第17話 展開公式と距離感の最適解

「お、お邪魔します……」


「遠慮なくくつろいじゃってね〜!」


今日は金曜日、いつものように学校帰りに朱里さんの手料理を頂くため学校から朱里さんの家に来た……わけではなく一度家に帰ってからお邪魔していた。

その理由は……


「本当によかったの……?お泊りなんて……」


「もちろん!翔吾くんと一緒にいられて嬉しいなぁ……!」


朱里さんはその言葉が嘘じゃないと言わんばかりに満面の笑顔で答える。

俺も楽しみじゃないと言ったら嘘になるがそれ以上に不安が大きかった。

そもそもなぜ俺が朱里さんの家に泊まることになったのか。

それは昨日の夕方に遡る──


『翔吾くん、明日から試験勉強を始めるでしょ?』


『え?まあそうだね。流石に遊ぼうなんて思わないしなんなら今日帰ってから始める予定だったけど』


『それだったらさ!うちで勉強合宿やらない!?』


『勉強合宿?』


『そう!金曜の夜から泊まってもらって月曜日に一緒に学校に行くの!』


そう提案されたのはいいけどすごく迷った。

だって男子高校生が一人暮らしの女子高生の家に通うだけでもグレーゾーンなのに泊まるなんて完全にアウトだ。

もちろん勉強面を考えればそっちのほうがいいんだろうけどそれとこれとは別である。


『流石にそれは遠慮しておこうかな……』


『え〜!?一緒にお泊りしようよ〜……私達カップルでしょ〜……』


『学校では偽装カップルでいようって話じゃなかったっけ!?』


それから結局押し問答があったのだが押し負けてしまいお泊り会、もとい勉強合宿が開催される流れになった。

ちなみに決まり手は少しの涙目と上目遣いのクリティカルコンボである。

あれに抗える存在なんているのだろうか。

まあそれはともかくそんなわけで一度家に戻って勉強道具や着替えを持ってきたというわけだ。


「それじゃあ早速勉強始めちゃおっか。翔吾くんは何から始めたい?」


「暗記科目を始めるには少し早すぎるし……やっぱり先に苦手な数学から始めたいかな」


「了解!じゃあ問題集取ってくるね!」


そう言って朱里さんは自分の部屋と思わしき部屋に消えていった。

俺は極力お泊りのことは考えないように心を落ち着かせようとする。

結局落ち着く前に朱里さんが帰ってきてしまったけども。


「それじゃあ数Ⅱの始めから復習していこっか。3次式の展開公式は覚えてる?」


「a³+3a²b+3ab²+b³だよね?」


「そう!ーの展開のときは2つ目と4つ目の項をマイナスにすればオッケーだよ!じゃあこの公式を使って問題を解いてみようよ!」


朱里さんから問題集が手渡される。

そこには先程の展開公式を使って解く問題が大量に載っていた。

人の問題集に直接書き込みをするのは良くないので自主勉強用のノートを開く。


「それじゃあ基本のこれとこれ……あとは少しややこしいここの2問を解いてみて」


「わかった」


俺は朱里さんに言われた4問を解き始める。

しかし最初の2問はスムーズにいったものの3問目で止まってしまった。


「これってどうやって解くの?」


「ん?これはね〜!」


朱里さんに質問すると朱里さんはぐいっと体を近づけてくる。

甘い匂いがふわっと鼻腔をくすぐると同時に腕に柔らかい感触が当たる。

心拍数が上がり心臓が跳ね上がるのが自分でもわかった。


「中学校の二次方程式を解くときに項をAに置き換える解き方があったでしょ?だから今回はそれを……」


朱里さんが丁寧に説明してくれるけど全然頭に入ってこない。

これならばもはや家で勉強したほうが効率がよかったのではないだろうか。


「ねえ、聞いてる?ここの解き方説明し終わったけど……」


「ご、ごめん!あんまり聞けてなかった……」


「もう〜数学苦手でも頑張ろうよ〜!」


「いや、数学って言うよりかはその……胸が……」


「へ……?胸……?」


そう言って朱里さんの目線が下がっていき自分の胸のところで止まる。

朱里さんの立派な2つの果実は俺の腕に押し当てられ形を変えていた。

わざと押し当てていたわけではなかったらしく朱里さんの顔が赤く染まり始める。


「ご、ごめんっ!そんなつもりはなくて……」


「わかってる!集中できなかった俺が悪いから!」


お互い反射的に離れ謝り合う。

朱里さんは顔だけじゃなく耳まで真っ赤になっていた。

俺の顔も熱いし似たようなものだろう。

しばらく思い沈黙が流れる。


「さ、再開しよっか」


「う、うん……」


しばらくしたころどちらからともなく再開する。

そして今度は朱里さんはぴったりと俺の横に座り肩がぎりぎり当たらないくらいまで距離を詰めてくる。


「これなら……大丈夫かな?」


「……っ!!うん……」


そこからの勉強はドキドキしていることには変わらなかったけどどこか心地よくて心が踊った。


──────────────────────────

自分のテスト範囲がまさか執筆に使えるとは思わなんだ……

数学よりも物理がやばいよ〜……(誰も興味ない)

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