第2話 お持ち帰り

「はぁ……」


放課後、俺は一人でトボトボと帰り道を歩いていた。

振られて数時間が経ち振られたことを頭が理解し始めていた。

とにかく辛くて苦しい。


「初恋だったんだけどなぁ……」


俺は昔から人と仲良くなりたいと思っていても自分から話しかけられないタイプだった。

そんななか、杏奈が笑顔で話しかけてきてくれたのだ。

そして毎日少しずつ話していくうちにその明るい性格、笑顔、そしてこんな俺にも話しかけてくれる優しさに惚れていた。

小学校、中学校とあまり女子に縁のなかった俺にとっては杏奈は初恋だったのだ。


「まだ家帰りたくねえな……」


なんとなく家に帰る気分じゃなくて途中にあった公園のベンチに座る。

もうどうしていいか分からなかった。


あの日、告白されたときは本当に嬉しくて一週間ほどの短い時間だったけど俺なりに精一杯尽くしてきた。

ショッピングデートで物をせがまれた時は必死にバイトをして貯めたお金を杏奈のためならと使った。

今となっては馬鹿らしい話だ。


「本当になんなんだよ……」


俺は頭を抱えやるせない気持ちをこらえる。

俺にとって杏奈との交際は本気だったのだ。

それがあのような形で終わりを迎えるなんて思ってもみなかった。

どれくらい時間が経っただろうか。

周りから少しずつ子供たちの声が小さくなり始めたとき不意に声をかけられた。


「大瀬良くん……?大瀬良くんだよね?」


その声は鈴を転がしたように美しかった。

ゆっくり顔を上げて声の主を見ると黒い髪を風で揺らした美少女がいた。

この人は……


「高垣さん?」


「あっ!覚えててくれたんだね!」


「そりゃあクラスメイトだし忘れるわけないよ」


目の前に立っていたのは高垣たかがき朱里あかりさん。

腰まで伸ばした黒髪、くりっとした可愛らしい目、愛嬌のある笑顔、小顔でスタイルが良くてこれでもかとモテる要素を詰め込んだ学年一の美少女と名高い人だ。

クラスメイトな上に元々存在感がある人だし小学校のとき仲が良かった子と同じ名前なので俺の中で結構印象に残っていた。


「ふふ、そっか。それはよかった」


「どうして高垣さんがこんなところにいるの?」


「それはこっちのセリフだよ〜!たまたま通りかかった公園にうちの生徒がいると思ったら大瀬良くんだったんだもん」


どうやら心配して来てくれたようだ。

本当に優しい性格らしく優れた容姿も相まって高垣さんがモテる理由を理解した。

こりゃあ大半の男子はころっといくわな。


「こんなところでどうしたの?顔色も悪いみたいだし体調が悪いなら病院連れてくけど」


「いや、ちょっと精神的にキツイだけだから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


どうやら相当顔色が悪いらしい。

教室でいつも笑顔な彼女が心配そうにこちらを見ている。

俺なんかのために気を遣わせてしまっているのが申し訳ない。


「何かあったんだね……よかったら私に話してみない?話すとスッキリすることもあるだろうし」


「………じゃあお願いしてもいい?」


普段の俺だったら絶対にお願いすることは無かっただろう。

それでも今はとにかくこのやるせない気持ちを吐き出したかった。

俺が起こったことを話している間、高垣さんは横に座りながら親身になって聞いてくれた。


「そんなことがあったんだね……」


「ごめん……楽しくない話を聞かせてしまって。でも、おかげで少し心が軽くなった気がするよ」


「ううん!私から言い出したんだし大瀬良くんの力になれてよかった!」


本当に高垣さんは人柄がいいんだな。

沈んだ気持ちも少しだけ元気になってきた気がした。

感謝をもう一度伝えようとすると高垣さんが少し顔を赤くして聞いてきた。


「それでさ……大瀬良くんは今フリーになったんだよね?」


「うん、まあね……今の俺は捨てられた野良犬みたいなもんだよ」


少し余裕が出てきたので冗談めかして言ってみる。

すると高垣さんは温かい目で微笑んだ。

ちょっと虚勢を張ってるのがバレてるみたいでドキッとする。


「そっか。じゃあ私が大瀬良くんのことを拾ってもいいかな?」


「……………はい?」


いきなり何を言われたのかと俺は固まってしまった。

高垣さんが俺を拾う……?


「えっと……どういうことかな?」


「大瀬良くんが捨てられちゃったなら私が拾いたいの」


俺がさっき自分のことを捨てられた野良犬みたいだと言ったからか?

だからといって拾う?

俺は人間以下の存在だから拾って飼いたいってことなのか?


「それはペットとして飼いたいって意味なの?それだったら流石にお断りしたいんだけど」


「ち、違うよ!?私も大瀬良くんの冗談に乗っかっただけで飼いたいなんて思ってないからね!?」


どうやら違うらしい。

表面を取り繕って実は腹黒、というわけではなさそうだ。

でもそれならなおさら『拾いたい』の意味がわからなくなる。

ペットじゃないならなんなんだ?


「じゃあどういう意味なの?」


「そ、それは……君をお持ち帰りしたいなってことです……はい」


「な、なんで!?」


お持ち帰りって合コンとかでよく使われるあのお持ち帰りだよな!?

高垣さんが俺をお持ち帰り?

さっぱり意味がわからん。

でも高垣さんの顔は真剣、というか顔を少し赤く染めていてふざけている様子は全くない。


「でもなんで俺なんかを?」


「話すと結構長いんだよね。外も寒くなってきたしよかったら私の家で話さない?大瀬良くんは今日は家の事情とかある?」


「いや、俺一人暮らしだから事情はないけど……」


「え〜!私も一人暮らしなんだ〜!それじゃあ決まりだね!」


何故か決まってしまった。

一人暮らしの女子高生が付き合ってもいない男子高校生をお持ち帰りなんて正気の沙汰じゃない。

でも本人もそう言ってるし俺も今の精神状況で襲う、なんてことにならないだろうからまあいいか。


「……分かった。お邪魔させてもらうよ……」


「やったぁ!」


高垣さんは無邪気な笑みを見せる。

将来悪い人に騙されたりしないだろうか……

俺は初めて女子の家に招待されたはずなのに期待よりも心配を抱いてしまうのだった。


こうしてお持ち帰りしたい理由を聞くためにお持ち帰りされるという謎の状況が出来上がった。


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比絽斗 様


@poisonboys 様


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