第16話 コイバナ禁止令。
「でも冷静に考えると、マグナお兄様は元々ちょっと御歳とわたくしたちの種族的に見て老けすぎだったような気がいたしますし、若返ったのではなく、本来の御姿に近い、のほうでは?」
サーラメイア様がそう言って首を傾げる。可愛いな……
「えぇ?それでも妹の私たちより若く見えるのは違う気がする?」
サクシュカさんのほうは懐疑的。
あたし?種族の話されると、特に龍の皆さんはさっぱり判断が付かないので、だんまりです。
「我の顔に関しては……取り合えず部屋に戻って、付け髭でも探すとしよう。なんならサクシュカ、用意できるかね?」
流石にいきなり髭を生やす魔法とかはないらしい。マグナスレイン様がそんなことを言う。
《髭を生やす魔法……あったらそれはそれで凄いことになりそうですね……髭が生やせれば、髪もいけるだろう、みたいな……》
……成程、髪はながーい友達、とは限らないんですね?この世界でも。
そんなわけで、森を出たところで一旦マグナスレイン様とはお別れして、あたしたちは再び元の部屋へ。
サクシュカさんも流石に付け髭の手持ちはないわねえと言っていたので、まあしょうがないね。
「ねえサクシュカ、お兄様のあれ、どう思いまして?」
部屋の扉を閉めるなり、サーラメイア様がそんなことを言い出した。あれってどれだろう。
「サラ姉さま、流石にそういうのじゃないと思うのよ、私」
ああ、その返しは多分あれだな。あたしをエスコートしてた件でしょう。
「えー、おほん。先ほどマグナスレイン様が気をつけろっておっしゃってたのですけど、サーラメイア様、所謂恋バナがお好きだとか?
そういう話に我を巻き込むな、と伝言を頂いていますよ?」
ええ、ほぼ一字一句たがわず、そう仰ってましたから?
がふっ、といわんばかりのポーズで撃沈するサーラメイア様(びっくりするくらいかわいい)、ぶふっと吹き出すサクシュカさん。
「あはははは、そうよねー!兄上にもとっくにバレてるわよねー!」
「い、いけません、これはいけません、お兄様の中でのわたくしのいめーじが」
わたわたしているサーラメイア様が大変可愛らしくて思わずほっこりしてしまう。
「それはそうと、サクシュカ様もそろそろお着替えいただきたいのですけれど」
あたしの着付けをしてくれた時の後片付けも終わったらしいお針子さんが首を傾げて着替えを促す。そういやサクシュカさん、ボディスとタイツのままでしたね。
それに、皆で森まで行っていたから、結構時間経ってるわよね。
「あーはい着替えますう……」
笑いを止めて、何故かしょんぼりと衣装を選び始めるサクシュカさん。
森の中は歩きやすかったけど、枝をひっかけたりしていないかどうか、あたしとサーラメイア様もチェックしてもらった。幸い問題なし。
「そういえばこの衣装の色は、サーラメイア様の髪と瞳の色に合わせてるんですね」
「そうなのよ。逆の色目のものも作ったんですけど、そちらはちょっとだめにしてしまいましたの。ピンクが主体のものも可愛らしかったのですけれど」
うんうん、サーラメイア様が着てる姿も、かわいかったろうな。
「ところでカーラちゃん、サラ姉さまと私の見た目の年齢差、気になってない?」
サクシュカさんが思い出した、というように訊ねてくる。
「あー、イードさんがそもそもちょっと老け顔っぽいなとか思ってたんで、まあそんな感じかなって」
あれでも女性で鱗無しとかあるのかしら?
