第17話 女王様と魔法談議。
結構時間を食ってしまったあたしたちの着替えだけど、女王様との謁見にはなんとか間に合った。
まあマグナスレイン様が遅れてらしたので、助かったともいう。いや、あたしたちが遅れた原因もマグナスレイン様だから、えっと?
いえ、間に合ったんだから、いいんです。そもそも探しに行ってなかったら、あの方はまだ戻って来れてなかったでしょうし。
と、いう訳で人生初の王宮!行くのは謁見の間?かと思ったら、そうではないらしい。
謁見の間もあるけど、外国からの使節との謁見にしか使わないとのことで、今日は裏手に近い場所にある講堂めいた場所に連れてこられました。
派手な装飾は何もないけど、日中だったら日当たりのいい明るい部屋ですね。部屋というか、入って一番奥の壁面とそこにある扉以外には、無骨な列柱と屋根しかないというか。
柱ごとに魔法っぽい明かりが灯されていて、中も周囲も、結構明るい。
そして、列柱の何本かには、明らかに補修の跡。
そういや誰かうっかりで龍化して王宮の建物壊したことあるとかいう話、イードさんがしてたわね。
既に他の王族のお兄さん方は集まっていて、どうやらマグナスレイン様以外だいたい揃っているようだけど、割と皆適当に三々五々、といった感じで数人ずつ固まって駄弁くっている。緩いな?
イードさんも居るけど、割と端っこの方でハイウィンさんと並んで、ひっそり隠れるようにしている。
そっちに行こうかな、と思ったんだけど、サクシュカさんとサーラメイア様に反対端の、結構前よりの所に連れてこられてしまいました。
目立つのやだよー、無双かましておいてから言えるこっちゃないから、言わないけど。
まあこんなに色んな髪色の人がいて、黒髪女性はあたしだけだから、どのみち多分目立つんだけどね!
マグナスレイン様早く来ないかな、黒髪仲間ー、なんちゃって。
そんな感じで待っていたら、お待ちかねのマグナスレイン様が現れた。結局付け髭は見つからなかったようで、クロークの襟を立てて口元を隠している。まあイケメンは何やっても似合うよね……。
マグナスレイン様はそのままゆったりと歩いていって、集団の一番前に陣取って、正面奥の扉の所に立っていた侍女さんらしき人に合図を送る。そういえば、マグナスレイン様の傍に、年齢のそこそこ行ってる男性がもう二人いるな。どなただろうね。親し気だし、マグナスレイン様のご兄弟かな?
ゆっくりと奥の大きな扉が開いて、現れたのは、青いドレスにマント、小さな宝冠を戴いた長身の女性。なんだかすごく判りやすい威厳、女王様で間違いないだろう。
王族の皆さんも全員が注目している。けど特に礼をしたりはしていない。家族だからかしらね?
あたしとしては当然初対面となる女王様は、サクシュカさんよりは年かさ感、サーラメイア様よりは年下感、不思議な感じの青い髪に琥珀の眼の美女でした。
でもなんだか全体的に疲労の気配が漂ってる。色々大変なのかしらね。
「兄上がた、サクシュカリア、そして息子たちよ、難儀な海上スタンピードを脱落者なく討伐し、沿岸への被害を防いだ事、大儀であった。
して、今回は外部の功労者が居ると聞き及んでおるが、そこな娘御で合っておるか?」
開幕の労いの言葉もそこそこに、あたしのほうを見る女王様。
あれ、こういう時って、礼をしたりとかしないとだめだっけ?
なんか皆さんが割とだらっと集合してる感じだし、王族ご一家以外の部外者があたしとハイウィンさんだけだから、多分正規の謁見ではないんだとは思うんですけどお!?
