ラブホテルにいた金髪巨乳ギャルもカワイイけれど、転校生の黒髪巨乳美少女の方が、僕は好みのタイプかな
フィステリアタナカ
第1話
「いやー、良かったなぁ」
七月も終わりを告げ、八月に入った頃。僕は片道四時間かけて、大好きなアーティストのライブを観にきていた。恋人の分のチケットも買ったが、残念ながら一週間前に彼女と別れたので、ムダ金になってしまった。ライブの公演終了時間が思ったよりも遅くて、帰るための電車を逃し、今はビジネスホテルに泊まろうと考えている。
(うーん。満室ばかりだな)
スマホで近辺のビジネスホテルを探したが、どこも満室。どうしようかと悩んでいるとクラスメイトが言っていたことを思い出した。
『ラブホに行って、ようやく繋がれたよ。長かったぁ』
ビジネスホテルに泊まれないなら、ラブホテルに泊まればいい。スマホで検索すると一件のラブホテルが見つかった。
(ここへはどう行けばいいんだ?)
経路を確認し、歩きながらその場所を探す。迷ってしまったが、十五分後無事にラブホテルに着くことができた。
(空き部屋あるかな)
入り口へと歩き、自動ドアが開いたのを確認し中に入ると、制服を着た金髪の女の子が、スマホから目線を外しこちらを見てきた。着崩した制服には、大きく主張する双丘があり、下着も見えそうだった。そして彼女は僕の所にやってきて、
「遅い! 部屋が無くなっちゃうでしょ!」
正直、訳がわからなかった。呆然と立ち止まっていると、彼女はロビーにあるパネルへスタスタスタと歩いていき、一か所だけ灯りの点いている所の前で立ち止まる。パネルの灯りが消えると、僕に言ってきた。
「102。行こ」
意味がわからない。
「何、ぼーっとしているのよ? ついてきて」
困惑しながら彼女の後をついていく。102の部屋の扉を開け、彼女は中へ入っていったので、何となくつられて僕も中に入った。
「お金」
「ん?」
「お金。先払いでお願い」
「どういうこと?」
「はあ? どういうことって、お金くれなきゃヤラせてあげない」
どうやらこの子は僕を援助交際の相手と勘違いをして、この部屋に連れ込んだみたいだ。
「援助交際?」
「何言っているの?」
「それなら、相手は僕じゃないよ」
彼女は驚いた表情をし、僕を見つめる。そのあと緊張の糸が切れたのか、その場にへたり込んだ。
「大丈夫?」
彼女は俯いて、答えてくれない。少し待ってみたが何も変わらないので、僕は彼女に声をかけた。
「部屋ってここしか空いていないの?」
彼女はコクリと首を縦に振った。
「ビジネスホテルが取れなかったから、ここに泊まりたいんだ。援助交際の相手を待っていたんでしょ。ロビーに行きなよ」
彼女は顔を上げ、僕を見てこう答えた。
「はあ? なによ。外でヤレっていうの?」
「そういうことじゃなくて、君は援助してくれる相手を待っていたんでしょ? 会わないといけないんじゃないの?」
彼女は溜息をついた後、また俯き、泣いてしまった。
「ぐすっ、ぐすっ……」
「大丈夫?」
「――じゃ、ない」
「とりあえずここ玄関だから、中に入ろうよ」
僕は玄関から奥の部屋へと行く。「こんな感じなのか」と部屋を見回していると、彼女がやってきた。
「座ろうか」
僕は彼女にソファーに座るよう促す。彼女が座るのを見た後、ベッドに腰をかけた。
(困ったなぁ)
「その人に会わないのなら、帰った方がいいんじゃないの?」
「帰れない」
「そうなんだ」
「もう電車無い」
「タクシーは?」
「お金が無い」
「ふぅ。どうするかな――」
僕は彼女と話をして困ってしまった。僕も彼女も帰れない。近くに泊まれる場所も無い。ここで打てる最善手は二人でここに泊まることだった。
「僕の名前は
「ユキ」
「ユキさんね。ユキさん提案があるんだけれど」
彼女はこちらを見る。
「二人とも帰れないから、ここに泊まるしかないと思うんだけれど、どう?」
彼女の表情が険しくなる。
「何? ヤル気なの?」
「そうじゃなくて、二人でここに泊まるのがベターかなと思ったんだ」
彼女は視線を床に向ける。
「もちろん僕は手を出す気は無い。だから一緒に泊まろうよ」
「信じられない――」
「だよね。ふぅ」
