女王様が待ち構えていらしたけどね!!!


「あら、早かったわね。サーラが囮になったの?」

 式典とは打って変わって、にこやか、かつごく普通の言葉遣いの女王様。


「それもあるけど、カル君とマグナ兄上が引き留め工作してくれてたみたい。イードは完全に出遅れてたけど。そろそろハイウィンが来るんじゃないかしらね」

「うむ、お邪魔するがよいかの?」

 サクシュカさんの言葉の末尾に被せるように、ハイウィンさんの声。


「どうぞいらっしゃい、こんな場所で申し訳ないけど。ハイウィンも久しぶりねえ。もうちょっと王都に寄ってくれてもいいのよ?」

 女王様はハイウィンさんとも旧知らしく、にこやかに応じている。


「そう言うでない。我とて自氏族の世話もあるし、現状ではあまり国境からは離れられんよ」

 ハイウィンさんもいつもの調子で答えている。やっぱりここの王族緩いな……?いや、ハイウィンさんがあたしが思ってるより偉いのかもしれないけど。


《グリフィンの氏族長なら、聖獣としては格が高いですね。人の地位などと比べるの自体が変な話扱いになるので、言わない方がいいやつですね》

 そっかー、まあ地位がどうこう言うのは人間の特徴みたいなものですからね。聖獣さんたちには関係ないわね、確かに。

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