第29話 竜塵砂海(中編)

 暑い日に飲みたい物と言えば何か。

 人それぞれ、好みはあるだろう。しかしほとんどの人はこう付け加えるはずだ。

 冷たい飲み物、と。

 フミカたちもまた、ひんやりとしたドリンクを補給していた。

 一気に飲んで、オヤジチックに息を吐く。


「くかぁー!! キンキンに冷えた花蜜は最高だね! 流石ヨアケさん! 天才の発想ですよ! もはやこれは天使級です!」

「何よりですわ。確かに天使的うまさ、というものかもしれませんね」

「死ぬほどうまいと言い換えてもいいな」

「そいつは勘弁だぜ……」


 苦々しい表情のカリナ。咎人牢墓で味わったあの花蜜を思い出したのだろう。

 これまで安全だったもの、有用だったものが牙を剥くあの感覚。

 正直に言えば、フミカも二度とごめんだ。

 安全なものは安全なままであって欲しい。

 ちら、と視線を送る。

 大きな泉の中に浮かぶ、とても小さな妖精に。


「ミリルも飲んでみたら?」

「ボクに必要は――」

「いいから」

「むぐっ!?」


 顔から浴びるように花蜜を受けたミリルが、抗議の眼差しを返してくる。

 が、即座に態度は軟化した。もしかしなくても、口に入った花蜜が原因だ。


「ま、まぁ、悪くはない……けれど」

「意味がないことだって、してもいいでしょ? 極端に言っちゃえば、それが生きるってことなんだし」

「お前は無駄の割合が多すぎるけどな。勉強に割り振らなきゃいけないリソースもゲームに費やしてるだろ」

「うるさいなぁ。いいんだよ。ゲームは人生なんだから」

「ゲームは、人生……」

「それじゃ生活できないだろ」

「できますぅ。どうにかしてくれるって。未来の私がね!」

「他力……いや自力……? どのみち無理じゃねえの……?」

「……ボクはいいと思うよ」

「ホント!? だよねーミリルならわかってくれると思ってた!」


 フミカが満面の笑みを作ると、ミリルは顔を背けた。

 恥ずかしがっているのだろうか。なんにせよ、以前より打ち解けてきている気がする。

 このまま、仲間から友達にクラスチェンジできる日も遠くなさそうだ。

 コミュ障で友達が少ない自分が、である。

 流石、私。やればできる子。 

 などと、自画自賛したところで。


「じゃ、ヨアケさんも復活してだいぶ経ちましたし。先延ばしにしてた問題と対峙しますか」


 全員の視線が、泉の傍に生えるヤシの木に集中する。

 そこに隠れるようにして腕を組んでいる、顔をスカーフで覆っている男へと。




「ここに辿り着いたということは、なかなかの勇敢さだな。尊敬してやるよ」

「なんだこいつ、偉そうな奴だな」


 早速食って掛かるカリナ。

 茶色いスカーフ男は、吟味するようにフミカたちを見比べた。


「しかしこのエリアは、あらゆる場所と比較しても過酷だ。無事に生き残れるか……ふん、どうせ死にはしないか。生きたまま砂に埋もれないよう気を付けるんだな」

「なんだって――」

「暖簾に腕押しするようなものだ。やめておけ。本題に入ろう」


 ナギサに窘められて、カリナが身を引く。

 スカーフ男がようやく本題に入った。


「俺は情報屋だ。ここまで辿り着いたことを祝し、一つ、耳寄りな情報を教えてやろう」


 チッ、というカリナの舌打ち。暑さで普段よりもイライラしているのかもしれない。


「この世には、摩訶不思議なものがある。例えば、楔の花なんてのは最上級の神秘だな。由来はせいぜいが伝説だけ。神が植えた花だと言う奴もいれば、星から降ってきたなんて話もある。或いは、祝福に見せかけた、呪いの花だって言う奴も。けどよ、不思議じゃないか? みんな花は見たことあるのに、種を見たことがない。花が生えるためには、種子が必要なのにな」

