18 TS淫乱女、かつての想い人がアンチになる
「愛はね、女の子を動かしてしまうモノなのだよ」
お泊りから3日くらい経ったとある日の放課後。
未だに某ママに叩かれた太ももが痛むのを抑えて椅子に座る中。
高校の図書室にて、俺に説法をする女が1名。
「私は気づいたのだ。愛する男には尽くさなければならないとね」
手元のスマホで動画を漁りながら、かわいい丸文字をタブレット内のノートに書き殴る、アニメ声のクラスメイト。
「私はこれで、邪悪なる淫乱女の魔の手からあの男を守り、惚れさせるのだ…………フフフ」
「―――お前鬼畜なのか!?こないだ振った男の前でやるのかコレ!?」
………またの名を、八木皐月。
ついこの間俺のことを振った女が、あろうことか片想い相手の攻略に俺を巻き込んできた。
「人の心無いの?」
「ごめぇんね♡」
「くッ…………かわいいッ…………」
黒髪ロングから飛び出す犬系彼女みたいなスマイルに、未だにたじろいでしまう俺。
コイツ、やっぱり顔は良いんだよ………。
基本クズだけど外面の偽装は完璧だし、土壇場でめちゃめちゃ面倒見良いし………。
俺だけはその魅力を分かってるんだけどなぁ………。分かってた筈なんだけど振られたなぁ………。
「………てか皐月」
「なんだね梨央?」
「お前そんなキャラだったっけ?
「恋する乙女は時折惑ってしまうのだよ………そういうのが分からないから君は振られたのだ………」
「え?今思いっきり馬鹿にされてた?」
やべぇなコイツ。ざまぁ系作品なら余裕で復讐対象だぞ?
「流石にボケだよ」
「あ、もとに戻った」
「てか、私がこんなキャラでボケ始めたの、そこそこ前だよ?」
「………え」
「前まではすぐ気付いたのに、今回は3週間経っても気付かないとか。もはや私に興味ないまであるじゃん」
「…………まあ最近忙しかったから」
「だから今回、早都攻略作戦に誘ったのさ。先に気持ちが移ったのは梨央の方だからね?悪いのはそっちだよ?」
「うーん…………?」
………いや納得しかけたけど絶対おかしい。コイツ普通に人の心無いじゃん。クズ超えてゴミじゃん最早。
「………私が言えたことじゃないけど。
正直、そっちの方が良いのかもね」
「え?」
しかし、そんなクズゴミカス自己中女こと皐月は、少し憂いた表情で、対面に座った俺を見つめる。
「私といる時の梨央、なんかずっと必死そうだったし」
「そりゃまぁ」
「私のお願いとか手伝いとかの為に、色んな人との約束とか、友人関係とか、自分の時間とか、全部犠牲にしてたでしょ?」
「…………そりゃそうだろ」
「―――私は、私の為に時間も労力も使って欲しくないから。言っとくけど私にそんな価値ないからね?」
「…………」
「特に、大切な仲間である梨央には」
全くの嘘もなく、隠す気もなく、彼女は本心を告げた。
俺は、彼女の自己肯定感の低さも分かってるから。
振った言い訳としてのでっち上げじゃなく、この言葉は真実だと分かる。
「私に価値ない」って言葉までも、皐月は全部本心で言ってる。
………いや、核心に迫る一言だけは言わなかったか。
俺が思いっきりこの女に依存していた、という事実だけは。
「だいいち最近の梨央、先輩とばっかつるんでるでしょ」
「そりゃ風紀委員にも入ったし」
………というより入らされたんだけどね。どこぞのママに「入会届出すまで託児所から出しませんよ〜」って脅された。誰が魔術で託児所再現すんねん。
「沙夜歌先輩も雪菜先輩も梨央にべったりじゃん」
「あの人たち距離感おかしいから………」
「私もだけど、早都も寂しがってるよ?」
「いや早都は良いわ………寂しくも何ともないしむしろ引いてるわ………」
「え?なんで?」
………言えねぇよ。
毎日SNSで「リカとの再戦に向けてトレーニング」だの「リカへのリベンジに向けて滝行」だの、いちいち言及されてるからとか。
某写真SNSに載せた自撮りの奥に、
「………てか、いま何やってたんだよ」
「あー、梨央は来たばっかりだから知らないよね」
頭を抱えて別の話題を捻り出した俺に対し、皐月は少しムスッとした顔をしてタブレットを俺に向けた。
………そして、そこには。
「私さ、泥棒猫クソビ◯チ―――じゆヒスのリカをね、コテンパンにしたいんだよね」
―――銀髪巨乳淫乱魔法少女の写真たちが、たくさんの書き込みと共にずらりと纏められていた。
「…………」
「なんかさ、この女が現れてから早都がずっとこの女の話してるの」
「…………アッハイ」
「しかも、この間スマホを盗み見たらこの女のR18同人誌もダウンロードされてたの」
「…………ヒエッ」
「だから、私がこのクソ女の弱点を探して、早都に情報提供してるんだよね」
「…………オーイエス」
動揺で定まらない感情の中、その書き込みにしっかりと目を通すと。
『攻撃力弱すぎwww』
『足が速いだけの代走枠』
『チームの中で一番役に立ってない』
『じゆヒスの芸人枠。ユキサヤと比べれば恐るるに足らず』
『黙れ巨乳』
『ここの色目、一番腹立つ』
『どうせ帰ったら男に擦り寄ってんでしょカスが』
『いや違う、彼氏がいないからこんなことできるのかwww』
………などなど、たくさんの罵詈雑言が書かれており。
何なら、いくつかの写真ではリカの胸と顔にバツ印が書かれていた。
「………あの」
「なに?」
「………命の危険を感じるんですけど」
「なんで?梨央はこの人と関係なくない?」
………うんそうだよね。普通はそう思うよね。
まさか目の前に仇がいるとは思わんよね。
まさか目の前の男と画面の中の女が同一人物だとは思わんよね。
「今日までの成果、うまく実を結ぶといいなぁ〜」
「………?」
「梨央も応援しようね」
そして少し弾んだ声を出した皐月は、タブレットでネットテレビ局を映し出す―――
『リカ!!出てこい!!』
………そしてその顔を見た瞬間、俺は帰り支度を始めた。
『この俺二条早都が、これよりお前にリベンジする!!』
―――ねぇ。
この人たち、気軽に電波ジャックしすぎじゃない?
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