彼女は黙ってソファーに座っている。特にやることが思いつかなかったので、部屋に何があるか探索をしてみた。風呂場にはジャグジーが使えそうな浴槽があり、トイレの中にあるトイレットペーパーは香り付きの物。洗面台の下にタオルとバスタオルがあり、部屋の壁にはバスローブがかかっていた。冷蔵庫の中にはペットボトルの水がある。ソファー前のテーブルには何やらメニュー表みたいな物が置いてあった。
「お風呂にお湯を張るね」
彼女にそう言うと、
「ねえ。本気で泊るつもりなの?」
「だってそれしかないだろ。このまま夜中ずっと歩き回るのか?」
「わかったわよ」
風呂場から水が流れる音がする。
「エッチしなきゃダメなの?」
「そんなことはないけれど、お金欲しいの?」
「ううん。違う」
彼女は何やら不安げだったので、恥ずかしいけれど考えていることを伝えた。
「トイレで発散してくるから、襲わないよ。まあ、信じてもらえないかもしれないけれど」
その後、彼女に納得してもらってバスローブを渡し、先にお風呂に入ってもらうことにした。その間、僕はトイレで発散。彼女がお風呂から出てきてから、入れ替わりでお風呂に入った。
「凄いことになったな」
湯船に浸かりながら今日一日の出来事を思い出していた。ライブを観にいき、楽しむ他に失恋も癒す。その後知らない女の子と一緒にラブホテルに泊まるなんて想像もできなかった。
お風呂から出て、ドライヤーで髪の毛を乾かす。ベッドに向かうと座っていた彼女から、お腹の虫が鳴る音がした。
(ははは、腹減っているんだ)
にやけ顔で僕は彼女に言った。
「食べ物を注文できるみたいだから、注文しようか?」
「お金無い」
「気にすんな、僕の
ピザを注文し、二人で食べる。その後、僕はベッドで横になり、彼女はソファーでスマホを弄っていた。三十分くらい経った頃、彼女から、
「ねえ、起きてる」
「起きているよ」
「お金って借りることできる?」
「うーん。どうしても必要?」
「必要」
「何に使うの?」
「友達とテーマパークに遊びに行くの」
「テーマパークか。随分と遠いね。近くで遊べば、そんなにお金かからないのに」
「一緒に行かないと、いけないの」
「そうなの?」
「だって行かないと、ハブられるかもしれないじゃん」
僕は起き上がり彼女に言う。
「ユキさん。それね。ハブるような人達なら友達じゃないよ」
「えっ」
「だってユキさんの懐事情を知っている人達なんでしょ? それを無理矢理連れていくのはどうかと思う。ユキさんのことを本当に考えているのかな」
「ちゃんと考えてくれているよ。お金が無いならウリをすれば大丈夫だって」
僕は溜息をつき、呆れる。
「本当の友達なら、売春しろだなんて言わないよ。バイトでも親の金でも他に方法があるはずだから」
彼女はまた俯いた。一応声をかけておく。
「ユキさん。もう遅いし寝ようよ」
彼女がベッドに来て、僕の隣で横になる。そして、泣きそうな表情になり
「どうしたらいいの」と彼女は呟く。僕は励ましたくて、思わず金色の髪を撫でてしまった。「大丈夫。今日はもう疲れて判断ができないと思うから、ゆっくり寝て明日の朝考えよう」と伝え、彼女にやさしく微笑んだ。彼女は僕が羽織っているバスローブの袖を掴む。きっと心細いんだ。だから彼女の指を握り「大丈夫」と言うと、彼女は目を閉じ、しばらくすると安心して眠りについた。僕はそれを見届け、指を離し眠りに落ちた。
◇◆◇◆
朝、目覚めると知らない天井があった。天井を見ながら、あたしはこの前友達に言われたこと思い出す。
◇
「お金、バイトで足りないなら、ウリをすればいいじゃん」
「そうだよ。私達と同じようにやればいいんだよ。だって遊ぶのにお金かかるでしょ?」
よく会話をするクラスメイトとそんな話をしていた。私は中学の時にいじめを受けていて、地元から少し離れた高校へとやってきた。高校でいじめられないよう、髪を金髪に染め、クラスで影響力のある女友達の輪の中に入り、学校生活を過ごす。一年の頃はトラブルも無く、困ったことは起こらなかったけれども、二年に上がってからは「彼氏ができて卒業した」「ナンパされて、そのままやっちゃった」「もう、ユキも経験した方がいいよ」と周りからプレッシャーをかけられた。のらりくらりとやり過ごしてきたが、遊ぶのにだんだんとお金がかかるようになり「このままハブられたら、またいじめに遭うかも」とお金を得るのに体を売ろうかどうかを悩んでいた。
「今度の夏休みにテーマパークへ行こうよ」
「いいね。そうしよっか」
「何、面白いこと話してんだ。俺らも混ぜろよ」