「確かにそうですわね」


 ヨアケが相槌を打つ。情報屋は饒舌に続けた。


「噂では、どこかに、種があるらしい。近くには守護者がいて、それを見守ってるとか。なんでも、楔の花とは別系統の不死の守護者らしいが、心当たりあるか? もしあれば、よく探ってみることだな。なあに、気にすることはない。不死ならば死なん。少しくらい殴っても、ちょっと怒られるぐらいで済むさ」

「何かありますか? フミカさん」


 ヨアケはフミカを真っ直ぐ見つめてくる。過去の記憶を思い起こそうと、うんうんと唸る。

 しかし思い当たらない……厳密に言えば、死なない敵ばかりでどれが対象なのかがわからない。

 種自体もここに至るまでいくつか入手している。

 回復用の木の実だとか。調合用の種子だとか。


「うーん、それっぽい敵、多くないです?」

「不滅の敵だらけですからね。それにまだ出会っていない可能性もありますから。……ミリル、あなたはどうです?」

「どうしてボクに?」

「フミカさんは、そしてわたくしたちはプレイヤーです。ですがあなたは違う。そうですね、細かく言えば違いますが、ゲーム実況を見ているリスナー……とでも言えばいいでしょうか。見え方が、わたくしたちとは違うはずです。そして、気付きもまた」

「……知らないよ」

「そうですか。なら仕方がありませんわね。後でいっしょに考察しましょうか。このステージを、クリアしてから。でないと……」

「でないと?」

「またもや、溶けて、しまいそうです……」


 微笑みながら倒れかけるヨアケ。


「わ、わーっ!? 急いで泉に!」




 ※※※




「申し訳ありませんが、先に進んでくださいますか? 後から追い付きますから……」


 真っ青なヨアケに言われて、カリナたちは三人で進むことになった。

 うだるような暑さではあるものの、情けない……とは少し思ったものの、虫沼の楽園での失態を思い出し、言及するのはやめておいた。


「進むのはいいが、どこに行けばいいんだこりゃ」

「向こうだな、恐らくは」


 迷いなく方向を指し示す、人間探知機もといナギサ。

 その超人っぷりをすごいなとは思うが、嫉妬はしない。

 ただ、


「流石ナギサさんですね!」


 目をキラキラ輝かせるフミカ。

 そっちの態度は引っかかった。


「さっさと行くぞ。暑いことに変わりはないんだからな」


 オアシスの存在は心の拠り所にはなるが、あくまでも精神的にマシというだけだ。キンキンに冷やした花蜜にも限りがある。幸いにも冷却効果は保たれているので、人一倍暑さに弱いヨアケ以外なら問題なく活動できる。

 ただ、一度飲んでしまえば冷やし直しだ。いつもよりも神経を使う。


「でも、ナギサさんの探知でどうにかなりそうです。ありがとうございます! 良かったね、カリナ!」

「ふん。そうだな」


 鼻を鳴らすとフミカが不思議そうな顔をする。

 こっちの気を知らずに、ナギサはそそくさと進み始めた。

 暑さを物とせず先導して、軍人みたいにハンドサインを出してくる。

 止まれ、とのことだった。

 先の砂を指し示す。砂がいくつも盛り上がっているのが確認できた。

 小声で静かに囁いてくる。


「ここに先程のドラゴンが9体ほど潜んでいる」

「で、どうすんだ。このままバトルのか?」

「私は構わないが、君たちはどうする? 花蜜はなるべく温存しておきたいだろう?」

「そうですね……無傷で突破したいところです」

「魔法で一掃するか?」

「けど、ドラゴンって元々あまり魔法が効かない生き物なんだよね」


 つまりせっかくの高火力も形無しであるらしい。


「皮膚は強固に思えた。となれば、打撃が有効だ」

「それはいいんですけど、流石にこの数の相手は無理ですよ」


 しかし釣るのも難しそうだった。一匹が反応したら最後、全ての敵がアクティブになるだろう。


「音を聞く限り、彼らは回遊しているようだ。魚のようにな」

「と言いますと?」

「タイミングを見計らって音を出せば、出現位置をコントロールできる。そこをフミカ君が叩くんだ。こちらに接近するまで、地上に姿を現さないようだからな」

「いいですね。けど、どうやって」

「こうするんだ」


 おもむろにナギサがナイフを投擲する。

 と、そこへ複数の砂だまりが動き始めるのが見えた。最初こそ盛り上がっていたが、深く潜ったのか沈んでしまう。これでは、どこからどのタイミングでやってくるかわからない――ナギサを除いては。


