第27話 ヤリ◯ン男の末路

テストが終わり一週間ほどが過ぎた月曜日のこと。

俺と朱里さんは校門の前に立ちある人物を待っていた。

その人物とはもちろん……


「よぉ。ちゃんと別れる用意はしてきたのか?」


音取はニヤニヤとした笑みを浮かべながら歩いてくる。

自然と俺と朱里さんの表情は険しいものへと変わった。


「負けるつもりはないって言ってるだろう。最初から勝った気でいるなよ」


「はっ!どうだか。負けてから後悔したら遅いんだぜ?」


とりあえず言い返しておくが音取に堪えた様子はない。

何を言っても無駄なようだ。


「とにかく結果を見に行かない?ここで言い合っててもしょうがないしさ」


朱里さんが俺達のにらみ合いに仲裁に入る。

彼女の音取に対する目は厳しいものではあったが。


「ふん。さっさと行くぞ」


音取は先にズカズカと歩き出した。

俺はため息をつきながら順位が張り出されている掲示板に向かって歩き出す。

朱里さんも俺の横にひょこひょこ付いてきて苦笑する。


「あはは……音取くんも相変わらずだね」


「全く……本当自分勝手なんだから……」


「大丈夫、ちゃんと翔吾くんは勝ってるよ。そしたら音取くんと関わるのはこれでおしまい。ね?」


朱里さんのポジティブなフォローに俺は思わず笑いが溢れるのだった。


◇◆◇


順位表が貼られた掲示板の前にはたくさんの人だかりができていた。

クラスメイトの顔もちらほら見えてその面々はざわついているように見える。

結果は既に出ているのだろうがどういう反応なのかイマイチつかめない。


「さあ確認するぞ。負けたらさっさと別れろよ?」


「負けないって言ってんだろうか。勝ちだと勝手に思い込むんじゃない」


俺達は上から順位を確認し始める。

そして一番上には見覚えしか無い名前が書かれていた。


進学文系


1位 高垣朱里 856点


「ば、化け物……?」


「ひどい!せっかく頑張ったのに!」


俺がドン引き、というかすごすぎてどういう反応していいのかわからない。

だって進学文系の受ける教科数は9教科。

その中で856点ということは平均95点以上である。

2位と30点以上の差をつけてぶっちぎりで1位なのだ。

これをどう反応しろと言うのだろうか。


俺の反応が納得行かないのか朱里さんが頬を膨らませる。

自己採点である程度はわかっていたはずなのに改めてこの結果を見せつけられると驚くしか無い。


「流石は朱里だな。それでこそ俺の彼女にふさわしい」


「名前で呼ばないで。それにあなたにふさわしいとか言われたくない」


朱里さんは先程まで俺に向けていた視線を一変させて冷たい目で音取を睨む。

一瞬怯んでいたようだがすぐにいつも通りの気味の悪いニヤニヤとした表情に戻る。


「ほら、続きを見るんだろ?朱里さんに勝手に絡んで勝手に怯むんじゃない」


「はぁ?生意気なことばかり言ってんじゃねえぞ」


もうこいつに一々反応するのも面倒くさいので無視をする。

音取も無駄に絡むつもりはないようで掲示板に向かい合う。

そして視線を下に下げていくと……


7位 大瀬良翔吾 785点


11位 音取亮   754点


俺はその結果が見えた瞬間、大きくガッツポーズをする。


「よっし……!」


「やったね!翔吾くん!」


いきなり朱里さんが抱きついてくる。

体勢を崩しかけたがなんとか耐える。

朱里さんは俺の胸に顔を埋めてスリスリしてきた。

ゆっくりと顔を上げるとその目には少しだけ涙が浮かんでいた。


「な、なぜだ……!?なんでこんなやつに俺が……」


音取は結果を睨みつける。

その目は動揺で揺れていた。


「俺の勝ちだ。これでわかっただろう?」


「そ、そんなはずは……。いや、そうか……お前カンニングしたんだろう?」


明らかに動揺が見えていた音取はニヤリと笑う。

だがそれは苦し紛れの言い訳にすらならない苦しい言い分だった。


「そんなことできるはずないだろう?道具はあらかじめ先生から確認を受ける。周りからカンニングしようにも俺達のクラスで俺よりも順位が高かったのは朱里さんだけだが?」


朱里さんと俺の席は遠い。

テストの日は出席番号順に並ぶため大瀬良の『お』と高垣の『た』ではかなり距離がある。

確実にカンニングをするのは不可能だった。


「ぐっ……それは……」


音取の一般的にはイケメンと呼べるであろうその顔は怒りに歪む。


「つまらない言い訳は終わりか?それじゃあお前は負けを認めて二度と朱里さんに近づくな」


「うっ……こ、これはなにかの間違いだ!俺みたいな人間がてめぇみたいなゴミカス以下の人間に負けるわけねぇんだよ!」


もはやそれはただ小学生が喚き散らしているだけのようだ。

醜くみっともなく、どれだけ罵声を浴びせられようと心が動くことはなかった。

でもそうではない人がいた。


「あなたがそんなことを言う権利は無いでしょ?」


いつもは温厚で癒やされるその声はいまは凍えて何もかも切り裂くような鋭さを持っていた。

その声の主を見ると朱里さんが今までで一番怒った顔をしていた。

いつも俺にふざけ半分で怒るような顔とは全然違う。

美人って怒ると怖いのを今初めて痛感した。


「あなたが翔吾くんの何を知ってるの?翔吾くんはあなたと違って頑張って努力した。あなたなんかと比べ物にならないくらい素敵な人。それなのにあなたみたいな人が翔吾くんを貶めるのは絶対に許さない」


音取もさっきまでの勢いを失って顔が青くなっている。

その体は少し震えていた。


「あなたなんて最低よ!女の敵!」


「いつも偉そうにしやがって!クズなのはてめぇだろうが!」


「ちゃんと二人に謝りなさいよ!」


事情を知っていたクラスメイトから怒号が上がる。

それに呼応するかのように音取に不満を抱いていた人たちがどんどん声を上げた。

音取の顔色が見るからに悪くなっていく。


「二度と私と翔吾くんに近づかないで」


「う、うわぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


音取はどこかへと走り去っていった。

おそらくこの学校にあいつの居場所はないだろう。

多分今回の話もすぐに広がっていく。

あいつにふさわしい終わり方なのかもしれないな。


俺はあいつに仕返しができて嬉しい、という気持ちよりもなんとも言えない安心感と達成感に包まれたのだった──

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