第21話 寝ぼけモードと問題棚上げ

朝、目が覚めるとそこは見覚えの無い天井。

しばらくぼーっとしていると昨日は朱里さんの家に泊まらせてもらっていたことを思い出す。

少し重いまぶたをこすりスマホを開くと現在の時刻は午前8時くらい。

カーテンの隙間からは明るい日差しが見えていた。


「ふわぁあ……起きるか……」


二度寝する気分にもなれなかったので一つ伸びをして立ち上がる。

すると寝相よく布団を被って寝ている朱里さんが目に入った。

なにか見ちゃいけないものを見た気がして慌てて目を逸らす。

すると昨日はあまり目にしないようにしていた朱里さんの部屋をまじまじと見ることになってしまう。


(すごく綺麗な部屋だよな……the女の子の部屋って感じ……)


あまり良くないことをやっている自覚はあるが一応朱里さんから目を離した結果だから仕方ないと言い訳し見続ける。

女の子の部屋に入るなんて経験がほとんどなかったので気になるものは気になるのだ。

少し目をざっと走らせるとあるところで視線が止まる。


(ん?あれすごく見覚えがあるなぁ……昔持ってたんだっけ……)


あったのはすごく懐かしい子供用のおもちゃだった。

小学校低学年くらいのときにその可愛らしいキャラクターがハマり男女問わず流行っていた記憶がある。

今は昔ほど人気があるわけじゃないけどファンは残っていて教室でもそのキャラのキーホルダーを付けている女子はいる。


(朱里さんも可愛いもの好きなんだな。いつもお世話になってるしプレゼントとか渡す機会があれば参考にしようかな)


「ん……むぅ……」


突然後ろから声が聞こえてビクッと振り返る。

すると寝苦しかったらしく少し体勢を変えてまた寝始めた。

さっきよりもばっちり寝顔が見えてしまう。


(寝顔も可愛いな……流石は学年一の美少女、どんな姿でも画になる)


その可愛らしい寝顔から目が離せずフラフラと朱里さんに近づいていく。

だが朱里さんが起きる様子はまったくない。


(意外と朝に弱いのかな?もしそうだとしたら今まで苦手な朝も頑張って起きて弁当作ってくれてたのかな……)


頭ではわかっているつもりだった。

それでも改めて朱里さんの苦労を痛感して申し訳なくなるのと同時に自分のためにやってくれて嬉しいという気持ちが芽生える。

多分迷惑をかけたくないからという理由で弁当を作らなくてもいいと言っても朱里さんは笑って大丈夫だって言うと思う。


俺にできることはなんだろう。

どうしたら朱里さんに恩を返せるかな。

いつも考えるけど明確な答えは出ない。


「う〜ん……しょうごくぅん……」


名前を呼ばれたから起きたのかと思ったらまだ目をつぶっていた。

どうやら朱里さんが今見ている夢には俺が出演しているようだ。

思わず笑みがこぼれ朱里さんの頭をそうっと撫でる。

たまに朱里さんに頼まれて頭を撫でるといつも嬉しそうに目を細めていた。

その流れでついやってしまう。


「ん……」


朱里さんの口角が少しだけ上がる。

いつもより何歳か幼く見えるその姿は非常に庇護欲をそそられる。


「っと……流石に寝てるときにこんなことしちゃあ悪いよな」


今更かもしれないけど俺ははっと我に帰り手を離してリビングに向かおうとする。

すると朱里さんの手が伸びてきて弱々しい力で俺の手を掴んだ。

当然振り払おうと思えば振り払えるのだがもしかしたら起きたのかもしれないと思って振り返る。

振り返ってみると朱里さんは目をつぶったまま俺の手を引き寄せて頬ずりを始めた。


「……♪」


(か、可愛い……なんで俺の手なのかはしらんけど頬ずりは可愛すぎる……)


朱里さんから手を掴んできたんだしもう別にいいやと開き直ることにして俺はベッドの横に座り込む。

そしてそのまま頬ずりをする朱里さんの観察を始めた。

朱里さんが頬ずりをすること10分ほど、ようやく目が薄っすらと開かれる。

俺は話しかけるために立ち上がる。


「んぅ……あれぇ……?しょうごくん……?」


「おはよう朱里さん」


「ゆめにまでしょうごくんがでてきてくれるなんてうれしいなぁ……えへへ……」


「えーっと……一応夢じゃなくてここにいるけど。ドリーム翔吾じゃなくてリアル翔吾だよ」


「りあるしょうごくん……?まあなんでもいいやぁ……」


「へ?わっ!」


寝ぼけているのか朱里さんは俺の手をぐいっと引っ張る。

力としてはそんなに強くなかったけど俺自身完全に油断していて体勢が崩れる。

そしてベッドに倒れ込んだ俺を朱里さんが逃さないと言わんばかりに抱きしめる。


(か、完全に寝ぼけてるじゃん……ど、どうしようこれ……)


朱里さんは腕だけじゃなく足まで使って俺の体をホールドしている。

脱出しようにもがっちり固定されていて抜け出せない。


「ゆめのなかならしょうごくんをすきにできちゃう……あんなことやこんなことも……まいにちでてきてほしいなぁ……」


夢じゃないんですけど!?

ていうかあんなことやこんなことって何!?

必死に抜け出そうとしたけど幸せそうな顔で俺の胸に頬を押し付けている朱里さんを見て抵抗の意思がなくなった。


うん、面倒事は未来の俺に任せるとして今は寝ぼけてる可愛い朱里さんを楽しもうかな。

問題は棚上げすることにした俺だった……


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結局寝顔も部屋も見ちゃってるやん。

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