第28話 思惑と現実(杏奈視点)

どうして……どうしてこんなことになってしまったんだろう……

あたしは一人屋上の端っこで座り空を見上げていた。

もう授業の終わりを告げるチャイムは鳴っているのでわざわざ屋上にくるような人はいなく自分一人だけだった。


「もう……ほんと最悪」


このたった数ヶ月の期間であたしを取り巻く環境は大きく変わった。

いや、変わってしまった。

亮君にもフラれるし亮君の堂々の浮気宣言のせいで友達とも微妙に距離感が生まれてしまっていた。

もう何がどうなってるのかと聞きたいくらいだ。


「勝負……翔吾が勝ったんだよね……」


大瀬良と亮くんの間で交わされた勝負のことはあたしも知っている。

そんな勝負が取り付けられたと友達から言われてびっくりしたことも昨日のように覚えているし亮くんと別れるときも改めて面と向かって言われた。


『朱里と付き合いたいから別れてほしい』


ショックだった。

お前じゃ朱里には勝てないと断言されたのだ。

朱里がすごく可愛くて勉強も運動もなんでもできちゃうすごい人なのはあたしが誰よりもわかってる。


妬ましかった。

羨ましかった。

あたしが欲しかったものを何でも持っていて、いつもみんなに愛されている。

ずるい。

どうしてあたしじゃないの?

あの子さえいなければあたしがその立場だったのかもしれないのに。


なんどそう思ったかわからない。

悔しくて、勝ちたくて、メイクやファッションも勉強した。

勉強は苦手だけど手を抜くことはしなかった。

でも……


『やっぱ高垣さんって可愛いよな』


『それな。流石、学年一の美少女の名は伊達じゃないぜ』


『どうしてお肌あんなにすべすべなんだろうね?』


『今度聞いてみようかなぁ……どんな化粧水使ってるんだろ』


みんなの話題はいっつも朱里。

あたしなんて友達以外からはほとんど見向きもされない。


もうどうしようもなかった。

人間として、一人の女として朱里には勝てないんだと悟ってしまった。


そんなときだった。

クラスが変わったばかりの頃、驚くべき話を聞いてしまったのだ。


(やばっ……教科書持ってきてない……はぁ、隣のクラスの友達に借りに行くか……ん?あれって……)


視界に入ったのは朱里と今年初めて同じクラスになった高窪さんだった。

なにやら真剣な話をしているようでいけないとわかっていてもつい耳を傾けてしまう。


「それ、本当なの?彼が好きって……」


「う、うん……」


(朱里が誰かのことを好き……!?どんな告白も断るものだから恋愛に興味がないんじゃないかと噂されていたけど……まさか好きな人がいたなんて……)


サッカー部エースの佐藤くんだろうか。

それとも生徒会長の田中先輩?

陸上部期待の新人って言われてる鈴木?

しかし朱里の好きな人はあたしの予想と反していた。


「私は……大瀬良くんが好き」


(えっ!?それってもしかしてあたしの隣に座ってる冴えない奴!?)


「そう、彼なのは意外だけど……まあ私は朱里が好きな人とうまくいくように応援してるわ」


「久美ぃ……ありがとぉ……!」


「友達だもの。当然でしょ」


どうやら本当に朱里が好きな人はあたしの隣に座っている陰キャらしい。

これは……使えるかもしれない。

そう思ったあたしは早速行動を始めた。

吐きそうな思いを我慢しながら笑顔を浮かべ話しかけていたら思っていた以上に早く翔吾はオチた。

あとは友達との勝負にわざと負け翔吾に告白すれば一も二もなく食いついてきた。


あたしは内心意気揚々と朱里に翔吾と付き合い始めたことを伝えた。

すると朱里は、


『そうなんだ。幸せにね』


それだけだった。

違う、そうじゃない。

あたしが見たかったのはそんなんじゃない。

もっと悔しがりなさいよ、悲しがりなさいよ。

それとも男なんていくらでも捕まえられるからどうでもいいってこと?

一々癪に障り思った成果を得られなかったあたしは翔吾と別れることにした。


だったはずなのに。

なぜか翔吾と朱里が一緒に登校してきた。

しかも手まで繋ぎ付き合っていると言うではないか。

何が起こってるのか理解できなかったが、これはチャンスなのかもしれない。


(朱里が付き合った男がひどければ朱里も見る目がないと評価が下がるかもしれない……徹底的に叩いてやる……!)


「どうしたの〜朱里〜!そんな冴えない男と腕なんて組んじゃって」


翔吾は一瞬ビクッとなった。

朱里はこちらを見ると笑顔になる。

顔は笑っているが目は笑っていない、これは怒っている顔だ。

でもあたしはもう止まれない。


どうせ朱里は翔吾で遊びたいだけだろうと思っていた。

でも、朱里はクラスメイトたちが注目する中で頬にキスまでやってのけた。

予想と違ったことに少し驚いたが朱里の男の趣味が悪いことには変わらない。

これであたしの勝ちだ……だとそのときまでは思っていた。


翔吾が変わったのだ。

それも誰もが認めるような存在に、少しずつだが変わっていこうとしていた。

雰囲気も明るくなり女子人気も上がり始めた。

なんで……なんでなのよ……!

なんであたしの思う通りにならないの!


「朱里さえ……いなければ……!」


「そんなことは言うもんじゃないよ。杏奈」


一人だったはずなのにいつの間に……!?

振り返るとそこに立っていたのは先日あたしが捨てた男だった。


──────────────────────

朱里さんが杏奈と翔吾が付き合ってもあの反応だけで終わった理由も後ほど書きます。

ので朱里さん冷たい、とか叩かないでください。砂乃のメンタルが死にます。


あと砂乃のテストが少しずつ迫っております。

更新できるかわからなくなるのでどんどん話を進めちゃいます。


もしかしたらもうそろそろ終わるかも?

でも不定期更新にして朱里さんと翔吾のイチャイチャを書くという方針もありえますのでまだ未定です。

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