第9話 悲報、嫌われたかも

「ふふっ、多分私たち他の人からカップルって思われてるよ。すっごい見られてるし」


「そ、そうかな……」


僕たちは今学校での授業を受け終え電車で数駅ほどの商店街に来ていた。

朱里さんの強い要望でここまで来たんだけど何をするのかは聞かされていない。

それよりも今の体勢だ。

右腕は朱里さんにがっちりホールディングされている。

朱里さんはカップルだから見られていると言ってるけど間違いなく超絶美少女な朱里さんが僕みたいな陰キャに抱きついてるのが主な原因だと思う。


「それで結局やりたいことって?」


「それは着いてからのお楽しみかな〜」


さっきからずっとこの調子である。

俺は諦めて朱里さんに案内されるままに歩いた。

そして朱里さんは一軒の店の前で止まる。


「じゃじゃーん!ここが今日の1つ目の目的地だよ〜!」


「……美容院?」


案内された場所は美容院だった。

朱里さんは遠慮なくドアを開け店内に入っていく。

俺は普通に千円カットの床屋しか利用したことのない人なので全く縁の無い生活を送ってきた。

ためらいながらも俺も店内に入る。

中はとても綺麗で朱里さんが20代中盤くらいの女の人と親しげに話していた。


「あっ!来た来た。彼がさっき話した大瀬良翔吾くんだよ」


「ど、どうも……」


「へぇ……君が朱里の彼氏……随分優しそうな男を捕まえたね」


「あ、ありがとうございます……?」


この人は一体誰なんだろうか。

朱里さんと親しそうなのはわかるんだけど……


「紹介するね!この人は私の従姉妹の彩奈ちゃん!」


朝田あさだ彩奈あやなよ。よろしくね」


朱里さんの従姉妹だったんだ……

顔はあまり似てないけど二人共すごく共通して美人である。

多分朝田さんもすごくモテるんだろうなぁ……


「むぅ……翔吾くんが彩奈お姉ちゃんに見惚れてる……!」


「えっ!?そんなことないよ!?」


「あはは!頑張りなよ翔吾くん!朱里は顔は可愛いけど結構面倒くさい女だよ」


「彩奈お姉ちゃんもそんな事言わないで!」


二人共すごく仲が良いな。

まだ出会って数分しか経っていないけどそれでも仲の良さが伺える。


「それで?今日は翔吾くんの髪を切るんでしょ?どういう髪型にする?」


「う〜んとね……」


え?俺髪切ることになってんの?

めっちゃ初耳なんですけど……

俺は座らされ朱里さんと朝田さんがおそらく髪型の名前であろう聞いたこともない単語を使いながら話をしている。

まぁ……髪も伸びてきたしなんでもいいか……


「よし!それじゃあ早速切ろうか。朱里はどこかで時間を潰してきなよ」


「え〜!私も翔吾くんが髪切るところ見たいのに……」


「完成してからのお楽しみってことで。そっちの方が感動も大きいかもよ」


「はーい……じゃあ一時間くらい時間潰してくる……」


朱里さんは少し肩を落として店を出ていった。

店内に俺と朝田さんだけになって少し気まずい。


「さて、始めるよ」


「は、はい。よろしくお願いします……」


朝田さんはニコリと笑って手際よく準備を始めた。

まずはシャンプーからするらしく台に移動して目をつぶっているとあっさり終わった。

気持ち良すぎて途中で何回か寝かけてしまった。


「よし、じゃあ切り始めていくよ」


朝田さんが俺の髪にはさみを入れ始める。

切る度に髪がぱらりと床に落ちる。


「ねえねえ。朱里との馴れ初めを聞いてもいいかな?」


「えっ!?馴れ初めですか?」


「うん。あの子初めての彼氏だと思うんだよね。だから今日彼氏を連れてきてくれたから聞いてみたいなって」


朱里さん初めての彼氏だったんだ……

あんなに学校だったらモテモテなのに……


「あまり面白い話じゃないですよ。ただ朱里さんから告白されて俺も朱里さんのことが好きだったのでお付き合いさせて貰ってるだけです」


まさか偽装カップルをしょうと言われた、とは言えないのでそこら辺は変えておく。

すると朝田さんは驚いたような顔をした。


「へぇ……あんなに奥手なあの子がねぇ……相当君にゾッコンなのね」


「あはは……ありがたいことです」


「それじゃあ私も張り切っちゃおうかな!若者たちの青春を手伝うためにも君をカッコよく仕上げてあげる!どうせなら朱里をびっくりさせちゃいましょ!」


「ほ、ほどほどでいいですからね?」


それから朝田さんは俺の髪を手際よく切っていった。

そして数十分後──


「……朱里ってば見る目あるわね……」


「え?どうしてですか?」


「いいえ。なんでもないわ。朱里も間違いなく喜ぶと思うよ」


朱里さんが喜んでくれるならまあいいかな。

というか朱里さんの指示で切ってもらったのに似合ってないとバッサリ切り捨てられたらなく自信がある。


「ただいま〜!」


「おっ帰ってきたみたいだね。出迎えてあげなよ」


「はい。行ってきます」


俺は店の奥から入口へと移動する。

何か買い物をしていたらしく朱里さんは紙袋を手に持っていた。


「おかえり。朱里さん」


「あっ!翔吾くん!髪切ったのはどうなっ……た……」


俺の方を見た瞬間、朱里さんが固まってしまった。

俺が心配して近づこうとしたら朱里さんは後ずさりをして距離を取る。

そして足の力が抜けたのかその場にへたり込んでしまった。


「だ、大丈夫?朱里さん」


「こ、こないで!これ以上近づかれたら私……」


えっ?俺嫌われた?


───────────────────────

ちなみに砂乃はお洒落に超無頓着なので私服とかほとんど買わないし美容院なんてもちろん行ったことがなく床屋で済ませる人です。

なんなら外出るのが面倒で家でバリカンを使って坊主にしていたときもあった……


昼あんな雰囲気で一緒に弁当を食べていながら嫌われてるはずがない。

とりあえず接近を拒否る朱里さん。

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