31 エデッサでのんびり
レスリーとローランのアパートに行きたいが、まだ昼前だ。仕事は何時くらいに終わるのかな。
「オレ、腹が減ったし、市場に行って食事をして、食材を仕入れるか」
「そうですね、その前に武具屋に行って手入れをしておきましょう」
そういう訳で、武器屋に寄って武器のメンテナンスを頼む。
「こりゃ、よくお使いですね」
武器屋の親父はユベールの黒い剣をじっと見て口をへの字にする。
「サソリが硬かったからなあ」
「こちらは綺麗です」
オレの銀のショートソードはちょっと見ただけだ。
「オレあんまり武器で戦ってないからなあ」
「力仕事は私がいたしますので」
「相変わらず仲がいいですな。武器は2、3日かかりますがよろしいですか」
「分かった」
店に並べられている武器を見ると、やっぱりワクワクする。
「武器は幾つかあった方がいいよなあ」
「そうですね。エルヴェ様は魔法を乗せられる武器になさったらいかがですか」
「ユベールは防御とか、攻撃を跳ね返す武器とかないの?」
武器屋の親父は「うーむ、攻撃を跳ね返すのだったら小手にそういうのがあったな。魔法を纏わせるのならミスリルの武器があるぞ。公都の武具屋には、武器や道具に色々な効果を付ける付与術士が居るというな」と、耳寄りな話をする。
「へえ、会ってみたいな」
「まあ、その付与術士は余程のことがないと会ってくれんし、べらぼうに高い料金をふんだくるって話だ」
それはちょっと会う事からして無理かな。ユベールと顔を見合わせて肩を竦める。
そういう訳でオレ達はミスリルのロングソードとショートソードと、反射の小手を買って店を出た。
市場にある大衆食堂っぽい賑やかなレストランに入る。そこはテラス席があって海が見えるんだ。そっちの席に座って、お昼の定食を食べた。その日の定食は海鮮コキールでエビやら蟹肉の外に鳥肉も入っていた。ユベールは串焼き肉も頼んでいて一口貰ったがなかなか美味い。
「そういや、ダンジョン産のトリ肉は美味いんだよな」
「はい、バッグに色々入っています」
「そっか、バタバタしてまだ食べていないなあ」
「エルヴェ様が食材をたくさん買い込んで行かれましたので、まだ残っております」
「オレだけじゃないだろ」
大体ハナコだってあれ買えこれ買えってうるさかったし。ユベールもどんどん買い込んでいたじゃないか。
「私はちゃんと消費しております」
こいつは肉専門だったな。
「半分、レスリーとローランのお土産にしようか」
「そうですね」
***
レスリーとローランのアパートに行ったが、仕事に行っているらしくてアパートは留守だったので、街をブラブラと歩いた。
エデッサは港町でお貴族様が遊ぶカジノやら高級ホテルやら上級歓楽街のある上町地区と、普通の市民や船員、港湾荷役労働者などの暮らす下町地区の区分ははっきりしていて、街の色も違う。
下町の繁華街を物色していると、たくさんの生地を置いた服屋があった。生地を買って仕立て代を払えば、採寸して早くて3日、大体一週間ぐらいで出来るという。
2人のウェストコートとコート、ローブとトラウザーを何着か頼んで、その店にあった下着や白シャツ、靴下なんかを揃えた。その後、服屋の紹介で靴屋に行って誂えの靴を作るが、こちらは結構な値段だ。
「こちらはバーラルの特上スキンでございます」
「じゃあそいつで」
二人のハーフブーツを作ってもらうことにした。
「オレ達、靴になるような魔獣は倒していないな」
「そうですね、倒した魔獣の素材は殆んどギルドに納めましたし」
『ご主人様』
『アズダルコの皮ならありまーっす』
うん? ハナコとタローが持っているらしい。一枚受け取ると「おお、それはアズダルコではございませんか!」と、店主が色めき立った。
「何と、傷もなく美しい!」
いや、それスライムが丸呑みしたから。しかし、中身だけ喰うとか凄い特技だな。そっちに進化してくれたのか、すごいなハナコとタローは。
ダンジョンのボス部屋のボスは、一度倒すともう出て来ない仕様になっている。つまり倒した奴と一緒に行けば、出て来ないのだ。いいのか悪いのか分からないけど、考えてみると新人ひとりを囮に連れて行くってのもあったりしたら……、ヤバイよな。
そういう訳でアズダルコの皮は貴重なのだという。
胴体のぽつぽつの模様とレッグの部分のトカゲ模様、そして独特の青みを帯びた美しい皮が人気なのだ。
「あの、お客様。よろしければこれをあと1枚分けて頂ければ、ブーツは無料で、靴もお付けいたしますよ」
「そうなの? ハナコあと1枚持っている?」
『はい、出します』
「じゃあこれ2枚でいいですか?」
「はい、誠にありがとうございます」
「なあ、ユベール。この皮綺麗だから財布を作って貰おうか?」
「そうですね」
「それでしたら、このようながま口財布はいかがでしょうか」
店主が出したのは口金の付いたがま口に紐が付いていて、肩に掛けて下げられるようになっている。
「ふーん、面白いからこれを貰っておくわ」
「では、お願いしますよ」
「ありがとうございました」
オレ達は靴が出来上がる日を聞いて、その店を出たのだ。
買い物を済ませてアパートに戻ると部屋に明かりが点いていた。ドアノックを叩くと懐かしい顔が出てきた。
「エルヴェー! 生きてたー!」
「大袈裟だな、レスリー」
オレ達二人が抱き合うのを後ろの二人が眺めている。
「何か随分会ってないみたいな気分なんだ」
「僕もそう思う。あいつら何してんだろうなって、ちょっと心配したり忘れてるんじゃないかと不安になったり、腹立ったり」
「色々あって、何から話したらいいか」
「そういえば僕達を助けてくれた川船の船長が来て、どこに居るか知らないかって聞いてたけど、会った?」
「うん、来た来た。髭を剃って奇麗にしていてどこの親父かと思った。それより、あっちでイポリットに会ったんだ。温泉宿を建てるんだと」
「イポリット?」
「白豚みたいな奴」
「あ、あーアイツか、偉そうな奴」
「痩せてカッコよくなってた」
「へーちょっと会ってみたいな」
「おい、エルヴェ」
ローランにくぎを刺される。
「あ、ごめん。それより店はどうなんだ? 良さげな所あった?」
「3つばかし見当付けたんだ。明日、案内しようか」
「じゃあ、明日又来るわ」
「じゃあな」
オレ達はふたりにダンジョン産の鳥肉を分けて帰った。
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