第3話

 僕は夕飯を食べ終わった後、自分の部屋に行き、ベッドでくつろいでいるとスマホの通知音が鳴った。


(誰からだろ。ユキか)


ユキ:慎吾、今大丈夫?

慎吾:大丈夫だよ

ユキ:あのね、名前が慎吾になっているでしょ。シンゴに変えてくれないかな

慎吾:どうしてなの?

ユキ:あたしの表示がユキでしょ。合わせてくれたらいいなって


シンゴ:これでいい?

ユキ:OK


ユキ:そう言えば、そっちの学校って修学旅行はあるの?

シンゴ:あるよ。今年行く。

ユキ:そうなんだ。ちなみに文化祭はいつやるの?


 この後も、ユキにこちらの学校生活について、いろいろ質問をされた。


シンゴ:ごめん。もうそろそろテストの勉強をする

ユキ:テスト?

シンゴ:夏休みの課題テスト

ユキ:大変だね。じゃあ、またね

シンゴ:またね


 ◇◆◇◆


(学校楽しみだなぁ)


 転校初日。話しかけてきた女の子達とも連絡先が交換でき、あたしはこれからの学校生活を楽しみにしていた。


(あっ。由希モードのときに、慎吾に連絡先を聞かれたらマズいじゃん)


 由希で慎吾と連絡先を交換しようとすると、ユキであることがバレてしまう。

 慎吾との連絡先交換について悩んだが、すぐに、連絡先を交換した女の子達が、いつも使っているアプリと「違うアプリじゃん!」と気がついた。ユキで交換したアプリと分けて、このアプリで慎吾と連絡先を交換すればよいと。

 そして由希モードとユキモードの切り替えをミスするといけないので、名前の表示をカタカナのシンゴにしてもらい、シンゴのときはユキモードで対応しようと考えた。


ユキ:慎吾、今大丈夫?

慎吾:大丈夫だよ

ユキ:あのね、名前が慎吾になっているでしょ。シンゴに変えてくれないかな

慎吾:どうしてなの?

ユキ:あたしの表示がユキでしょ。合わせてくれたらいいなって

シンゴ:これでいい?

ユキ:OK


(ウヒヒ。うまくいった。これでユキを隠していけそう)


 ◇◆◇◆


「小川さん。おはよう」

「おはよう。し、――鏑木君」


 学校に着いて教室に入ると、もう既に小川さんが席に着いていた。昨日の放課後のこともあり、自然と挨拶ができた。


「早いね」

「そうかな」

「そうだよ。いつもギリギリに来るヤツもいるから」


 彼女とそんな話をしていると、教卓付近に明智あけち神楽かぐらさんがいるのが見えた。明智さんはクラスの中心人物の一人であり、陸上競技部に所属。アイドルみたいな顔立ちに、鍛えあげられた抜群のプロポーションの持ち主だ。昨日は小川さんと連絡先を交換していたな。仲良くなってくれればなと、そんなことを思っていた。


キーンコーンカーンコーン

ガラガラ


「セーフ!!」

「蓮。もう少し余裕を持ってきたら?」

「昨日さぁ。勉強しすぎて寝坊したんだよ」

「勉強ってゲームでどう勝つかの勉強だろ」

「ほう。よくわかったな。流石親友」

「はぁ」

啓示けいじ! テストで出る所教えてくれ!」


 蓮が呼んだのは、吉野よしの啓示けいじ。学年トップで明智さんの幼馴染だ。蓮が絡んでいくので、彼とも自然に仲良くなった。


「知らん」

「そんなぁ。神様。仏様。啓示様。神の啓示で出るところ見抜いてよ」


(いつものパターンだな。蓮はこりないね)


「あんな感じなの?」

「うん。小川さんは初めて見るんだね」

「転校してきたんだから当然でしょ」

「ははは、そうだね。あっ、そうだ。明後日夏休みの課題テストがあるんだ」

「知ってる――あっ」

「知っていたんだ。先生から聞いたの?」

「そ、そうだよ」


 そんな話を小川さんとしていると、蓮が何やら思いついたみたいだ。


「あっ! そうだ、啓示。小川さんがテストの範囲わからないだろ。一緒に勉強会を開こうぜ!」


(流石だな、蓮。その行動力は人生を変える力だよ)


「うーん」


「小川さん。おはよう」


 啓示が悩んでいると、こちらに明智さんがやってきた。


「由希ちゃん、明後日のテスト大丈夫そう?」

「夏休みの課題をもらっていないので、範囲が……」

「じゃあ、夏休みの課題をもらってきてあげようか? それがあればテストの範囲がどこなのか、わかりやすいし」

「はい!」

「他にも何か困ったことがあったら言ってね」


(よかった。小川さんは明智さんと友達になれそうだ)