「右だ」

「はい!」


 フミカが右へとメイスを振るった瞬間、タイミング良くドラゴンが飛び出して、その脳天に直撃を受けた。


「左」

「はい!」

「前、右斜め前」

「はいっはい!」


 モグラ叩きのように効率よくドラゴンを叩いていくフミカ。

 その姿はまるで正月の代名詞、餅つきのようだった。

 息ぴったりの職人が、阿吽の呼吸で餅をつく。

 周囲のギャラリーはただ、歓声を上げながら見つめるだけ。

 二人以外、割って入る余地はない――。


「……っ」

「いい具合にダメージを与えたな。まとまってくるぞ。前方だ」


 今度はわかりやすく巨大な砂だまりがフミカの元へ移動してくる。

 そこへ、フミカは勝ち気にメイスを構えた。


「行きます! 地割れ打ち!」


 フミカのスキルで一網打尽となったドラゴンたちは、悲鳴を上げて絶命。

 敵を殲滅したカリナたちは順調に目的地へと進んでいく。


「こりゃなんだ? 遺跡か?」


 現れたのは、かつては壮大だったであろう建築物。

 古代文明の遺跡とでも言うべき廃墟が点在している。


「アルタフェルド王国のもの……ですかね?」

「ここに来るまでいくつか文字を見たが、形状が違う。別の文明なんじゃないか。ヨアケならもう少しわかるだろうが」

「なんにせよ滅びたんならどうでもいいだろ」

「こういうのが攻略の鍵になったりするんだから。ちゃんと考察しないともったいないよ?」

「フミカ君の言う通りだ。調査した方がいい」


 フミカとナギサの意見が一致している。

 ただそれだけのことなのに、妙な感情が内側から溢れてくる。


「チッ。じゃあ、さっさと済ませろよ。あたしはアイテムがないか見てくる」

「あ、待ってよ。カリナ。私も行くから」

「いや別に一人で――」

「それはナギサさんの役目。でしょ?」

「……好きにしろよ」


 嫌な態度を取ってしまう。

 そんな自分に嫌気が差しながらも、カリナはフミカと探索を始めた。



 ※※※



 どちらかというと、エジプトだとか、そういう砂漠系の遺跡だった。

 フミカの脳を占める要素は大抵がゲームだが、幸いにして遺跡調査も経験がある。

 もちろん、ゲームで学んだ知識だ。

 トレジャーハンターが主人公のゲームのおかげで、ちょこっとだけならわかる。

 無論、現実の考古学や遺跡調査とはかけ離れているだろうが、


「同じゲームになら通用するよね……!」


 鼻歌交じりに壁画をチェックする。文字らしきものが書かれているが、当然読めない。

 それでも絵は理解できた。ドラゴンの絵だ。

 たくさんのドラゴンと、人々がいっしょに暮らしている絵。

 薄暗い石造りの建物の中を、カリナと見て回る。


「やっぱりドラゴンと関係があるみたいだね」


 ちら、とカリナを見る。彼女は苛立っている。

 原因は暑さのせいか、はたまたそれ以外か……。

 いいや、きっとそれ以外だ。


「なんか、ごめん」

「なんで謝るんだよ。悪くないのに」


 似たようなやり取りを、ゲーム内で出会ってすぐにした気がする。

 でも、今回は確信があった。とりあえずで謝っているわけではない。


「自意識過剰だったらさ、恥ずかしいんだけど」

「あ?」

「直接的な原因じゃないとは……思うけど、無関係ではないよね? カリナが怒ってるの」

「は? なんでそう思う――」

「わかるよ、もう」


 カリナへ距離を詰めて、その瞳を見つめる。

 カリナが不機嫌になった時、必ずと言っていいほど、自分と関係していた。

