第26話 自己採点

「そこまで。全員ペンを置け。今から筆記用具を持つとカンニングとみなし全教科0点だからな」


チャイムの音と同時に教師が止めの合図を出しテストが終了する。

俺は大きく息を吐き天を仰いだ。

これで長いようで短かったテスト期間も終了だ。

すぐに担任の先生がやってきてホームルームを始めるが皆テンションが上がっているのを隠しきれておらずどことなくソワソワとした空気感に溢れている。


「それでは今日の連絡は以上。テストが終わったからと言って羽目を外しすぎないように」


先生の話が終わり礼が終わった瞬間、教室を飛び出していくものも何名か。

今までだったら俺もそのうちの一人だっただろう。


「翔吾くん、4日間お疲れ様」


ぴとっと温かいものが頬に優しく触れる。

見ると朱里さんが手の甲で俺の頬をすりすりしていた。

何がいいのかは良く分からないけど満足気な表情をしている。


「朱里さんもお疲れ様。ほんと色々助けてくれてありがとね」


俺がお礼を言うと朱里さんは既に持ち主が帰った俺の隣の席に腰を掛ける。

そして困ったように笑った。


「全然大丈夫だよ。むしろ私が勝手に勝負を仕掛けちゃったんだし翔吾くんを巻き込んじゃって申し訳ないというか……」


このままではお互い謝り合戦になりそうだ。

俺はそうなる前に話題を変える。


「今日はどうしようか?一応半日で終わったし」


「うーん……私としてはデートしたいけど……」


「テストの結果が気になりすぎて気が気じゃない」


「だよね」


俺の断言に朱里さんは苦笑い。

流石にデートは難しいと自分でも思っていたようだ。


「それじゃあ今日は自己採点しようよ。デートはまた明日行こう。テストの結果が出るのなんてまだ二週間はかかるだろうし今から気を張ってても結果は変わらないし疲れちゃうよ」


「……それもそうだね。それじゃあ明日はデートに行こう」


「やったぁ!それじゃあ今日は私の家でお昼食べて一緒に自己採点しよっ!」


朱里さんは今にもスキップしそうなくらい上機嫌で自分の机に戻りカバンを持ってくる。

俺も自分のカバンを持って立ち上がった。

朱里さんと並んで廊下を歩き出す。

しかししばらく歩いたところで忘れ物に気づいた。


「ごめん、ちょっと忘れ物してた。すぐに取りに行くから少しだけ待ってて」


「わかった。いってらっしゃい」


朱里さんに一言告げ俺は教室に戻る。

自分の席に置き忘れていた忘れ物を回収しほっとしているとクラスメイトのうわさ話が耳に入ってくる。


「ねえ知ってる?杏奈と音取くん別れたらしいよ」


「え?短くない?この前杏奈みんなに自慢してたじゃん」


「なんでも音取くんから別れを告げたらしいよ。ほら、たぶん高垣さんの……」


「ああ……そういうことね……」


結局、杏奈と音取は別れたのか……

自分が付き合ってる彼女の前で違う女の人を口説くのは十分に頭おかしいと言えるけど流石に堂々と二股をかけるほどはイカれてなかったようだ。

もう勝ちを確信しているところはムカつくが。


「翔吾く〜ん!忘れ物あった?」


だいぶ待たせてしまったのか朱里さんが様子を見に来た。

俺は首を縦に振ってすぐに朱里さんのもとに向かう。


「ごめん、待たせちゃって。ちゃんと忘れ物はあったよ」


「そっか。それならよかった。それじゃあ帰ろ?」


「うん」


俺達は並んでいつもの道を歩き始めた。


◇◆◇


「テストの手応えはどうだった?」


「いつもよりは間違いなくできた。でも細かい点数はちょっとどれくらいかわからないかも」


朱里さんの美味しいお昼ご飯に舌鼓を打ったのち俺達は全教科のテストを持ってテーブルに向かい合っていた。

俺は一つ一つのテストをさらりと見返しながら質問に答える。


「それなら大丈夫かな」


「え?なんで?」


「だって翔吾くん最近はだいぶ改善されてきたけどまだ自分をどこか低く見積もってるところがあるんだもん。そういうときはちゃんとできてると思うよ」


なんか俺よりも俺に詳しい気がするんだけど?

自分で自分を過小評価しているなんて身に覚えはないが朱里さんが言うならそうかもしれない。

俺のことを若干色眼鏡で見ている気もしなくはないが適当なことは言わない人だからな。


「それじゃあ早速自己採点を始めよっか。せっかくだしお互いのテスト交換してやってみる?」


「いいよ。自分のやってると気が滅入りそうだし」


「あはは。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」


俺達はテストを交換し自己採点を始める。

そしてすぐに気づいたことがあった。


(朱里さん点数高すぎじゃね……?)


全然間違いが見当たらない。

記述問題などは一概に正解だと断言できない問題もあるが記号問題や単語を問われた問題にほとんど誤りがない。

俺の勉強をつきっきりで見てくれていたのになぜこんなにできるんだろうか……


「自己採点終わったよ」


「ああ、俺も終わったよ」


俺は9割後半だらけのテストを朱里さんに返す。

朱里さんはそれを確認すると満足げに頷いた。


「私の点数が低いと翔吾くんに示しがつかないもの。ちょっと安心しちゃった」


「流石としか言いようがなかったよ。すごかった」


「えへへ……頑張ったからなでなでしてほしいな〜?」


朱里さんが物欲しげに上目遣いしてくる。

俺は迷うこと無く朱里さんのサラサラとした髪の毛をなで始めた。

気持ちよさそうに朱里さんは目を細める。


「ありがと。それじゃあ翔吾くんのも返すね」


そして朱里さんから渡されたテストには今まで取ったこともないような数字が並んでいた。

思わず朱里さんの顔を見ると優しげな表情で微笑んでいた。

手を伸ばし俺の頭を撫でてくる。


「頑張ったね。翔吾くん」


────────────────────────

次回音取との決着!かも……?

まだ書いてないので変更はありえます。


自己採点ってやったことないんですよね。

やり方もよくわからんのであまり直接的な表現は無し笑

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