「いいぞ、蓮」

「啓示本当か!」

「ああ」

「よっしゃー! 慎吾も参加するよな?」


(啓示様、蓮様。ありがたや、ありがたや)


「もちろんだよ」


「神楽さんもどう? あたし、女の子一人じゃなんか――」


 小川さんが明智さんにお願いをする。


「もちろん。友達ならアタリマエ、一緒にやろ!」


(五人か――これ以上、人を増やすのはもういいかな)


「場所どこでやるー!」


「おまえら席に着け」


 ◇


 夏休み明けの最初の授業。小川さんに教科書は大丈夫かどうかを聞いたところ、夏休みの間に全部揃えたそうだ。

 授業を真剣に聞く人、授業中なのに夏休みの課題をやっている人、夏休みモードが抜けない、特に蓮、お前だ。


「あっ」


 小川さんの机から、消しゴムが落ちた。すぐさま拾ってあげる。


「はい」

「ありがとう」


 消しゴムを渡すときに小川さんの手に触れ「女の子の手だ」何故がドキッとした。


 その後、気になって小川さんを見てしまう。うなじや肩、綺麗な黒髪。そういうことを授業中思ってしまった。


キーンコーンカーンコーン


 無事に午前中の授業が終わる。これから「うるさいヤツがここに来るのか」そう思い、僕達は昼休みを迎えた。


「啓示、慎吾。購買に行ってくる!」

「蓮。焼きそばパンがあったら買ってきてほしいんだ」

「いいぞ。焼きそばパンが無かったら?」

「適当に僕が好きそうなヤツを買ってきて」

「慎吾が好きそうなヤツね。わかった!」


 蓮が教室を出て、購買へ向かう。僕は啓示の近くの席に座り、テスト勉強の場所をどこにしようか、相談した。


「オレの家でいいだろ」

「いいの? 啓示」

「ああ。神楽も来るんだろ? あいつ部活があって遅れると思うから、家がわかっているオレの家の方がいいだろ」

「そうか。明智さんの家も近いし、いいね」


 ふと、明智さんの方を見ると、何人かの女子と一緒にお昼ご飯を食べている。その中に小川さんもいて「小川さん、輪の中に入ることができたんだ」と思い安心した。

 昨日一緒に帰ったこともあって、僕は「小川さんのことが気になっているのか」と気がついた。


 ◇◆◇◆


「小川さんってさ。鏑木君のこと狙っているの?」

「そんなことないよ」

「そうなの? 昨日、一緒に帰ってたって目撃情報があるんだけど。ね、神楽」


「うん。二人仲良くイイ感じだったよ」


 あたしは一緒に慎吾と帰ったことが、見られているとは思ってもいなかった。どこで見られたのだろう。


「神楽ちゃん。イイ感じに見えたのは、見間違えだよ」

「そうかなぁ。グラウンドから見たときは――なるほど」

「どうしたの?」

「あんな仲良さそうにして否定するとは、さてはロックオンしているな」


 どう説明したらいいんだろう。転校して、安心感から慎吾に声をかけたけれど、ラブホテルで知り合ったなんて、言えない。とりあえず誤魔化すことにした。


「そういえば、勉強会どこでやるんだろうね」

「どこだろ。部活あるから、アタシが知っている場所ができればいいんだけど」


「えっ、小川さんと神楽、一緒に勉強するの? メンバーは?」

「由希ちゃんと鏑木君。アタシと啓示とおまけ。みんなも来る?」


「前日にやればいいかな」

「今日は遊びにいく」

「そうそう。学校始まったばかりだから今日はパス」


 どうやら、今回のテストは前日に勉強すれば楽勝みたいだ。


「っていうか、小川さんも一緒に遊ぼうよ」

「みんなで歓迎会! ね」


 どうしようか悩む。このグループに受け入れてもらっているから、せっかくだから一緒に行こうかな。


「ダメ。由希ちゃんとアタシは勉強するの! 遊ぶのはテストが終わってからでいいじゃん」


 神楽ちゃんがそう言うと、他の子達は視線をどこかへと向けた。あたしも気になって見てみると、


(ははーん。そういうことか。なるほど)


ダッダッダッダッ


「慎吾! モンブラン買ってきたぞ!」


御影みかげ氏さぁ。モンブランってデザートじゃん)

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