第4話

 啓示の家で勉強会をやることになり、僕は家に帰らず直接啓示の家に行くことにした。


「鏑木君! 吉野君の家が分からないから一緒に行ってもいい?」

「いいよ」


「慎吾、俺おやつ買ってくるから少し遅れる」

「わかった、蓮。じゃあ小川さん行こうか」


 教室を出て、昇降口へ。いつの間にか啓示が帰っていたので、小川さんと二人で向かう。


「神楽ちゃん、いつ来るかな?」

「テスト前だからって、部活早めに切り上げるみたいだから、遅くはならないと思うよ」


 何気ない話を小川さんとする。小川さんっていいな、と思いつつも目の前にある胸をつい見てしまった。

 彼女は気づいているのだろう。怪しく笑うが、何も言わずに気づかないふりをしてくれたのだと思う。


 ◇


「ここが啓示の家」

「へぇ、大きいじゃん」


ピンポーン


『はい』

「啓示君いますか? 勉強会で来たんです」


 ◇


 少し待つと玄関が開き、啓示が「上がって」と言う。啓示の部屋へ行き、中に入ってどの場所に座ろうかと考えた。


「吉野君、隣いい?」


(そうだよな。もともと小川さんの為の勉強会だし、啓示の隣で教えてもらうのがいいな)


「啓示。蓮も隣がいいと思ったんだけど」


 啓示は苦笑いしながら「わかった」と言って制服をハンガーにかけていた。


ピンポーン


「蓮だな」


 啓示が玄関へ行く。僕は夏休みの課題を取り出し、準備をした。


「鏑木君はテストできる方なの?」

「たぶんできる方だよ。学年順位が一桁のときもあったし」

「うそー! ラ――、転校してきて、勉強できる感じには見えなかったんだけれど」

「失礼な。それは僕じゃなく蓮だよ」

「ははは、御影氏見たまんま」


 部屋の扉が開き、蓮が入ってきた。


「よっ! 待たせた。これみんなの分のモンブラン」


(何故そのチョイス? 僕、お昼もモンブランだったんだけど)


 早速みんなで勉強をし始める。啓示の右隣に小川さん、左隣には蓮が座った。僕は真向かいだ。


「なあ、啓示。ここわかんねぇ」


 蓮が早速、啓示に聞く。


「うーん」


 啓示の説明を聞いた蓮は、わからないような表情をしている。


(勉強できる人は、詳しい説明を飛ばすことがあるからね。教えるのが上手いとは限らないからな)


「蓮、どこがわからない――」


 僕は蓮にわからないところを聞いた。

 小川さんは黙々とやっている。僕と啓示、二人がかりで蓮に教えること一時間半。私服姿の明智さんが部屋に入ってきた。


「おまたせー」


「神楽、席そこな」


 啓示が明智さんに言う。すると、小川さんが啓示に引っ付いた。


「ここどうやるの?」


(ああ、啓示におっぱいが当たっている)


 そんなことを思いつつ、明智さんを見ると、表情が固まっていた。


(小川さん、引っ付き過ぎだよ)


 蓮は僕に質問することが多くなり、黙々とやっていた小川さんはようやく啓示にわからない所を聞いていた。明智さんは、


「隣いい?」

「うん」


 断りを入れてから座り、課題を取り出す。啓示の方をチラチラ見ているような気がしたが、今は勉強に集中しよう。


「吉野君、ここはどうやるの?」


 小川さんは引っ付きながら、啓示に質問をしている。明智さんはペンが止まり、課題のページも進んでいない。蓮はというと、


「啓示、三巻ってどこ?」


 漫画を読んでいた。


 ◇◆◇◆


 放課後、慎吾達と勉強会をすることになった。今日も慎吾と一緒に下校。慎吾はちょくちょくあたしの胸を見てきて「このスケベ野郎」と思いつつも、会話は思いのほかはずんでいた。


「お邪魔します」


 吉野君の家に着き、部屋へ案内される。勉強とは違う別の企みがあったので、すぐさま吉野君の隣に座ることにした。


「吉野君、隣いい?」


 勉強会は御影氏中心に始まる。あまりにも男子三人が仲良く勉強していたので、あたしは一人で黙々と勉強することにした。


「おまたせー」


「神楽、席そこな」


(ウシシ。作戦開始)


「ここどうやるの?」


 胸を押し付けながら、吉野君に質問をする。神楽ちゃんを見て、


(ははーん。やっぱり、そうだ)


 神楽ちゃんは冷静さを装っているが、表情から動揺しているのが読み取れる。胸を押し付けられた吉野君も教え方がぎこちない。


「学年トップって聞いたけどホント?」

「ああ」

「すごいじゃん!」

「まあな」


(ほほう。生返事か――吉野君も神楽ちゃんを意識しているな――ヒヒヒ)


