第10話 誤解と解決

「こ、こないで!これ以上近づかれたら私……」


えっ?俺嫌われた?

だとしたらめちゃくちゃショックなんだけど……

髪なんてやっぱり切るんじゃなかった……

俺みたいなやつは髪を伸ばしまくって根暗で地味なほうが良かったんだ……


「許してほしい……全然似合ってなかったよね……」


「そ、そういうわけじゃなくてね!?そ、その……なんというか……」


「だったらどうして逃げるんだよ……そんな取り繕わなくていいから……」


俺達がそんな押し問答をしていると奥から朝田さんがやってきた。

俺達の現状を見て朝田さんは呆れたようにため息をつく。


「……何やってるの?」


「髪を切ったことで朱里さんに嫌われました……」


「嫌ってないよ!?むしろ大好きだから!」


「はいはいイチャつかないの。ちょっとお姉さんに話聞かせてみ」


朝田さんの提案で一度空気をリセットすることに。

店の奥の休憩室のような場所に置かれた椅子に座る。


「それで?まずは翔吾くんに聞こうか。なんで朱里に嫌われてると思ったわけ?」


「近づこうとしたら後ずさられたし目も合わせてくれないので……」


「……あんた何やってるわけ?」


「だ、だってぇ……」


俺の説明に朝田さんはジト目で朱里さんを見る。

朱里さんは気まずそうに肩を縮こめた。


「はぁ……じゃあ朱里はどうして翔吾くんのことを避けちゃったわけ?」


「そ、それは……」


「正直に言いなさい」


「はい……」


朱里さんはいざというとき押されると弱いようだ。

弁当妄想事件も俺が少し問い詰めたらすぐに自白しちゃったし。


「あんたが嘘つくとすぐわかるから隠そうとしないでよ?」


「はーい……」


「それで?」


「だ、だって翔吾くんがかっこよすぎたんだもん。ドキドキしすぎて顔が見られなかった……」


朱里さんが放った言葉の意味を理解した瞬間、一気に俺の顔は熱を帯びる。

朱里さんの顔も動揺に真っ赤だった。


「はぁ……聞いて損したかも……」


「なんで!?真剣な話だったじゃん!」


「結局は惚気話を聞かされただけじゃない」


朝田さんは今まで見た中で一番呆れた顔をしていた。

朱里さんが講義をするがより一層ジト目に変わっていく。


「喧嘩じゃないなら早く店から出ていきな。彼氏いないこっちの身からすると結構しんどいんだよ?」


「「す、すみませんでした……」」


◇◆◇


店を出た俺達は手を繋いだり腕を組むこともなく並んで歩いていた。

まだどこかぎこちない空気が流れている。


「多分……彩奈お姉ちゃんは気遣ってくれたんだと思う」


「気遣う?」


「うん。無理やり追い出すことですぐにデートを再開できるようにって……」


そうだったのか……

朝田さんと付き合いが長い朱里さんだからわかるんだろうな……


「それじゃあデート再開する?」


「……うん!制服デート第二幕だね!」


俺達はまた恐る恐る手を繋ぐ。

さっきよりもなぜか緊張する気がした。

髪を切る前よりも視線を感じるし……


「どこか行きたいところとかある?」


「せっかくなら服も選ばない?せっかく髪を切ったんだから似合う服を探してみようよ」


「わかった。行ってみようか」


俺達は服屋に向かって歩き出す。

俺に似合う服とは一体……

お洒落とは無縁の生活を送ってきたからなぁ……


「あのさ……さっきはごめんね。翔吾くんを傷つけるようなことを言っちゃって」


「えっ?ああ、もう気にしてないよ。無事に誤解は解けたわけだし」


「でも……」


それでもまだ朱里さんの顔は浮かないままだ。

俺はそんな朱里さんの様子に苦笑する。


「そんなに気にしなくていいって。俺はそうやって暗い顔してる朱里さんよりも明るくて笑顔な朱里さんのほうが好きだよ」


「……!!……わかった。気にしないようにするね」


朱里さんは笑顔を見せてくれる。

やっぱり女の子は笑ってる姿が一番だと思う。

特に朱里さんみたいないつも明るく笑顔な人が暗い顔をしていると俺も心配な気持ちになってしまう。


「うん。それじゃあ行こうか」


「うん!私がばっちり翔吾くんに似合う服を選んであげる!」


「あ、あはは……ほどほどで頼むよ」


「え〜!やだよ。としてをカッコよくしたいと思うのは当然のことでしょ?」


多分そこには協力関係を結ぶ俺のメリットでもあった杏奈たちに勝つ、という意味も含まれているのだろう。

学校でちゃんとしてても学校外で会わないとは限らない。

常に戦う気でなければならないのだ。


「そうだね。よろしく頼むよ。彼女さん」


「任せてよ。彼氏くん」


俺たちを包んでいたぎこちない空気はどこへやら。

さっきまでと打って変わって楽しく幸せな時間へ早変わりしていた──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る