第5話 したたかすぎる

「どうかな?似合ってる?」


「すごく似合ってるよ。とても家庭的だと思う」


「えへへ……翔吾くんに褒められちゃった……!」


今、朱里さんはエプロンにポニーテールという格好で俺の前に立っていた。

ぶっちゃけこの姿を見て似合わないと言う人はいないと思う。

それほどまでにエプロンを着けた朱里さんは魅力的だった。


「それじゃあ何が食べたい?翔吾くんの食べたいものを作りたいな」


これも彼女の言っていたアピールなのだろう。

というか聞かれているんだから答えないわけにはいかない。

俺の好きなもの、と言われてもすぐにピンと来なかったので少し考える。


「うーん……じゃあ生姜焼きをお願いしてもいいかな?」


「ちょっと待ってね……うん。材料はあるから作れそう!早速作るから翔吾くんはゆっくりしててね」


「ありがとう。そうさせてもらうよ」


そう言いつつも俺は料理をしている朱里さんを観察し始める。

今思えば朱里さんが料理してくれてるのにゆっくりするなんて恐れ多い……!

それに料理している朱里さんなんていう激レアな瞬間を見てみたい気持ちがある。


「し、翔吾くん?そんなに見られたら緊張しちゃうよ……」


「ああ、ごめん。邪魔ならやっぱりどこかに行くよ」


「や、やっぱり行かないで!見てていいから!」


どっちやねん。

朱里さんって結構面白い人だったんだな。

教室ではいつもニコニコと落ち着いている印象だったけど今は明るくて一緒にいると楽しいと思っている。

なにはともあれ本人の許可を得られたので俺はその場に居座り観察を再開する。


「手際いいね……」


「お料理は結構好きなんだ〜!まあ普段はもっと適当に作っちゃうんだけどね」


手際の通り料理好きらしい。

そういえば弁当も自作しててすごく美味しそうだって女子が話してたのを聞いたことがあるな。

覗き見をすること数十分。

朱里さんが一つ頷いた。


「完成〜!」


「すっげえいい匂い……」


リビングには既に食欲をそそる匂いが充満している。

この匂いだけでも米が食えそうだ。

もちろん匂いじゃなくて料理をぜひとも頂きたいところだが。


「はい!私特製の生姜焼きだよ〜!」


「おお……!」


テーブルの上には生姜焼きに味噌汁、サラダと白米が置かれた。

どれも美味しそうだ。


「いただいてもいいかな?」


「もちろん。口に合うといいんだけど……」


さっきまで明るい顔だったのが一転不安そうな顔になる。

いざ、食べてもらうとなると心配なようだ。

初心者の俺からするとこの匂いと見た目で不味くするのは逆に難しいように思うんだが。


「いただきます」


そう言って俺は豚肉を一切れつまみ口に入れる。

口に入れたその瞬間、生姜の香りと豚肉の旨味が広がる。

白米が欲しくなる味付けで米も口にいれた。

タレと肉の油が米に絡んで最高だ……!


「どうかな……?」


「最高に美味い……!今まで食べた生姜焼きの中で一番美味しいよ!」


「よかったぁ……翔吾くんの口に合ったみたいで……」


朱里さんは安心したようにため息をつく。

というかこれが美味しくないと言う人はいないと思う。

朱里さんなら料理人を目指せるんじゃないだろうか。

でも朱里さんは多才だから他の職業も目指せそうだなぁ……


俺達は雑談をたまに挟みつつ箸を進めた。

朱里さんの手料理はどれも美味しくて少食な俺が2回もおかわりしてしまった。

もう冷たいコンビニ飯じゃあ満足できる気がしない。


「ごちそうさま」


「お粗末様です。いっぱい食べてくれてありがとう〜!」


「俺がお礼を言いたいくらいだよ。温かいご飯なんていつぶりだろう……」


「えっ!?いつもご飯どうしてるの……?」


朱里さんは驚いたように聞いてくる。

俺は残念ながら料理が全くと言っていいほどできないので正直に朱里さんに話す。


「恥ずかしながらコンビニ弁当とか惣菜がほとんどだね」


「そんなんじゃ体壊しちゃうよ……」


朱里さんが心配そうに言う。

でも男子高校生の一人暮らしなんてそんなもんだと思うけどな(情報源は俺)

まあ普通の男子高校生は一人暮らしなんてしないだろうし自分がレアケースなのは自覚してるけど。

俺の自白に朱里さんは何やら考え込んでしまった。

長考の末、朱里さんは顔を上げる。


「よかったら学校がある日はうちで晩ご飯食べない?」


「え……?えぇぇぇぇ!そんなの悪いよ!」


朱里さんの提案はとても魅力的だ。

でも俺と朱里さんの関係は偽装カップルと複雑だが本当に付き合っているわけじゃない。

そこまで朱里さんに迷惑をかけることはできなかった。


「実は一人だと食べきれなかったり一気にたくさん作ったほうが美味しいから諦めてきた料理がたくさんあるの……!それに一人で食べるのは寂しいし……だから翔吾くんが来てくれると嬉しいな」


ぐっ!?

その言い方は卑怯なんじゃ……

まずい……!俺の弱い意思が崩れていく……!

いや!俺にまだ道は残されてる!


「俺は男なんだよ?怖くないの?」


「翔吾くんはそういうことしないでしょ?それに襲われたら責任とって付き合ってもらうから大丈夫だよ」


朱里さんしたたか過ぎない?

その後、俺は2分と持たず陥落した。

こうして学年一の美少女と毎日晩ご飯を食べることが決定した。


─────────────────────────

朱里さんは今まであまり書いてこなかったタイプのヒロインだけど結構お気に入り。


限定ノートにて『捨て俺』(他にいいのあったら教えてください)の第6話を先行公開!

これからも基本的に一話先を先行公開していく予定です!

砂乃にギフトくれてやってもいい、という方はよかったら覗いて見て下さい!

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