第4話 妹
Eクラスダンジョンを攻略した帰り。家に帰ると俺じゃない人の靴があった。
俺と同じくらいの靴のサイズ。これは女の子の靴! というかまぁ探偵ごっこして考えなくてもその持ち主の正体には心当たりがあるんですけどね。
「お兄ちゃんおそ……って誰!?」
「はぁ」
お察しの通り妹である。我が妹である照内 沙代里だ。
「お兄ちゃんの彼女? いや、まさか、あのお兄ちゃんにこんな金髪で大人っぽくてかわいくて美人な彼女ができるはずがない……。失礼ですがお名前をうかがっても?」
この妹め。実の兄をバカにしすぎではないだろうか。まぁ、この新しい姿と元の体が釣り合わないのは否定できないけどな。
「沙代里、兄の名前を忘れたとは言わないよね?」
「はい? ……え、お兄ちゃんまさか覚醒して性別変わったの!?」
察しがいい。
「性別変わるなんて聞いたこともないんだけど?」
「いや、俺も聞いたことないよ?」
実際前例はないはず?
「いや、それはそれとしてお兄ちゃんがこんなにいい服を選べるはずがない! どっきりかなんかでしょ!」
「おーい! 兄のセンスをバカにするな! これは……ショップの店員さんに選んでもらった服だ!」
ありがとう卯月さん。おかけで服には困ってません。
「なるほどね。それで……いくら使ったの?」
「え? 他のも全部合わせて……10万くらい?」
我が妹はあきれたように頭を抱えて見せた。
「全然善良な価格でよかったけど! 高いの買わされてたらどうするつもりだったの?」
「え? えーと……?」
やっべぇなんも考えてなかった。いわれてみれば店員さんは売る立場なんだし、高い服をおすすめしてきてもおかしくない。こんなカモみたいな客ならなおさらだ。
「はぁ。これからは私がお兄ちゃんの服を選ぶから。誰のお金で生活してると思ってるの?」
「うっ」
それを言われるとだいぶ弱い。まず俺たちの両親は2年前に事故で他界している。一応祖父母が親権を持ってはいるが、沙代里は元の俺たち家族の家で、俺は高校の都合で離れたところで一人ぐらしをしていた。まぁ、保険のお金をつかって。
今年に入ってからは沙代里が配信で巨額を稼ぐようになったので、なるべく保険のお金に手を付けないために、沙代里がお金を払ってくれていたのだ。
というわけで俺は沙代里に頭が上がらない。
「それにしてもお兄ちゃん、ずいぶんかわいくなったね」
「ああ、それに関しては俺もびっくりだよ。朝起きたらこんなになってて」
めちゃめちゃ強い力まで手に入れてな。
「ちょっとさ、口調と一人称変えない? 違和感すごいよ?」
「まぁ……そうだな」
口調と一人称くらい勝手だろとは思ったが。でも確かに俺の見た目で女の子らしく話すところが見てみたくはある。きっとすごくかわいいと思う。
なんというか客観的過ぎて時々ナルシストみたいになってしまう。これが自分だってまだしみついてないからかな。
「えーと、一人称は私でいいとして、……しゃべり方はどう変えればいいんだ?」
「配信の時の私でも参考にしたらいいんじゃない? 結構かわいいを詰め込んだかんじでしょ」
確かに。我が妹の沙代里は配信で一躍有名になるほどかわいいのである。俺の自慢だったのだが。
見た目だけでいえば今の俺のほうがかわいいな!
「確か……こんな感じ、かな?」
「うん、超かわいいよお兄ちゃん。いや、お姉ちゃん?」
俺も探索者として配信したら有名になったりしないかなー。よし! Sクラスになったら配信でも……と思ったけど、配下を映して配信はさすがにイメージがなぁ。
「あ、晩御飯できてるし、食べちゃおうか」
「うん、そうだね」
どうやら沙代里が晩御飯を作ってくれたらしい。沙代里は家事とかなんでもできるからなぁ、俺と違って。
◇◇◇
ご飯も食べ、風呂にも入った後、沙代里との話合いが始まった。
「ところでお姉ちゃん。学校はどうするの?」
「今はまぁ、休んでるよ。無断でだけどね」
沙代里はやはり、あきれたような表情をする。
「お姉ちゃんのことだからまさかとは思ったけど、やっぱりそう。おじいちゃんとおばあちゃんに連絡して転校させてもらおうか。うちの学校、おいでよ」
「私が、女子高に?」
さすがにそれには抵抗があるというかなんというか。沙代里はここいらで少し有名なお嬢様学校に通っている。16歳だから俺の1つ下で1年生。
「今は女の子なんだからいーでしょ。無断で休み続けるよりましだって。そうと決めたらさっさと準備しよう! 実家に帰る用意を進めてね」
「んーわかった。せっかく片づけたんだけどなぁ」
主に配下が。
「確かにお姉ちゃんにしては頑張ってるよね」
「ま、まぁね」
配下にやらせてるなんて言えない。
「ん? もしかして誰か呼んだ?」
「ま、まさかそんなこと、あるわけないよ?」
察しがいいんだよ! これ沙代里の前で配下召喚したらバレそう。しばらく沙代里には配下のこと黙っておこう。
「ま、いいけどね~! 久しぶりに家族であの家に暮らせる。私は嬉しいよ」
そういえば今まで16の女の子を1人で暮らさせてたわけだもんな。うちの家族は仲よかったし、1人だったらそら寂しいよな。
「うん、私もうれしいよ。おいで?」
「お姉ちゃんのくせに何? 彼女でもできた? 女の扱いうまくなっちゃって。でも、うれしい」
探索者をやるにしても、沙代里を置いて死ねはしない。ほどほどにやろう。抱き着いてきた沙代里の頭をなでながら、俺はそう決めたのだった。
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