第12話 浮気疑惑と嫌悪のギャル

「ふわぁ……今何時だ……?」


朝、珍しく早くアラームが鳴る前より早く目が覚めた。

二度寝しようかとも考えたが妙に目が冴えてしまって眠れない。

二度寝は諦めて大人しく起きることにした。

いつも通り顔を洗って朝ご飯を食べる。


「結構時間あるな……」


いつもより早く起きてしまったため時間が余ってしまう。

早く出ようにも流石にこの時間では早すぎる。


「どうしようかな……」


頭を悩ませある一つの名案を思いつく。


「ちょっと髪の毛整えてみるか……」


今まではお洒落に興味なんて全く無いし髪型なんて最低限の清潔感さえあればなんでもいいと思っていた。

でもせっかく朱里さんがいろいろ俺のために考えてくれたのだ。

なら俺も頑張ってみるのが礼儀じゃないだろうか。

母さんから渡されたためヘアワックスは持っている。


「よし!やってみよう……!」


◇◆◇


「これで大丈夫かなぁ……」


俺は自分の髪の毛を気にしながら電車を降りる。

あれからスマホで調べながら髪の毛をセットした。

慣れていないので本当に軽く整えただけだが鏡で確認したところ良い感じに出来ていたと思う。


「朱里さんに見せて変って言われたら落とせばいいか……」


俺は朱里さんとの待ち合わせ場所に急ぐ。

そこにはもう朱里さんが立っていてスマホを見ていた。

待たせちゃったかな。


「おはよう。朱里さん」


「ひゃっ!?あ、翔吾くんおはよ……う」


朱里さんが俺の髪の毛を見て目を丸くしながら固まる。

俺は思わず苦笑する。


「変かな?」


「へ、変じゃないよ!でも……どうして髪をセットしてきたの……?いつも自然体だったのに……」


「今日の朝少し時間があってさ。せっかくだからとちょっと試してみたんだ」


「すごくカッコいいよ。翔吾くんによく似合ってる」


朱里さんはニコリと笑う。

無理して言ってる様子は特になさそうだしダサいというわけではなさそうだ。

俺は少し安心する。


「それじゃあ行こうか」


「うん!」


昨日と同じように朱里さんが腕を組んでくる。

放課後デートに行ったおかげか昨日ほどの緊張はなかった。

昨日めちゃくちゃ見られたし少しは耐性がついたのかも。


そして朱里さんと雑談をしながら歩いたのだが──


「あら?朱里じゃない」


後ろから少し甲高い声が聞こえてくる……

この声はまさか……


「杏奈……何の用?」


朱里さんが少し不機嫌気味に聞くと杏奈は鼻で笑う。


「あんた昨日クラスのみんなの前であんなことを言ったのに浮気をするのね」


「へ……?」


俺は驚いて朱里さんを見るが朱里さんはブンブンと首を横に振る。

なんで杏奈は急にそんなことを言い出したんだ?


「杏奈、どういうこと?私は彼としかお付き合いしてないよ?」


「嘘がバレたからってそんなに焦らなくていいでしょ」


杏奈はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。

朱里さんを疑ってはいないけど確認のためにもう一度朱里さんを見る。


「わ、私本当に浮気なんてしてないよ!?浮気なんて絶対に許せないタイプだもん!」


「そんな見え透いた嘘つかなくていいわよ。ねえそこの君」


そう言って杏奈が朱里さんが掴んでいる腕と逆の腕を掴んでくる。

朱里さんと腕を組む時は幸せな気分になるのに嫌悪感が止まらなかった。


「この子昨日クラスのボッチ陰キャに大好きって言って頬にキスまでしたのよ?そんな浮気女なんて捨てて私と付き合わない?」


「「え?」」


俺と朱里さんの声が重なる。

そしてゆっくり思考を回し点と点が繋がった。


「離してくれ」


俺は少し強引に杏奈を腕から引き剥がす。

さっきまでの嫌悪感が多少マシになった気がした。


「なんでこんな酷いことするのよ!そんなにその浮気女がいいの!?」


「ねえ杏奈。やっぱり私は浮気なんてしてないよ?」


「はぁ?さっきからそのイケメンと腕を組んで歩いてるじゃない!これは十分な浮気でしょ!」


ギャンギャンうるさい杏奈の言い分を聞いてから朱里さんはニコリと笑う。


「浮気じゃないよ。だって彼、大瀬良翔吾くんだもん」


「は……?そんなわけ……」


「残念ながら俺の名前は大瀬良翔吾だ。人の顔も覚えてないのか?お前」


俺が少し怒りながら言うと朱里さんはなだめるように言う。


「翔吾くんが変わりすぎなんだよ?多分私じゃなかったらほとんどの人は気づかないと思う」


「え?あー確かにまぁ今まで目とか隠れてたもんな」


「そうそう。私は立ち方とか歩き方とかで気づけるよ?何しろ彼女ですから」


朱里さんはドヤ顔で胸を張る。

立ち振舞でわかるってすごいな……

俺も朱里さんがめちゃくちゃイメチェンしたら気づけるかな。

ちゃんと分かると信じたい。


「そんなわけで俺達は行く。じゃあな」


「行こっ!翔吾くん!」


「あっ!ちょっと待っ──」


杏奈が呼び止めるのを無視して俺達は学校に向かって歩き出す。

多分一人だったら機嫌も悪くなっていたんだろうけど隣に朱里さんがいたから意外と気にならなかった。


ありがとう、朱里さん。



────────────────────────

言うなればこれはジャブ。

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