 なんでそうなるのか。ロジックは説明できないし、完全に理解しているとは言い難い。

 でも、自分が関わっているのは確かなのだ。

 だから、この謝罪には正式な理由がある。因果がある。


「だ、だとしてもおかしいだろ。悪いわけじゃないのに謝るのは――」

「悪いから謝ってるわけじゃないよ。気苦労かけてごめんねってこと」

「だから――」

「……誰にでも言う訳じゃないよ? カリナだから、言ったの。親しき仲にも礼儀ありってやつ」

「なら……いいか」


 カリナは顔を背けた。自然と笑みがこぼれる。

 会話を続けようとして、ナギサの声が反響した。


「重要そうな壁画を発見した。来てくれ」



 ※※※



 砂埃を被った、ところどころに欠け、ひび割れ、色褪せた壁画。

 それでも、大事な部分は残っていた。


「ドラゴンと……花……?」


 黒色の巨大な竜と、これまた同じくらい大きな金色の花が描かれている。


「楔の花だと私は推察するが。君はどう思う」


 ナギサの問いかけに、フミカは顎に手を当てた。


「私もそう思います。けれど――」

「なんか、怪獣映画みたいだな」


 カリナの例えはわかりやすい。

 まさに怪獣同士が睨み合っているような。

 特撮映画のワンシーンめいた壁画だ。

 設定では古代の人々が描いたということになっているが、実際これを作り上げたのはマメシステムズというゲーム会社のプログラマーであり、デザイナーであり、シナリオライターだ。

 そういうジャンルのオマージュが含まれていても不思議ではない。

 そこまで考えて、ナギサは思考を改める。


(メタ読みは良くない、か。黙っておこう)


 フミカが続ける。


「やっぱりこれ、戦ってるように見えるよねえ」

「ま、喧嘩前の睨み合いだわな」

「或いは、決闘に臨もうとしている最中だ」


 ナギサとカリナは視線を交わした。が、カリナから視線を外した。

 そのことに違和感を覚えつつも、フミカの考察に耳を傾ける。


「竜と花が争ってる……。そして――」


 フミカが壁画を指す。指先には、花の元に集った人々がいる。

 剣や弓、槍を掲げる古代人の姿が。


「多勢に無勢だな」


 少数のドラゴンと、花の元に集まった軍隊。

 どちらが勝利者であるのかは。


「む」

「何か気付いたことでも?」

「ヨアケに任せるんじゃなかったのか?」

「いや、私は特に考察を深める気はない。専門外だからな。だが、こちらは別だ」

「こちらってなんだよ?」

「あちらと言い直すべきか」

「あちら――」


 ナギサは天井に向けて人差し指を立てる。

 今にも崩れそうな天井に開いた穴を。

 すぐさま、轟音と共に揺れが起きた。


「なっなんだ!?」

「地震!?」

「違うな。原因はアレだ」


 示し合わせたかのように、覗いてくる。

 巨大な瞳――黒きドラゴンの眼光が。


「粋な演出だな」

「ま、まずいっ!? 潰されちゃう!」

「案ずるな」


 予期していたナギサの右手には、クロスボウが装備されている。

 瞳に直撃を受けたドラゴンが絶叫する。


「目薬にしては刺激的過ぎたか」


 天井越しでも、行き先はわかっている。ナギサは駆け出した。


「ナギサさん!?」

「あの眼光、見覚えがある。私に任せてもらおう」


 瓦礫が転がる薄暗い遺跡を、詰まることなく進んでいく。

 自身の持つ身体ポテンシャルを余すところなく発揮して、灼熱の砂地へと到達した。

 そこへ現れる巨大な影。

 

「久しぶりだな。竜の通過路以来か」


 上空から飛来する黒色の竜。死黒竜ハイバリ。

 その頭部には、傷がある。ナギサが突き刺したサーベルの切創が。

 形状は多くの人々が想像するドラゴンそのもの。

 ただし巨大だ。渓谷に掛かった長橋を容易く落下させるほどに。

 しかし大きさが必ずしも強さに直結するとは限らない。


「ふむ。細かなディティールは異なるが、あの壁画の竜に似ているか」


 吠えるドラゴン。滞空しながら、大きな口を開く。

 ドラゴン系のオーソドックスな技――火球砲撃。


「いや、考察は私の役目ではなかったな」


 流星の如く流れ落ちる火球。地上を爆撃し、砂煙が周辺を包み込む。


「的が小さすぎて、当たらないか?」


 煙を貫くように精確に、矢はドラゴンの頭部――古傷へと命中した。

 悲鳴を上げながらドラゴンが砂上へと接地。

 弓からサーベルへと武器を変え、ナギサは疾走する。

 ライフゲージの減少は、三撃を与えたにしては減少率が高い。


(古傷でのダメージボーナスか)


 どうやら前回傷付けた頭部が弱点化しているらしい。

 これまでの相手はいくら手傷を負わせたところで、その傷が継続することはなかった。

 これも考察ポイントだろう。つまり、考える必要はないということ。


「私好みだ」


 戦いはシンプルの方がいい。

 肉薄したナギサを、ドラゴンが前足を振るって叩き潰そうとする。

 それを跳躍で難なく回避。加えて、擦れ違い様に斬撃を見舞った。

 今度は身体を回転するようにして、尻尾で薙いでくる。

 ブレイブアタックにて迎撃。タックルも同様に。

 ナギサにとっては、砂漠に潜んでいた小柄なドラゴンも、巨体が自慢のハイバリも大した違いはない。

 倒せる相手。倒す、相手。


「肉が食えれば良かったんだが」


 養父によって、サバイバル術は一通り叩き込まれている。

 例えドラゴンだろうと、美味しく調理する自信がある。

 が、今回は流石に披露する機会はなさそうだ。


「残念だな」


 機会に恵まれないのも。

 このドラゴンのよわさも。

 ドラゴンが今一度の大咆哮。必殺の一撃を敢行するつもりだろう。


「訂正しよう――」


 無害の一撃……否。

 墓穴の一撃だと。

 ドラゴンは炎を吐き出しながら突撃してくる。

 サーベルによる斬撃ブレイブアタックが炎を霧散させる。

 構わず突進する竜。

 大して、動じることなく剣を構えるナギサ。

 凛とした眼差しと共に放たれるのは。


「言い得て妙か」


 サーベルを鞘にゆっくりと仕舞う。

 剣術スキル、竜殺し。

 竜を屠るための一閃を受けたドラゴンは、血しぶきを上げて絶命する。

 死体が作り上げた砂埃が周囲を覆う。

 その不快さも、ナギサにしてみればそよ風と同じだ。

 視界が晴れる前に一点を見つめる。

 砂埃がなくなると、強烈な日差しが襲ってくる。

 苛烈な太陽すら、ナギサは意に介さない。

 その影響をまともに受けている仲間が、嬉しそうに拍手をした。


「すごいすごい! 流石ナギサさん!」

「造作もないさ。それに、すまなかった。獲物を独り占めしてしまって――」

「全然いいですよ! そういう時だってありますよね! ゲーマーあるある、です!」

「ふっ、確かにな」


 此度の戦いは、効率が良かったから行ったのではない。

 純粋なこだわり、戦闘欲だ。戦いという気持ちがゆえだ。

 これならば、ヨアケも理解を示してくれるだろう。

 歯ごたえはなかった。

 されど、スカッとした。


「ありがとう。……む」

「ナギサさん?」

「いや、なんでもないさ。そろそろヨアケも復活したはずだ。迎えに行こう」

「はい! 考察を進めましょう!」


 フミカは意気揚々として変わりはない。

 しかしナギサは見逃さなかった。

 不服そうなカリナの表情と、その小さな呟きを。


「あたしだって、もっと……」

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