第22話 プレイボーイ疑惑

「むにゃむにゃ……しょうごくぅん……」


「はいはい、俺はここにいるよ」


朱里さんが甘えた声(寝言)で俺を呼んでくるのでどうせ届いてはいないだろうけど返事をして頭をポンポンとする。

するとぐりぐりと顔を俺の胸に押し付けてくる。


(ほ、本当に朝弱いんだな……かれこれ30分はこの体勢だぞ!?)


朱里さんにベッドに引っ張り込まれてからすでに30分が経過しようとしていた。

その間ずっと今みたいな寝言と会話のキャッチボールを続けてきた。

ベッドに寝かせられたときは理性が持つか心配だったけど庇護欲みたいなのがドバトバ出てて全然そういう気分にならない。


(そろそろ起こそうかな。休日とはいえ勉強しなきゃだし)


最後に朱里さんの幸せそうな寝顔を目に焼き付けて起こすことを決意する。

まずは軽く肩を叩いてみる。


「朱里さん、起きて。朝だよ」


応答無し。

これは……厄介だな……

次の手段は体を軽く揺すってみる。

しかし少し起きそうな気配はあったもののまだ起きない。


「仕方ない。最後の手段だな」


俺は人差し指で軽く朱里さんの頬をつつく。


「うにゅ……」


指がお餅顔負けのもちっとした肌に包みこまれる。

そのままもちもちの感触を楽しみながら朱里さんに起きるように呼びかける。

すると5分後……


突然朱里さんの大きな瞳がぱっちり開く。

少しキョロキョロと周りを見渡してから俺の顔を見てピシッと固まった。

朱里さんの顔がどんどん赤みを帯びていく。


「にゃ、にゃんで翔吾くんが……!?わ、私達もう卒業しちゃった……!?」


「違う違う!昨日は卒業してないから落ち着け!」


「私とする前に卒業してたってこと!?誰としちゃったの……!?」


なんかとんでもない方向に勘違いされたんだけど!?

なんとかこの誤解を解かなくては……!


「勘違いだって!俺に彼女なんていたわけないだろ!?いたとしても罰ゲームで付き合ってた杏奈くらいだって!」


「彼女じゃないのに遊びで卒業しちゃったの!?翔吾くんがそんなプレイボーイだったなんて……」


もっとまずい方向に勘違いされたんだけど!?

朱里さんの中の俺はどんな存在になってるんだ!?

俺に抱きついている朱里さんは少し涙目になっている。

とりあえず朱里さんを安心させるために俺は優しく朱里さんを抱きしめた。


「あ……」


「落ち着いて。俺はそういうことはしたことないよ」


「じ、じゃあどうして私のベッドに……?」


朱里さんの疑問は至極もっとも。

だけど俺には正当?な理由があった。


「朱里さんにベッドに引きずり込まれたんだよね。ほら」


そう言って俺は足元を指差す。

腕は朱里さんが抱きついていて足は逃さないと言わんばかりに両足でホールドされている。

今まで気づいていなかったらしく朱里さんは慌てて足と腕を離した。

顔はかあぁぁ〜っと効果音が聞こえそうなくらい赤くなっている。


「し、翔吾くんが出てくる幸せな夢だと思ったのに……!?」


「多分というか間違いなく現実だね」


「……っ!?……うぅ……」


朱里さんは枕で自分の顔を隠すがちらりと覗いている耳が真っ赤なので隠しきれていない。

本来なら俺もテンパるところなのだろうが開き直っているし朱里さんがめちゃくちゃ恥ずかしがっているのであまりダメージは無い。

自分より緊張している人がいると逆に冷静になるあれと同じ現象だろう。


「翔吾くんに寝顔見られちゃったよぉ……私だらしない顔してなかったよね!?」


「起こしづらいくらい幸せそうな顔で眠ってたな」


「うっ!うぅ………」


「すごく可愛かった」


「………そういうことをさらっと言う……本当にプレイボーイじゃないんだよね?」


朱里さんはジトッとした目を向けてくる。

だけど褒められた照れなのか寝顔を見られた恥ずかしさなのか顔が赤く全然怖くないどころか可愛い。

思わず笑みが溢れてしまう。


「あー!今笑った!本当はプレイボーイなの!?」


「あはは。違う違う」


今度は朱里さんも冗談だったようで一緒になって笑う。

笑い終わったあと朱里さんが俺の手に両手を重ねてニコッと笑う。


「おはよう。翔吾くん」


「おはよう。朱里さん」


「わ、私顔洗って朝ご飯作ってくるね!」


見つめ合っていたことに照れたのか朱里さんはパタパタと部屋を出ていく。

俺は朱里さんのベッドに1人取り残される。

ずっとベッドの上にいるわけにもいかないので朱里さんの朝食作りを手伝おうと立ち上がると突然扉が開かれ朱里さんが顔を出す。


「どうしたの?何かあった?」


「わ、私、部屋に泊めたり抱きついちゃったりするのは翔吾くんだけだからね?他の男の子に絶対にこんなことしないもん。そ、それだけ!」


そう言って朱里さんはまた扉の奥へと消えていった。

多分俺をプレイボーイと疑ってたけど自分がやってたことも遊び慣れてる人のそれのようだったから弁明にきたんだろう。


「わざわざ言いに来るとか……」


俺は思わずその場でうずくまる。

熱くなった頬はまだ冷めなさそうだった。


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昨日の数学のテストは展開公式は当たり前といえば当たり前ですが単体では出なかったです。

つまり翔吾はこの展開公式を覚えるだけでなくいかに応用するかが大事ということですね!

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