思わず固まっていたら、女王様にははは、と笑われた。
「そう固くなるでない。他国のような堅苦しい謁見作法などこの国にはない故な」
そんな面倒なものを定めている暇があったら、魔の森対策でもするわ、と女王様はまた笑う。
「これ、子供たちよ、その辺を説明しておらんのか?イードは普段王宮に寄り着きもせん故、多少は致し方ないとはいえ、サクシュカ?」
女王様が妹さんに向ける視線が、流石にちょっと厳しい。
だけど、サクシュカさんはてへ☆という感じでぺろっと舌を出して頭を軽く掻く仕草。なにこのかわいい。でもいいのかそれ。
「ほんに何時までも稚気の抜けぬ。まあ、それがそなた故仕方ないか」
呆れたように溜息を一つ、わざとらしくつく女王様。仲いいんだろうな、この姉妹、って判るような、そんな感じ。
「さて、うちの一本二本抜けたものどもは置いておいて、我はハルマナート国女王を務めるサリュナリア。そなたの名を伺っても宜しいかな?」
改めてあたしに視線を戻してそう名乗る女王様。
「はい、お初にお目にかかります。カーラと申します」
なんかこのくらいの挨拶でいいよ、とシエラが言うので、そのように。
「うむうむ。カーラと申すか。聞いたところによれば、治癒を範囲化できるというが、真であろうか?」
あら、女王様が気になるのはそちらですか。火力の方を聞かれるかと思ってた。
「いえ、治癒魔法は範囲化することはできません。マルチロックという付加を付けて、単体魔法のままの治癒を複数に当てることはできるんですけど」
ここは正直に答えておく。治癒魔法って魔力が足りてても範囲化はできないって、なんでかはっきり判るのよね。何故かしら。
《恐らくですけど、魔法の仕様のせいかしら。この世界の魔法は、守護魔法以外は治癒も含めて、自分をターゲットに指定できないからじゃないかと》
え、治癒って自分を治せないんだ。それで最初に怪我した時にサクシュカさんはより傷の軽いエンブロイズさんに治癒を飛ばしたのか。
でも、だとすると、治癒には特別に範囲化できないよう制限が掛かってる感じだわね?
「マルチロック……魔法研究院でたまに話題に上がる、あれか。攻撃魔法にしか使えないものかと思っておったが」
女王様が考え込む。魔法にも造詣が深い方なのかしら。
「範囲化できると、自分にも治癒がかかるように調整できてしまうので禁止処理がされている、そんな気がしてます」
自分にかけられない、ということは、多分そういうことなんだろう。
昔誰か自己治癒で死なない無双かまして禁止されたとか?まさかね、ははは。
「ふむ、理論的には有りうるな。研究院の方にもその線で調べさせてみるか。まあ再現できる魔力の持ち主が居る気がせんがのう」
女王様はそう言うけれど、そこまで魔力必要……だわね……マルチロック自体が現状だと途轍もない魔力食いの付加だもんねえ。
「マルチロックの使用魔力が結構多いんですよね……個数指定ができたら少しはマシになるかもしれませんけど」
こっちはできるともできないとも、判らない。
「……個数指定は研究院でも何度か試行しているが、上手くいっていないね」
話に割り込んできたのは、さっきまでいなかったローブ姿の、例によってイケメンだけど結構渋い感じの男性。……いや、いたわ、マグナスレイン様の隣に居た人の、一方だ。
「あら、マルロー兄上がマルチロックの研究室を持っておられたんですの?」
ここまであたしの横で静かに話を聞いていたサーラメイア様が首を傾げる。
なるほど、やはり並んでいた人たちはマグナスレイン様のご兄弟か。
《こちらの方がマルロー様ということは、もうお一方はマインケルプ様でしょうね》
シエラの解説。毎度有難いわー。
「ずっと研究しておられた魔法師殿がご高齢で引退されたので、去年引き継いだばかりさ。研究自体はその前から参加しているけどね、なかなかはかばかしくないよ」
魔法使いは魔法師というのか。
《攻撃魔法を主に使う方が魔法師です。守護や強化を主に使われる方は護法師、治癒を使う人はまんま治癒師って言われることが多いですね》
なるほど、んで召喚魔法メインだと召喚師かー。判りやすい、というか、複数使う人が少ない?
《そうですねえ。召喚を使うのに必要なのは才能より魔力と言われていますけど、他はだいたい得意が偏ったり、使えないものがあるのが普通ですね。貴方みたいに攻撃魔法も護法も治癒も、なんて贅沢な才能の人は稀も稀ですよ?》
あれ?護法もある?ってライトブレスって守護するほうのブレスか!
「そうか、マルロー兄上でも魔力が足らぬと?」
兄君に視線をやりながら女王様が訊ねる。
「全く足りないねえ。そもそも、私は魔力量では陛下の足元にも及ばんよ。イードでも足りないだろうしねえ。あの子は相変わらず召喚術一筋のようだから、手伝ってくれそうにもないけど」
気楽な調子でそういうマルロー殿下。
「しょうがないでしょう、マルロー伯父上、私には攻撃魔法の適正自体がないんですから」
いつの間にか近くに寄ってきていたイードさんが口を挟む。
《んんん?そんなはずはないんですが……鱗の有無に関わらず、龍の王族の方が攻撃魔法を使えないなんて、聞いたことがありませんけれど?》
シエラが首を傾げている様子。でも実際ないって断言してるし、誰も否定してないよ?
「まあその話はまた後程ゆっくりと。褒賞のほうをそろそろお定め頂きませんと」
マルロー殿下が話を変える。
「ああ、そうであったな。どうも魔法談議にはうっかり熱が入ってしまうのう」
ですよね、会話中の陛下の顔、完全に研究者のそれでしたものね。
しかし褒賞、とは?
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