第13話 おかしな方向に

「はぁ……」


「どうしたの?」


「いや、ちょっと心配だな〜って思って……」


そう言って再び朱里さんはため息をつく。

その顔は何かを憂いている様子だった。


「心配って何の?杏奈が逆ギレしそうとか?」


「それもなくはないけどさぁ……」


どうやら違うらしい。

それでは他に何があるというのだろうか。


「どんな心配事があるの?」


「すっごくすっごく大切なこと……」


「お、おお……そんなになんだ……」


朱里さんの顔は真剣そのもので本当にそれが重大なことであるのが伺える。

俺が手伝えることならぜひ力になりたいところだ。


「よかったら教えてくれない?」


「うーそれは……」


朱里さんが渋い顔をする。

人に言いたくないような類の悩み事ということだろうか。


「無理に教えなくても大丈夫だよ」


「ううん。やっぱり翔吾くんには伝えとく。ちゃんと気をつけておいてもらわないと……」


「え?気をつけるって何?ちょっと怖くなってきたんだけど……」


俺が身構えていると朱里さんが重々しく口を開く。

俺はごくり、と唾を飲み込む。


「翔吾くんがモテちゃったらどうしよう!?」


「………え?」


朱里さんから出た言葉は思いもよらない言葉だった。

思わず情けない声が出てしまう。


「だって翔吾くん髪も切ってセットもしてきてるんだよ!?こんな姿見ちゃったら女子たちがほっとかないよぅ……」


「なんだ。そんなことか。実際そんなことにはならないと思うけどそうなるならいいじゃん」


「……!?!?!?!?!?!?」


朱里さんは本気で驚いたらしく目を丸くさせる。

そしてこの世の終わりかと思うほどに絶望的な表情へと変わる。


「う、浮気……?それともハーレム願望なの……?」


あ、やべ……

今のは俺の言い方が悪かったな。

慌てて弁明しようとすると朱里さんは顔は笑顔なのに目が全く笑っておらずなにやらつぶやいている。


「愛してくれるなら別にハーレムでも……でも私だけを見ていてほしいし……私しか目に入らないようにもっとアタックしようかな……それともいっそご飯に睡眠薬でも混ぜて子供を作っちゃう……?」


な、なんかだいぶやばいことになってる!?

朱里さんがおかしな方向へ堕ちてしまう前に俺が呼び戻さないと!


「朱里さん!?戻ってきて!俺には浮気もハーレムもする気ないから」


「はっ!?私は今なにを……?」


朱里さんの目に光が宿る。

俺はその様子を見てそっと胸を撫で下ろす。

まさか朱里さんが心の中にあんな魔物を飼っていたなんて……


「朱里さん大丈夫?」


「えっ?うん。私は大丈夫だけど……翔吾くん私とカップルするの嫌になっちゃったの……?」


「そんなことないから!女の子にモテたらいいなっていうのは俺がちやほやされたいとかそういうのじゃなくてだな!?」


「むぅ……じゃあどんな理由があるの?」


朱里さんは頬を膨らませる。

よっぽど俺が言った言葉がお気に召さなかったようだ。


「だってさ、俺って今まで女子から見向きもされないような根暗陰キャだろ?」


「私はそんな……」


「客観的に見て」


「……それは……まぁ……」


朱里さんは渋い顔をして頷く。

俺は別に自虐をしたかったわけじゃない。


「だったらさ。モテるようになるってことはってことじゃないか?」


「……!!それは……そうだね」


「これはある意味挑戦だと思う。見た目だけでも自分がどれだけ変われたのかなって。そういう積み重ねの先に成長があるんじゃないかな」


「……うん」


「まあ女の子にモテるようになったわけでもないのにこんなことを言うのもおかしな気がするけどね」


俺はそう言って苦笑する。

多分この考えには期待も含まれているだと思う。

これで少しは変われたんじゃないか、という自分への期待。

もしダメだったらまだ努力が足りないと言うだけだ。まだ何も始まっていないこの段階では少しの不安とたくさんの期待が胸を占める。


「でも……浮気とかハーレムとかは絶対なしだよ?そんなことしたら許さないから」


「大丈夫だって。俺を信じてくれ」


「わかった。信じるね」


そう言って朱里さんはにこやかに笑う。

もう何回も見ているはずなのに慣れることはなく思わずドキッとしてしまう。


「それじゃあ行こ!翔吾くんの変わった姿をみんなに見せつけに!」


「……おう!」


俺達は目の前に見える学校の門を一緒にくぐり抜けた。



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ご報告、更新が2日に一回になります。

正直砂乃のせいなんですがざまぁ系に慣れていないので執筆に時間がかかりつつあります。

作品の質は落としたくないと考えていますので更新ペースを変更します。


この話の影響でタグに微ヤンデレがつくことに……


ちょっと『僕ラノ』に引っ張られたかも……

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