第3話 決意と条件

「じゃーん!ここが私のお家だよ〜!」


「すげぇ……」


高垣さんに連れて来られた家はオートロック付きのマンションだった。

俺が住んでるところは普通のアパートなので開いた口が塞がらない。

それでもかなり家計の負担になってしまっているはずだ。

高垣さんっていいところのお嬢さんだったんだな……


「さあ上がって上がって〜!」


「お邪魔します……」


中はとても広く綺麗な部屋だった。

一人でこんなところに住んでるの?

まじの大金持ちじゃん……


「自由にくつろいでね。飲み物淹れるけど紅茶とコーヒーどっちがいい?」


「じゃあコーヒーでお願いします」


「はいはーい。私もコーヒー飲んじゃおーっと」


そう言って高垣さんはキッチンでコーヒーを淹れ始めた。

俺は女の子の家にいるという実感が湧いてきて今更ドキドキし始めた。

高垣さんは作業していて完全に俺は手持ち無沙汰だ。

かといって手伝うのもなんか違う気がするし作業してもらってるのにスマホなんてさわれない。

キョロキョロと部屋を見るのは失礼なので俺は心を無にして待つことにした。


「おまたせ。あれ?大瀬良くんどうしたの?」


「い、いや。なんでもないよ。コーヒーありがとう」


高垣さんからコーヒーを受け取る。

とてもいい香りで一口飲むとホッと息が出る。

美味しい……


「このコーヒーすごくおいしいね」


「ありがとう!私もお気に入りのやつなんだ〜」


本当にいつも笑顔だな。

高垣さんの笑顔を見ているだけで元気になってくる気がするのだから不思議だ。

高垣さんと公園で出会わなかったら今頃部屋でぼーっとしてたのかな。

多分今ほどは心に余裕を持つことは出来なかっただろう。


「それで高垣さんはどうして俺のことをお持ち帰りしようとしたの?」


コーヒーをいただいて一息つき俺は本題に入る。

この理由を聞くためにお持ち帰りされたのだ。

杏奈と高垣さんは仲が良いので何か事情があってお持ち帰りしたかったけど杏奈とトラブルになりたくないからフリーかどうか聞いた、という流れだろう。


「そ、それは……」


高垣さんは少し顔をそらし口ごもる。

そんなに言いづらい事情でもあるのだろうか?

俺も高垣さんに話を聞いてもらったんだから俺にできることはしたい。


「き、君のことが好きだったから!だからお持ち帰りしたかったの……!」


「…………へ?」


答えは俺の予想してなかったものだった。

お持ち帰り発言以上の衝撃に俺は目を丸くする。

そしてその言葉の意味を完全に理解した瞬間自分の頬が一気に熱くなった。


「だから……大瀬良くんのことが好きだったの……!」


「な、なんで?俺達あまり話したことなかったよね……?」


これは別に俺が鈍感、というわけではないと思う。

本来ならばお持ち帰りされた時点で俺のことが好きなのではないかと思っていたはずだ。

でも俺と高垣さんはただのクラスメイトで今まであまり話したこともないのだからそんなこと思うはずがない。

ただでさえ先ほど恋愛で痛い目を見たのだからなおさらだ。


「理由は……申し訳ないけどまだ言えないかな。でもいつか必ず言うね」


好きになった理由が言えないって一体どんな理由なのだろうか……

気になるけど高垣さんが言えないと言ったなら無理に詮索することはできない。

好奇心それ以上に学年一の美少女である高垣さんから告白されたという事実に驚きしかない。


「わ、分かった」


「それでね。告白の答えはまだ言わなくていい……ううん、言わないでほしいの」


「言わないでほしい?」


「うん。で、ここからが一番私が言いたかったことなんだけど……」


どうやら告白すらも前置きだったらしい。

高垣さんは一呼吸置き、本題を切り出す。


「大瀬良くん。杏奈を見返したくない?」


「杏奈を見返す……?」


「うん。だって杏奈がやったことはひどすぎるよ……大瀬良くんにだってやり返す権利はあると思う」


そう言われて忘れようとしていた昼休みの出来事が鮮明に蘇ってくる。

俺にも非はあったのかもしれないが一方的に弄ばれ、搾取と嘲笑の対象になり、捨てられたことに怒りがふつふつと湧いてくる。

あんな悔しくて惨めな思いはもう二度としたくない……!


「ああ……!やれるもんなら見返してやりたいさ!!」


「そうだよね!」


「でも俺には何もないんだ……あいつらを見返せるようなものが……」


「あるよ」


「え……?」


「私は大瀬良くんのいいところをいっぱい知ってる。絶対に杏奈や音取くんに負けたりしない」


高垣さんは俺の前髪をかきあげながらそう言う。

顔の距離が近くて心臓がバクバクいっている。

それでも何故か高垣さんの言葉はすっと心に入ってきた。


「私も協力する。だから少しだけ一緒に頑張ってみない?」


その言葉が後押しとなった。

さっきまで自信がなかったのが嘘かのようにやる気が溢れてくる。

我ながら単純だと思う。

でもこの短時間で高垣さんのことは信用できると思ったし何もせずただ悲しんでいるよりは何倍もいい。


「分かった……俺、やるよ……!」


「ふふ、そうこなくっちゃ!一緒に杏奈達を見返してやろうよ!」


高垣さんは楽しそうに笑う。

そして俺はふと気づいた。

これ、別に高垣さんにメリット無いし前置きに告白する必要あった?


「高垣さんはどうしてそんなに協力しようとしてくれるの?高垣さんにメリットが無い気がするんだけど……」


「実は私にも大瀬良くんにもお得な提案があるんだ〜!それをしてもらうのが協力の条件だよ」


協力の条件……か。

確かにただ手伝ってもらうのは申し訳なさすぎるし高垣さんは俺にもメリットがあると言っていた。

内容にもよるけどよほどのことじゃなければ異存無しだ。


「その条件って?」


「私と偽装カップルになること、だよ!」


「…………はい?」


俺は今日何度目か分からない高垣さんの爆弾発言に目を丸くするのだった。


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日間5位獲得!


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