第11話 ツーショット

「うーん……」


「俺には何が違うのかわからないんだけど……」


今俺達は服屋に来ていた。

朱里さんは服を色々見ながら頭を悩ませている。

正直服に機能性と着心地しか求めてこなかった俺には何がいいのかさっぱりだ。


「もう……!身だしなみは大事だよ!」


「でもわからないものはわからないんだよなぁ……」


「だから今私が選んでるんじゃん……」


確かに言われてみればその通りだ。

俺が余計な口を挟むべきじゃなかったな。

でも全部任せるのは申し訳ないしなぁ……


「すみません。何かお探しですか?」


「あっ!彼に似合う服を探してしてるんです」


朱里さんが悩んでる姿を見つけたのか店員さんが聞いてくる。

朱里さんは突然話しかけられてびっくりしていたけどすぐに笑顔になって質問を始める。

俺だったら多分テンパっちゃうんだろうなぁ……と朱里さんのコミュ力の高さを感じる。


「でしたらこういう服はいかがでしょうか?」


「わ〜!いいですね!」


いくつか服を紹介された朱里さんは笑顔になって見比べ始める。

その目はとても輝いていた。


「とても可愛らしい彼女さんですね」


店員さんがニコニコしながら言ってくる。

俺は改めて朱里さんを見て苦笑する。

確かにあれは誰が見ても可愛いって思うだろうな。

偽装カップルですって言う必要は無いのでとりあえず俺は頷いておく。


「俺には勿体ないくらいの彼女ですよ」


「翔吾く〜ん!これちょっと着てみて〜!」


俺と店員さんが話していると朱里さんが2着服を持ってきた。

一つは明るい色合いのシンプルなデザインなものでもう一つは暗めの色を基調としてデザインもシンプルではあるものの一つ目とは違うもの。

俺は頷き朱里さんから服を受け取る。


「それじゃあ着替えてくるよ」


「いってらっしゃい!ここで待ってるね」


俺は試着室に入り着替え始める。

外に朱里さんがいることはわかっているので衣擦れの音が聞こえないか結構不安だった。

ただ着替えないわけにもいかないので意を決してササッと着替える。


「き、着替えたよ」


「見せて見せて〜!」


俺は一つ息を吐いてカーテンをさっと横に引く。

大丈夫、朱里さんが選んでくれたんだから似合うに決まってる。

堂々としていよう!


「どうかな?」


「す……」


「す?」


「すごいカッコいい!写真撮ってもいい!?」


どうやらお気に召したらしい。

さっきと比べ物にならないくらい目が輝いている。

それくらい喜んでくれるのは嬉しいけど……少しこそばゆいような恥ずかしさがある。


「それはちょっと恥ずかしいかな……」


「お願い!今日のお夕飯は翔吾くんの食べたいもの何でも作ってあげるから!」


ちょっ!何大きな声で言ってるの!?

店員さんめちゃくちゃ驚いてるよ!?

今確実に高校生なのに同棲してると勘違いされたことだろう。

俺達は別に同棲してるわけじゃなくて一緒に夕飯を食べるだけの至って健全で普通の関係だから!

……高校生で一緒に家で夕飯を食べるのは普通じゃないか。


「わかった。撮っていいから落ち着いて!」


「いいの!?やったぁ!」


朱里さんはすぐにスマホを取り出して撮影を始める。

許可しなければよかったと少し後悔するくらいには朱里さんは写真を撮りまくった。

そして新しい服を渡され着替えるの無限ループ。

めちゃくちゃ疲れたけど朱里さんがずっと笑顔だったのでよしとしよう。


◇◆◇


「ごめんね。たくさん着替えてもらっちゃって……」


「いや、別にいいよ。おかげで良さそうな服も買えたわけだし」


今回で多少は見る目が養われた気がする。

ぶっちゃけ色合いが奇抜じゃなくてデザインもシンプルであればダサくないという事実がわかっただけだけど。


「今度その服を着て一緒にデートに行こうね!」


「……!そうだね。そのときは朱里さんもお洒落してくれるのかな?」


「もちろん!絶対に翔吾くんに可愛いって言わせるもん」


「それは楽しみ」


俺達は同時に笑う。

こうして次の約束ができるって幸せなことだな。


「その写真ってどうするつもりなの?」


「う〜ん……あっ!待ち受けにしちゃおうかな!」


「それはやめてください」


流石に恥ずかしすぎる。

モデルでもないのにワンショットを待ち受けにされる陰キャの気持ちにもなってほしい。


「え〜!久美に自慢したかったのに……」


それが嫌だから断ってるんですけど?

大体俺の写真を見せたところで自慢にもならんだろうが。


「じゃあ……こういうのはどうかなっ?」


「え?わっ!」


朱里さんがスマホを取り出して俺をグッと引き寄せる。

それと同時にパシャ、という音が鳴った。


「えへへ。制服デートの最後にツーショット!これなら待ち受けにしてもいいかな?」


「……まあ。それくらいなら……」


「やった!」


朱里さんは嬉々としてスマホの設定を始める。

そして俺達のツーショットに変わったスマホを見せてきた。


「えへへ。いいねぇ……」


「それはよかったよ。それより今日スーパーで買い物して帰る?」


「うん!翔吾くんは何食べたい?」


「うーん……カレーとか?」


「いいね!野菜とお肉たくさん入れちゃお!」


「朱里さんの作る楽しみだなぁ……」


僕たちは日が沈みかけた道を歩いていく。


後日、朱里さんから写真を送ってもらい俺のスマホの待受がツーショットに変わったのは内緒のお話である。


───────────────────────

会話の内容が夕飯のメニューとか夫婦ですか?と聞きたくなる。

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