第14話 説教と会敵

「いよいよだね……」


「うん……」


俺達は教室の扉の前に立ちながら話す。

やはりなんだかんだここまで来ると少し緊張してきた。


「じゃあ入るよ?」


「わかった」


朱里さんは昨日と同じように俺の腕を掴んだまま教室の扉を開ける。

今までも教室の扉の開く音はあまり好きじゃなかったけど今は何倍も重たく心にのしかかってきた。


「みんなおはよー!」


「おはよー朱里……え……?」


「えっと……」


みんな俺の方を向いて固まる。

視線が結構集まっててかなり緊張する。

というか今すぐにでも逃げ出したい気持ちをなんとか抑えている、と言ったほうが正しいかもしれない。


「えっと……その人誰……?」


…………まさかの認識されていなかった。

そんなに見た目変わっているだろうか?

確かに変わったとは思うけど今日会った人全員気づいてくれないじゃん……

それだけ今までの俺は存在感が薄かったということか。


「どうも、大瀬良翔吾です……」


「え……?」


「じゃーん!改めて私の彼氏の翔吾くん!どう?カッコよくなったでしょ?」


朱里さんがドヤ顔で俺を紹介する。

さっきまであんなに渋ってたのに今はもうノリノリだ。

まあ嫌がられるよりは何倍もいいけど。


「いや……変わりすぎでしょ……全然誰かわからなかったよ?」


クラスメイトたちは驚き半分、呆れ半分といった様子で朱里さんと話している。

目の前に本人がいるのになぜ俺は全然話しかけられないのだろうか。

いや別に話しかけてほしいわけじゃないけどさ。


「ちょっと。何の騒ぎ?」


今登校してきたらしい高窪さんが独り言のように呟く。

俺が振り返ると高窪さんは驚いたような表情になる。


「えーっと……どちら様ですか?多分クラスを間違えてますよ」


「高窪さんもわかってくれないのか……」


「えっ……!?その声まさか……大瀬良くん!?」


どうやら声で気づいてくれたようだ。

声で気づいてくれただけでも結構嬉しい。

流石朱里さんの親友だ。


「もう別人じゃない……何があったらこんなことになるわけ……?」


「あ、久美!おはよう〜!」


「おはよう朱里。あんたの彼氏どうしちゃったの?」


酷い言われようだ。

朱里さんはニコニコ笑って昨日あったことを説明する。


「なるほど……人間ってそれだけでこんなに変わるものなのね」


「そうだよ〜!ほら、男子3日会わざれば刮目して見よ、ってことわざがあるでしょ?」


「限度ってものがあるでしょ?それに3日どころか昨日学校で別れてから1日も経ってないけど」


高窪さんは呆れたようにため息をつく。


「朱里さんの横に胸を張って立てるようにって思ったんだ。それで今日は髪をセットしてみたり……」


「……!!そう……朱里のために……ちゃんと似合ってると思うわ」


「ありがとう」


俺は認められたことが嬉しくて笑う。

すると朱里さんがモジモジしながら話しかけてきた。


「わ、私のためにって……本当?」


「うん。朱里さんが俺を拾ってくれたんだから俺はそれに応えないとでしょ?」


「わ、私は……翔吾くんが隣にいてくれるだけで嬉しいのに……」


俺はその言葉に首を横に振る。

そしてニコリと笑いかけた。


「朱里さんは俺のためにいろいろしてくれるでしょ?だから俺もできることはなんでもしたくなったんだ。他の誰でもない朱里さんのために」


「はぅっ……」


朱里さんがいきなり胸を抑えて悶える。

俺は慌てて駆け寄った。


「だ、大丈夫?どうしたの?」


「心臓を撃ち抜かれて重傷です……」


「え?えーっと……」


「私撃たれたよ?」


「な、なんかごめん……」


俺が謝った瞬間朱里さんはニヤリとする。

そして俺に飛びついてきた。


「ちゃんと責任、取ってほしいなぁ……?」


「……流石に早いのでは?」


一応偽装カップルなんですけど?

なにプロポーズのおねだり始めちゃってるんですか。


「ふふ、そうだね。翔吾くんから伝えてくれるのを楽しみに待つことにする」


そう言って朱里さんは俺に抱きついたまま頬にキスをしてきた。

俺も顔が熱いがやはりする側も恥ずかしいらしく朱里さんの顔も真っ赤になっていた。


「え、えーっと……」


「「!?!?!?」」


突然話しかけられてびっくりして朱里さんと一緒に飛び上がる。

すると明らかに怒っています、といった様子の高窪さんがそこにいた。


「ここはみんないる教室!イチャつくなら家でやりなさい!」


「「ご、ごめんなさい……」」


俺と朱里さんは二人揃って頭を下げた。

すっかり頭から抜け落ちていたけどここは教室の中でみんないるんだった……

またしてもやらかしてしまった……恥ずかしい……


俺と朱里さんが並んで高窪さんの説教をくらっていると突如教室の扉が開く。

入ってきたのは──


「お?今日も騒がしいじゃねえか。毎日毎日なんなんだ?」


「音取……」

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