 神楽ちゃんが嫉妬するよう、聞かなくても大丈夫なところまで吉野君に質問した。


「それと――」


「啓示。トイレ行ってくる」


 このチャンスを狙っていた。御影氏がトイレに行ったので、


「ねえ、四人でテストが終わったら遊びに行かない?」

「えっ、蓮は?」


 あたしは人差し指を横に振って、


「わかってないなぁ。四人の方がダブルデートみたいで面白いじゃん」


 それを聞いた、三人は固まっていたので、強引にいく。


「決まり! どこへ遊びに行く?」


(楽しみだなぁ。吉野君と神楽ちゃんはくっつくのか、ウヒヒヒ)


 ◇◆◇◆


「おまたせー」


 啓示の部屋に入ると、啓示と由希ちゃんが仲良さげに勉強をしていた。アタシはどこに座ろうか考えていると、由希ちゃんは啓示に引っ付いた。


(二人とも近い!)


 由希ちゃんは胸を当て、積極的に啓示にアプローチしている。アタシはそれを見て、何とも言えない気持ち、いや嫉妬した。


(アタシは昔から好きなのに)


 啓示は小学生の時から勉強ができた。仲良く遊んでいたが、中学生になり少しずつ距離ができてしまう。アタシは啓示に見てほしくて、得意な運動を頑張った。魅力的なプロポーションになったはずだから、啓示がアタシを見てくれて少しずつ近づけるかな。高校二年生でようやくクラスも一緒になり、啓示と過ごせる時間が増え、学校生活が楽しかった。

 夏休みの課題テストの勉強会。楽しみにしていたが、アタシの座りたい場所には由希ちゃんが座っていた。

 もしかして、啓示は由希ちゃんのところに行っちゃうの? それはイヤだ。だって昔から好きだったんだよ。啓示の為に料理とかも頑張ったよ。なのに――、


 ◇◆◇◆


「じゃあ、帰るね」

「吉野君ありがとう」

「啓示、新刊買っといてな」


(蓮。お前は漫画を読みに来たのか? テスト勉強をもっとしっかりやれ)


 僕らは啓示の家をあとにする。ちなみに明智さんは啓示に教えてもらえなかったので、もう少し勉強をしていくそうだ。


 ◆


 次の日の放課後も啓示の家で勉強会。明智さんは部活が休みらしく五人揃って勉強会を始めることができた。


(啓示の右隣に小川さん、左隣に明智さん。両手に花だな)


 学年でも指折りのカワイイ二人に引っ付かれて、それでも啓示は集中して勉強できるんだから凄い。僕には無理だな、集中できない。

 ということで、蓮の相手は僕が担当。「少し休憩」と何度言えば気が済むんだ、こいつは。


「トイレ行ってくる」


 蓮が部屋を出ると、明智さんから言われた、


「テストが終わったら、どこに遊びにいく? アタシ部活が休みのときしかダメなんだけれど」

「神楽はどこに行きたい?」


「特にどこに行きたいとかは――、由希ちゃんはどこがいい?」

「遊園地で遊べたらいいかな」


 ◇◆◇◆


 神楽に誤解されているかもしれない。勉強会で小川氏が柔らかいものを押し付けてアピールしている。悪いがオレは昔から神楽が好きだ。どんなにアプローチされてもそれは変わらない。神楽は傍にいるのに、心の距離はまだ遠い。どうして思いを伝えられないんだ。わかっている、告白することで関係が悪化することを恐れているんだ。

 昨日、三人が帰った後、神楽に勉強を教えた。普段と何も変わらない。神楽を抱きしめたい衝動に駆られるが、頑張って抑えた。

 今日は、神楽が隣に座ってくれた。教えてもらう為だとは思うが、正直嬉しかった。

 小川氏の提案で、テストが終わったら遊園地に遊びにいくことになる。慎吾もいるし楽しい時間になるだろう。とにかく明日のテストはケアレスミスをしないように頑張ろうと考え、寝る前に今まで勉強してきたところを確認した。


 ◇◆◇◆


ユキ:今大丈夫?

シンゴ:少しだけなら大丈夫だよ

ユキ:テストって終わったの?

シンゴ:明日だよ

ユキ:そうなんだ。勉強会とかしたの?

シンゴ:うん

ユキ:ひょっとして、転校生も参加していたりする?

シンゴ:そうだね。小川さんと一緒に勉強した。

ユキ:小川?

シンゴ:転校生だよ

ユキ:へー、小川っていうんだ

シンゴ:そう。下の名前はユキと一緒だよ

ユキ:ほほう。本妻のあたしがユキで、浮気相手もユキか。なるほど。

シンゴ:おいおい、本妻と浮気相手ってなんだよ。

ユキ:だってそうでしょ! 本妻のあたしとラブホテル泊った事実があるんだし。

シンゴ:そうだけど、小川さんを浮気相手にするのはどうかと

ユキ:ふむふむ

シンゴ:じゃあ、勉強するから、またね。

ユキ:まったね~

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