「ああ、鱗無しの事はイードちゃんに聞いてるのね。そうなの、わたくし、鱗無しで、普通の人間と変わらない感じに歳を取るんですの。
そのくせ、ついうっかりサクシュカと同じように食べちゃうものだから、すっかりまんまるくなっちゃって」
ころころと笑いながらそんな風に言うサーラメイア様。
「若い頃はそれでも私とあまり変わらなかったんだけどねえ。イードにも気を付けさせないとかしら」
サクシュカさんがため息を一つ。
「どうでしょう。イードさんの場合、研究に没頭しすぎて食べないことがちょいちょいあるそうなので、逆に痩せすぎな気がするんですよね」
ここしばらく一緒にいたけど、ほんとにあの人生活が不規則でしてね。
「あー、やっぱりそうか……ハイウィンがたまに面倒見てくれてるとはいえ、あの子も自分の種族の世話もあるから常駐ってわけにいかないしねえ」
「そもそもあの国境の城塞は、職員を派遣しようとしても拒否権を使われてばかりで、全然後任が決まりませんものねえ」
任命拒否権あんのかこの国。そしてあの城塞不人気ナンバーワンとかか。
まあそうよね、一般的に考えて、あそこは最前線だ。好んで行きたがる人なんて、あんまいないよね。
あたしとしては、もふもふと戯れられて、あんまり変な人付きあいも発生しなくて、今の所気楽な住処なんだけど。
スタンピードが出たらまあともかく?いや今のあたし、なんか対抗するための火力はしっかりあるよねって……
「カーラちゃん的には、あそこはどうなの?迷いの魔の森からのスタンピードはまだ未経験だとは思うけど」
「そうですね、いろんな聖獣さんたちと触れ合えるので、個人的には気に入っていますけど。スタンピードはまあ……最悪吹っ飛ばせちゃうかなって……」
サクシュカさんの質問には、正直に答えておく。ちょっと最後目を逸らしてしまったのは、うん、しょうがないよね?
「……でーすよねー。カーラちゃんなら普通にスタンピード一人で半壊させるわよね……」
「え?どういうことですの?確かに人にしては魔力の多い方だとは感じますけど」
あたしの実態?を知ってるサクシュカさんが遠い目を、そして知らないサーラメイア様は不思議そうな顔を。
「この子、海のスタンピード半分くらい一人で殲滅したのよ……上位治癒持ちで光属性レーザー持ちとかどこの大聖女よ……」
ごめんなさい、流石に聖女やる予定はないはずです。確か目指さないといけないのは巫女さんのはず。
《覚えてたんですね……すっかり忘れているものかと》
えっシエラが酷い。いくらなんでも神様との約束は忘れませんよあたし!
……まあ、修行がどうとか、あたりの事はあんまり考えてなかったけど。
《とはいっても、魔力周りは溢れんばかりなので、その修行飛ばせるのは大きいんですよねえ。魔力が多いと寿命も延びますし》
へえ、そうなんだ。魔力そのものの動きは判るようになったけど、個々人の魔力量とかはイマイチ判らないのよねえ。
《龍の王族の方は皆さん魔力が高いですね、流石に。魔力量に鱗の有無はあまり関係ないようですけれど》
鱗無しと言いつつ、イードさんもサーラメイア様も、魔力は高いのだそうだ。
でもそれだとさっきの話と相反している気がする?
《鱗のある方の老化の遅さは抜きんでているように感じますから、多分相乗効果というものでは?》
なるほど。まあそこは今の所推測だからね。
気が付くと、サーラメイア様がぽかんとした顔から、キラキラ輝くような憧れの顔に変わっていた。あれえ?
「まあ!わたくし達が苦手とする海の魔物群を蹴散らしてしまえるだなんて!なんて素敵なんでしょう!」
あー、出陣こそしないけど、苦手は把握しておられる、か。
「とはいっても、そうそう何度も手を借りるって訳にもいかないわよね。まあ、海から来るのは魔の森からの十分の一以下の頻度だから、次は当分ないはずだけど」
サクシュカさんはそういうけれど、あたし自身は手を貸すのにやぶさかではないのよ?
ああでも、彼女は、彼等はきっと、この仕事に誇りを持っている。
それなら、あたしがわざわざひっ掻き回すようなことはしなくていい、か。
そうね、いつか、海以外の場所で、無双する彼らが見てみたい、な。
いや、スタンピードなんて、回数少ないに越したことはないんですけどね、きっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます