第29話 成長を信じて

音取との勝負にも決着がつきその日の学校は穏やかだけど少し賑やかに過ぎていった。

音取は早退し俺達はクラスメイトに囲まれていた。

その内容は音取に一杯食わせてくれてありがとう、といった内容だ。

外面はなんとか整えたもののコミュニュニケーションがめちゃくちゃ得意、というわけでもない俺は少し戸惑ってしまったけど朱里さんがフォローを入れてくれたりみんな優しくてかなり仲良くなれたと思う。


「今日は濃い一日だったなぁ……」


「あはは、大人気だったね。翔吾くん」


気づけばあっという間に今日の授業は終わり放課後となっていた。

隣では朱里さんがおかしそうに笑う。


「人生で一番人と話したかも……」


「それは女の子ともかな?」


朱里さんが渋い表情をする。

今日は女子にもたくさん話しかけられて冗談半分ではあったものの『付き合おうよ〜』と言ってくる女子が割といた。

もちろん俺は冗談半分だと理解してるから苦笑いを返すだけだったんだけどそれで少し朱里さんが拗ねてしまったのだ。

昼休みに空き教室を探してそこで甘やかしまくったらやっと機嫌を直してくれたのである。

俺のせいじゃないのに……解せぬ。


「勘弁してくれ……俺には女子と話すのは結構ハードル高いんだから」


「え〜?私とは一緒にお泊りとかするくらい積極的なのに〜?」


どうやらさっきのはからかっていたらしい。

実際今は少しニヤニヤして俺のことを見ている。

イラッとするほどではないがやられっぱなしでは終われないのでため息をしつつもカウンターをいれる。


「ベッドに引き釣り込んできた人が言うセリフとは思えないな。積極的すぎて襲ってほしいのかと思ったよ」


「う……それは言わない約束じゃん……」


「あはは。今回は俺の勝ちかな」


俺はポンポンと優しく朱里さんの頭の上に手を乗せる。

すると朱里さんも笑顔を向けてきた。


「もぅ……髪型くずれちゃうよ……」


「おっと、それじゃあやめておいたほうがいいかな?」


「……いじわる。わかってて言ってるでしょ」


朱里さんがジト目で俺に言ってくるが可愛いだけなのでダメージは全く無い。

それに今朝本気で怒ってたところを見ちゃったわけだしこれくらいなら本当に可愛いもんだ。


「え〜ちょっとわかんないから朱里さんの口から言ってほしいな?」


「……頭撫でて欲しい」


「はいはい」


俺は朱里さんの頭を撫で始める。

朱里さんは気持ちよさそうに目を細め鼻歌を歌っていた。

満足そうでなにより。


一ヶ月ほど前、朱里さんの部屋に泊まってからスキンシップがかなり増えた。

テストが終わってからはそれが顕著に出ている。

多分本人も邪魔しないように我慢していたり、俺に見えないところで勉強を頑張っていたであろうことは知っているから文句は言わずそういうときはきちんと甘やかす。


「それじゃあ翔吾くん。そろそろ帰っ──」


「ごめん。その前に一つやり残したことがあるんだ」


俺がそう言うと朱里さんは少し驚いたような顔をする。

そして控えめに微笑んだ。


「そう……だね」


「そんなに時間はかからないと思うけど朱里さんは先に帰っていてくれ。俺は決着が着いたらまたお邪魔するから」


「ん……わかった。一人で大丈夫かな?」


「大丈夫だ。今まで朱里さんにみっちり仕込まれたからな。しっかり向き合ってくるよ」


「……頑張ってね。いちばん大事なのは自信、だからね!」


「ああ、それじゃあ行ってくる」


俺はカバンを自分の席に置いたまま歩き出す。

目的地はただ一つ。

屋上だ。

クラスメイトの誰かが屋上にいるって言ってたしな。


これから俺は昔のこととしっかりと向き合うんだ。

それで自分の中できちんと決着をつけるんだ。

中途半端な状態のままいるのは今までずっと助けてくれた、告白してくれた朱里さんに失礼だ。

だからちゃんと終わらせる。


決着がちゃんと着いた暁には───


俺は色んな思いを胸に抱えたまま屋上の扉を開いた。


────────────────────────

なんか想定よりも短くなってしまった。

でも次の話までいれると文字数多くなり過ぎになりそうなので一回ここで切っちゃいます。

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