第4話 協力関係
「私と偽装カップルになること、だよ!」
「…………はい?」
俺は今日何度目か分からない高垣さんの爆弾発言に目を丸くするのだった。
偽装カップル?
ラノベとかによく出てくるあれか?
「どうして条件が偽装カップルになることなの?あまりやる意味が見出せないんだけど……」
「だから両方にメリットがあるって言ってるでしょ〜?」
それが分からないから聞いているのだが。
偽装カップルをすることがなぜ双方の利益につながるのだろうか。
ラノベだと男避けに使われてるシーンが多い気がするけど言い寄られて困っているというわけでもなさそうだ。
「つまりはどういうこと?」
「だって私からすれば大瀬良くんと一緒にいられる時間が増えるんだよ?大瀬良くんだってそこそこ可愛い女の子を侍らせることができるじゃん。まさにWin-Winだよ」
高垣さんはそこそこどころじゃない美少女だと思うんですけど……
ていうか1つ目はまだしも2つ目の理由はまったくわけがわからん!
女の子を侍らせてメリットだね、なんて高垣さんの口から出るとは思わなかった……
「そもそもなんで俺にメリットなの?」
「だって大瀬良くんは杏奈や音取くんに勝ちたいんでしょ?」
「……ああ」
さっきまでニコニコしていた顔が真剣な表情へと変わる。
それ故にこの提案に俺が思いつきもしないような利点があるんじゃないかと思えてくる。
だって高垣さんの成績は学年トップだから真ん中くらいの俺と比べるまでもない。
「それならやっぱり利点になるよ。だって可愛い彼女がいることもステータスの一つでしょ?」
そう言われてハッとなる。
一概に勝つ、と言っても内容は勉強や運動だけじゃない。
人間関係だって立派な要素の一つだ。
それを考えると高垣さんは『学年一の美少女』なんて呼ばれてるわけでこれ以上の適任はいない。
「私は偽装カップルを利用して君に女子力を見せつけて私を好きにさせる、大瀬良くんは偽装カップルを利用して杏奈たちへの仕返しの一つにする。どう?Win-Winだと思わない?」
「……思う」
これ以上ないほどの名案に思えてきた。
しかも偽装カップルになることで杏奈たちへの仕返しに高垣さんが手伝ってくれる……
これに乗らない手はなかった。
「それじゃあ決まりだね!これから私たちは偽装だけどカップルだよ!」
「ああ。よろしくね」
「うん!それで告白の答えは杏奈達への仕返しが終わったら聞かせてほしいな。それまでに頑張ってアピールするから!」
「分かった。真剣に考えさせてもらうよ」
こうして俺たちは協力関係を築くことになった。
まさか杏奈にフラれて高垣さんともこんな関係になるなんて思いもしなかったな。
俺の人生の中で最も激動の日だと思う。
「それじゃあこれからは勉強とか運動とか、他にも色々やろう!一緒に頑張ろう!」
「ああ!」
こんなにも頼もしい協力者は他にいないだろう。
なにせ彼女は勉強だけでなく運動も得意な正真正銘の天才なのだから。
容姿、頭脳、運動神経、そして家も多分家柄も良い。
高垣さんがいかに神様に愛されているかがわかる。
「それじゃあこれからは名前呼びにしない?ほら、学校では偽装カップルするわけだから呼び慣れていたほうがいいでしょ?」
「それもそうだね」
「じゃあ改めてよろしくね?翔吾くん」
「こちらこそ。朱里さん」
少し照れているのか朱里さんの頬は赤みがかっていた。
俺も頬が熱いので似たようなものだが。
俺たちは少し冷めてしまったコーヒーを照れ隠しのように飲んだ。
そしてしばらく経ち心も落ち着いてきた頃。
「そういえばさ、お腹空いてない?」
「え……?」
突然、朱里さんに切り出され俺は確かに腹が減っていることに気づく。
外を見てみると日は完全に沈み暗くなっていた。
時計を見ると6時くらいでかなり長居してしまっていた。
「ごめん。こんなに長居しちゃって迷惑だったよね。俺はこの辺で失礼するよ」
「待って待って!そういう意味じゃないの!」
俺が立ち上がろうとすると朱里さんが必死に止めてくる。
てっきり言外に長居しすぎだから出てけと言われてるのかと思ったらそういうわけではなさそうだ。
俺はもう一度椅子に腰を下ろす。
「よかったらうちでご飯を食べてかない?」
「え?でもそれは流石に迷惑じゃ……」
「大丈夫!二人とも一人暮らしなんだし一緒に食べたほうが絶対に美味しいよ!それに君にアピールしたいって言ったでしょ?」
「……分かった。それじゃあよろしく頼むよ」
「やった〜!翔吾くんとご飯だ〜!」
朱里さんは嬉しそうに笑う。
かくいう俺も誰かとご飯を食べるのは久しぶりなので少しテンションが上がっている。
「じゃあエプロン取ってくるね」
「うん。いってらっしゃい」
朱里さんは足取り軽くリビングを出ていった。
俺は朱里さんを見送って一息つく。
「朱里さんと一緒にご飯、か……」
俺は朱里さん作るご飯がどんなものだろうとつい想像してしまう。
美少女の手料理、なんてパワーワードに抗える男子高校生などいないのだ。
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