第18話 お泊りの始まり

勉強すること2時間ほど。

俺は今、危機に直面していた。

というのも……


(朱里さんがお風呂に入ってる……)


朱里さんは先に入っていいと言ってくれたのだが心の準備ができておらず朱里さんに先を譲ったのだ。

するとどうだろうか。

朱里さんがいなくなったことで静寂が訪れリビングにペンが走る音と微かにが聞こえてくる。


(なんでただの水の音なのに……変な想像するなよ……!俺……!) 


危うく水音の正体を想像しかけ慌てて頭の隅に追いやる。

そして再び問題に向き合うが全然頭に入ってこない。

俺は一旦勉強を中断することにした。


(ニュースでも見るか……時事問題が出るかもしれないし……)


そう思い直しネットニュースを見るためにスマホを取り出す。

電源を点けると待ち受けにしていた俺と朱里さんのツーショットが目に入る。

俺は情けない顔で驚いていて朱里さんは満面の笑顔で写真に写っていた。


(なんで……朱里さんは俺なんかのことを好きになってくれたんだろうな……)


改めて今までの高校生活を思い返してみても心当たりはない。

それどころか話したことすらほとんどなかったのだから。

それでも……始まりは何であれ今はもうこんな幸せな生活を手放したくないと思っている自分がいた。


「……もっとちゃんと向き合わないとな」


「何と向き合うの〜……?」


「っ!?!?」


突然耳元で囁かれ驚きのあまり飛び上がる。

見ると朱里さんがいたずらっ子のような笑みを浮かべて立っていた。

き、気づかなかった……


「何か悩んでる?よかったら相談に乗ろうか?」


「う、ううん!大丈夫だよ!」


そこで朱里さんの格好の破壊力に気付く。

一言で言ってしまうなら朱里さんは……エロい。

髪が少し水気を帯び体に少しだけ張り付いていて肌は上記して赤みがかっている。

風呂上がりということで色気がムンムンただよっていた。

激レアな朱里さんが眩しすぎて直視できない。


「ごめん!お風呂行ってきていいかな!?」


「えっ?いいけど……」


「いってきます!」


この場にいてはまずいと判断し着替えを持って脱衣所に逃げるように移動する。

極力心を無にし服を脱ぐ。


(とにかくシャワーを浴びて心を落ち着けよう……!)


そう思ってなんの心構えもなく焦って扉を開けたのが全ての間違いだった。

扉を開けた瞬間、シャンプーなどの匂いとは全く違う甘い匂いが広がる。

それはいつも朱里さんが抱きついてくるときに感じる匂いだった。


(まさか……朱里さんの匂い……!?)


やはりあの甘い匂いは香水ではなく朱里さんの匂いだったのだと変態そのものな思考がよぎる。

そんな雑念をすぐに払いずっと扉のところで固まっているわけにもいかず覚悟を決めて恐る恐る中に入る。


「と、とにかくシャワーを浴びて忘れよう……」


何か悪いことをしている気分になって誰かに言い訳するように独り言を言う。

ちょうどいい温度のお湯は気持ちよく体の強張りを抜いてくれた。

心臓はバクバクいっているままだが少し落ち着けた気がする。


(ふぅ……だいぶ気にならなくなってきたかな……)


人間とは慣れる生き物で匂いもあまり気にならなくなってきた。

いつも朱里さんがここで裸になって体を洗っているのを想像するのは流石に慣れる気はしないので考えないようにした。


(さぁ……風呂入るか……)


湯船に溜められていたお湯に浸かるべく足を上げた瞬間俺は固まる。

こ、これって……朱里さんが浸かってたやつじゃん……!

そんなの恐れ多すぎて入れない……!


なんかお湯に浸かるのは超えてはいけない一線のような気がして俺は風呂を出ることした……のだが……

俺が扉に手をかけた瞬間、脱衣所の扉がノックされる。


「は、はい……」


『翔吾くんってバスタオル持ってきてたかな?』


「う、うん。持ってきてたよ」


『それならよかった〜!翔吾くんも勉強の疲れを取ってね』


そう言って朱里さんは脱衣所を出ていった。

これで俺に風呂に浸からないという選択肢が消えてしまった。

かと言って勝手にお湯を張り直すのも人の家の水道代を増やしているようなものだし朱里さんに張り替えていいか聞くのは汚いから同じ湯には入れないと言ってるようなものであまりにも失礼すぎる。。


(大丈夫……本人の許可が取れたんだ……ただ俺は風呂に入るだけッ……!)


俺はお湯に浸かり心の中でひたすら先ほど覚えた公式達を唱え続けて心を無にし疲れを癒そうとした。

結局いつもより何倍も早く体が温まりのぼせる前に風呂を出たけども。


(はぁ……初日からこんな調子で大丈夫かなぁ……)


「ただいま、いいお湯だったよ。ありがとう」


「あっ!おかえ……り」


「ん?どうしたの?」


「い、いや〜……翔吾くんのお風呂上がり姿を初めて見たからドキドキしちゃって……」


どうやら髪を切ったときと同じような理由らしい。

俺も朱里さんのお風呂上がり姿から逃げたわけだし人のことは言えない。


ドキドキすると言われた気恥ずかしさと朱里さんのお風呂上がり姿が頭をちらついてしまい顔が熱くなる。

朱里さんも似たようなものらしく少し顔をうつむけて顔を赤くしていた。

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