「夏休み、テーマパークへ遊びに行こうって話していたの」
クラスで日頃から一緒にいる友達に、男子が絡んできた。いつの間にか話が盛り上がり、話の流れでテーマパークに行くことになってしまう。
「ユキもいいよね?」
すぐには答えられなかった。バイトをしていたが、貯金していた分も使ってしまって、お金を親にせびることができるのか。自信がなかった。
「ごめん」
「えーー。何で? どうしてなの?」
「お金無いから」
そう言うと、教室の隅に連れていかれ「ウリをしなよ」と言われた。どうしよう。このまま友達を失ってしまうのが怖い。その日、家に帰ってから、スマホでそのことについて調べた。そして覚悟が決まる。
アプリを使って相手を探す。たくさんの申し出があり、私は初めにきた人と会うことを決めた。
当日。指定された時間は夜。相手の仕事終わりに合わせ、待ち合わせ場所であるラブホテルのロビーでその人を待った。男性と女性がぽつりぽつりとやってくる。どうやら、あのパネルで入る部屋を決めているようだった。一つまた一つと部屋が埋まり、残り一部屋になって私は焦ってしまった。
それから、相手が早く来ないかと思いつつ、しばらくスマホを弄っていると、男性が一人、ホテルの入口から入ってきた。
「遅い! 部屋が無くなっちゃうでしょ!」
「男は度胸、女は愛嬌」と言うが、今日に限っては女は度胸。男ではないけれど、これから抱かれる怖さを抑えるため、出来る限り気丈に振舞うようにした。
「援助交際?」
「何言っているの?」
「それなら、相手は僕じゃないよ」
部屋に入り、男の人と話をしていると、その人は援助交際の相手ではなかった。そのことがわかり、安心してしまったのかその場にお尻をついた。
「そういうことじゃなくて、君は援助してくれる相手を待っていたんでしょ? 会わないといけないんじゃないの?」
彼はそう言う。彼はここに泊まるから出ていけという旨を、私に言ってきたように思えた。
◇
あたしは起きて、顔を洗う。いつこの部屋を出てもいいように化粧をしていると、彼が起きて背を伸ばす、その声が聞こえた。
『うーーん。何時だ?』
「おはよう」
『ユキさん。洗面台?』
「そう」
『おはよう』
「おはよう」
『ねえ、ユキさん。考えてみたんだけれど。僕と友達になろうよ。仮にハブられたとしても、そのときは支えてあげるから。どう?』
驚いた。彼からそんな提案があるなんて。ここを出たら「はい、終わり」そういう関係だと思っていたからだ。
「いいわよ」
『いいの?』
「うん」
『じゃあ、後で連絡先を交換しよう』
化粧をし終わり、洗面台からソファーに行く。スマホがベッドの傍にあったことを思い出し、彼の元へ行った。そしてスマホを彼に見せる。
「これ」
「わかった」
(慎吾――)
「慎吾って言うんだ」
「そうだよ」
「じゃあ、試しに送るね」
ユキ:山
慎吾:川?
ユキ:ソウイウモノニ
慎吾:ワタシハナリタイ
「大丈夫だね」
「そうだね。あっ」
「何?」
「ちょっと待ってて」
彼は鞄をあさり、財布を取り出す。お金を抜き出し、
「これ貸してあげる。お金が無かったら、援助交際しちゃうでしょ。とりあえずこれでしのいで、あとはバイトで稼いでさ」
そう言って彼は二万円を渡してきた。
「いやいやいや。受け取ったら返せないよ」
「あとでアプリの電子マネーで返してもらえばいいから」
「――ごめん。ありがとう」
あたしは彼に甘えることにした。このお金でテーマパークへ行けば、その後のことは何とかなるだろう。
◆
ラブホテルを出て、彼と駅へと向かう。きっと道行く人には恋人だと思われたのかもしれない。駅で別れ、あたしは家路に着いた。
「ただいま」
「あんた昨日何していたの! 帰ってこないなら連絡を寄越しなさい」
「友達の家でずっと遊んでいたから、忘れちゃった」
「まったく。ちゃんとしなさいね」
「ごめん」
「それとね」
「ん?」
「お父さん転勤になったから、あなたも転校ね」
(ウソでしょ。ホント?)
「九月に間に合うように転校してもらうから、準備してちょうだい」
母親が言ったことにびっくりしたが、今の友達と離れることになる。悲しい気持ちの反面、お金のことで安心をしている自分がいた。
(あとは彼にお金を返すだけかな)
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