第2話

「おい、慎吾。転校生が来るみたいだぜ」

「そうなのか?」

「おう。女の子みたいだ。かわいい子が来ないかな」

「どうだろ」


 夏休み明けの朝のホームルームが始まる前に、中学からの友達である御影みかげれんにそう言われる。僕は素っ気ない態度でいたが、蓮と同じでかわいい子が来ることを期待していた。


「おっ、来たみたいだぜ。じゃあ席に戻るわ」


 先生の後に転校生が入ってきた。大人おとなしそうな感じの子で、黒髪ショートヘア。校則通りに制服を着ていて、大きなおっぱ――、彼女の魅惑的な胸に目がいってしまった。


小川おがわ由希ゆきです。わからないことが沢山あると思うので、よろしくお願いします」


 彼女と目が合う。一瞬驚いたような顔をしていたが、僕に微笑んでいるようで、ドキッとしてしまった。


「小川さんは鏑木かぶらぎ君の前の席ね」

「わかりました」


 彼女がこちらに来る。その顔を見ながらカワイイと思ってしまった。


「鏑木君、ここの席でいいのかな?」

「ああ、そうだよ。よろしくね、小川さん」


 彼女が席に座る。うなじを見て、ドキドキしている自分がいた。


(ラッキー)


 ホームルームが終わり、始業式に向かうとすると、


「鏑木君さぁ、校舎内を教えてくれない? ダメかな?」

「ああ、僕でよければいいよ。放課後でいい?」

「うん。ありがとう」


 ◆


「慎吾、帰ろうぜ」

「ごめん。これから小川さんと校舎を回るんだ」

「はあ? てめえ、抜け駆けしたな」


 蓮がそう言って不機嫌になる。


「小川さんに頼まれたんだよ。僕からアプローチはしていないよ」

「そういう問題じゃねぇ」


「鏑木君、大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。じゃあ蓮、また」


 蓮は小川さんを見ている。その間に小川さんを引き連れ、僕は彼女を特別棟から案内することにした。


「まずは特別棟ね」

「あのさ」


 渡り廊下を歩いていると小川さんから言われた。


「帰るとき、一緒に帰ってもいいかな? どこにどんな店があるか知りたいの」


(マジ。いきなり転校生と一緒に下校するなんて――それもこんなかわいい子に)


「うん。この町のこと、少しだけ案内するよ」


 ◇◆◇◆


「小川由希です。わからないことが沢山あると思うので、よろしくお願いします」


 転校初日。朝のホームルームで自己紹介をする。どんな人達がいるのかなとクラスの様子を見ていると、まさか、あのまさかですよ。ラブホテルで一夜を共にした、っていうとエロいかな、慎吾君がいた。


「小川さんは鏑木かぶらぎ君の前の席ね」

「わかりました」


(ああ、鏑木って名字だったな。慎吾君の前の席か)


「鏑木君、ここの席でいいのかな?」

「ああ、そうだよ。よろしくね、小川さん」


(あれ? ユキさんって言ってくれない――あっ、髪の毛を黒く染めたから、もしかして気づいていないのかも)


 転校してきて緊張したけれど、知っている人がいて良かった。どうやら慎吾君は気づいていないみたいなので、ちょっと近づいてわかるかどうか試してみよう。


「鏑木君さぁ、校舎内を教えてくれない? ダメかな?」

「ああ、僕でよければいいよ。放課後でいい?」

「うん。ありがとう」


(この感じは気づいていないな。ふふふ)


 校舎を一通り案内され、慎吾君と下校することに、


「小川さんはどこから来たの?」

「うーん。ひみつ。知らなくてもいいじゃん」

「それもそうか」


 ◇◆◇◆


 小川さんと下校できる嬉しさがあった。彼女と仲良くなれるかも。夏休みに彼女にフラれ、学校へ行くのに少し抵抗があったけれど、これからのことを思うと気持ちがウキウキしていた。


(小川さん。緊張しているのかな)


 一緒に歩いているが、会話はほとんどない。まあ、新しい土地に来て、今後のことをいろいろ考えているのだろう。


「そういえば小川さん。僕で良かったの?」

「なにが?」

「他の女子に頼んでもよかったじゃん」

「ひどーい。こんなかわいい子じゃ、不満なの?」

「不満とかじゃなくてさ」

「鏑木君は何か話しやすそうだったの。だから気軽に聞けるかなって」

「そうなんだ」


(かわいい。それにおっぱいも大きい)


 下校中、普段行かない場所へも行った。カラオケやゲームセンターなど遊べる所、お弁当やお菓子を買う為のコンビニの場所。一時間近く彼女と町を見て回った。


「あたし、こっちに家があるから」

「じゃあ、小川さん。また明日ね」

「またね」


 ◇◆◇◆


(ウシシ。どう反応するかな)


 慎吾君と別れた後、自分の部屋でどんなことを彼に送ろうかと企んでいた。


ユキ:久しぶり。そっちは学校始まった? お金返せなくてごめん。


 返信を待ってみたが、すぐには来ない。五分ほどして返ってきた。


慎吾:久しぶり。学校始まったよ。お金は急がなくていいよ。

ユキ:ごめんね。ところで学校で何か変わったこととかあった?

慎吾:変わったことと言えば、うちのクラスに転校生が来たことかな。

ユキ:転校生! ねえ、どんな子なの? 男の子?

慎吾:女の子だよ

ユキ:へー。その子はかわいいの?

慎吾:かわいいよ。どちらかというと好みのタイプ。


(かわいい――好みのタイプ――慎吾君、そう思っていたんだ)


ユキ:ひどーい。あたしという者がいるのに。浮気だよ!


(さあ、どう来るか)


慎吾:ところでそっちはどうなの? 何かあった?


(スルーか!)


ユキ:何も無いよ。いつも通り。

慎吾:そうか

ユキ:何かあるの?

慎吾:無理に答えなくてもいいんだけど、エッチをしてお金を貰っていないか、気になっていたんだ。


(そっかぁ。そうだよね。あんな出会い方だったし)


ユキ:それはしていないよ。だからごめん、すぐにお金返せなくて。

慎吾:それはいいんだ。ユキさんが心配だったから。


(こいつ。あたしを落とす気か)


ユキ:ユキさんじゃなくてユキでいいよ。代わりに、慎吾って言っていい?

慎吾:もちろんいいよ。ユキ。


(何か恥ずかし)


 「ユキ」と書かれた文を見て、恋人みたいで何だか思わず恥ずかしくなった。


ユキ:あっ、そろそろ夕飯の支度をするから、またね。

慎吾:またね


(ふぅ。好みのタイプって初めて言われたな)


 父親の都合で転校することになったけれど、これからの学校生活が楽しく過ごせるのではないかと期待を寄せていた。


(ああ、あの時の友達に対して、無理に自分を合わせていたんだ。転校してよかったかも)

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