17 お泊り少女たち、お風呂上がりにツンデレ発揮
「はー!!さっぱりした!!お風呂貸してくれてありがとね〜」
ドライヤーしたての黒い髪をタオルでぱふぱふとしながら、雪菜さんがてくてくと歩いてくる。
………結局、雪菜さんのゴリ押しと可愛さに負け、お泊りの許可を出してしまった。
しかも一番風呂まで譲ることになった。先輩特権強すぎる。
「梨央、飲むヨーグルトちょーだい」
「無いです」
「じゃあコーヒー牛乳」
「ある訳ないです」
「せめてエナドリ」
「あんたの家じゃねぇから無いよ!?」
キッチンで常備菜を仕込んでいる俺の横で、彼女はやれやれだぜ………とか言いながら、ぐいっと水を飲む。
ナチュラルに過ごしてるけど、ここは普通に俺の家である。
その証拠に、彼女は俺のTシャツを着ており、下も俺のジャージを貸している。
「着替えとか持ってきてないから貸して!」って言ってたけど、ならお泊りしようと思わんだろ普通。ほんと変わってんな。
………で、女の子にしてはやや背の高い彼女だが、俺とはやはり差があり。
サイズ違いのTシャツの首元から、なんか黒いモノが見え隠れしている。
「………何見てんの」
「見てないっす」
「絶対ブラ見てたでしょ」
「そんな黒いヤツ見てないっす」
「見てんじゃんもー!!えっち!!」
少し恥ずかしそうに、ぽかぽかと俺を殴ってくる雪菜さん。取り敢えずグラス置いて下さい。中に入ってる水、俺にかかってるんで。
「………見たいなら幾らでも見せんのに。男らしくそっちから来てよもぉ」
「え?なんだって?」
「黙れ鈍感野郎!!しね!!」
………いやあの、実は全部聞こえてます。
普段死ぬ程肉食な癖に土壇場で乙女出されても困るんです。ある意味萌えですよコレ。
「なに笑っとんじゃ」
そんな萌えを享受していたら、頬を膨らませた雪菜さんがジト目を向けてきていた。
「雪菜さん、かわいいな〜って」
「………ならもっと言え」
「ぷっくらほっぺがかわいいです」
「もっと」
「つやつやお肌がきれいです」
「あとは?」
「さらさらヘアーが素敵です」
「もう一声」
「切れ長おめめがエロいです」
「うむ。満足じゃ」
「ちょろすぎて草」
「ひとこと余計じゃい!!」
「いったぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺の尻に強烈な蹴りを浴びせ、彼女はテーブルへと座る。
てかマジで痛い。殴る蹴るでしか攻撃しない人が本気で蹴ってくんなよ………。こちとら敵にすら攻撃弱いって言われてんだぞ………?
「ほんと、梨央は魔性の男だよ」
「魔性ですか」
「もはや本能だね」
「はぁ」
「今までは
「嫌だなぁ、俺にそんな積極性なんてある訳ないですよ」
「ヒーローの胸と唇を追っかけてるヤツがそれ言う?」
「…………」
「ド淫乱魔法少女が恋に消極的とは思えないんだけど」
「…………あれは変身後の姿でありまして」
「本能でしょアレ。普段の梨央も理性飛んだらヤ◯チンだね」
「いやぁ……そんなことは………」
「クズ男だね!!」
いやウキウキで笑顔向けないで欲しい。俺は断じてあんたの性癖みたいなクズ男じゃないって…………多分…………。
「あの、さっきめちゃめちゃ大きな音したけど大丈夫?」
そんな中、お風呂場からもう一人の影が歩み寄ってくる。
紺色の髪をなびかせ、ハンドクリームをぬりぬりしながら戻ってきたのは。
「響季、おかえり〜」
「いやさぁ、この暴力系の先輩にケツ蹴られて痛かったんだよ………」
「え?自分の責任じゃない?ボコられて当然でしょ」
「………少なくとも僕が巻き込まれなくて良かった」
パーカーをゆるーく着て、俺らの様子に呆れている様子の、響季であった。
「ねぇ梨央くん、なんでこんなパーカーでかいの?」
「俺はオーバーサイズが好きだからな」
「絶妙に半ズボンが隠れるんだけど?」
「うん」
「端から見たら履いてないみたいに見えない……?」
響季は、パーカーの裾をぎゅっと握って、必死に丈を伸ばしている。
「ソンナコトナイヨ」
「絶対そう見えてるよね」
「そういうファッションもあるのでは?」
「適当なこと言わないで欲しいんだけど」
「え?あるよ??」
「えーっとね雪菜、今は正論求めてないんだよね」
「「…………?」」
「いやそのね、そういうファッションがあるのは知ってるんだけどさ、いざお風呂上がりに……その、年頃の男の子の前でやるってのは、なんだか、さぁ」
「「……………」」
なんかモジモジして、見るからにテンパっている様子の僕っ娘の反応を見た俺は、雪菜さんと目を見合わせ―――お互いニヤついているのを目撃する。
………たぶんこの人も俺と同じく、可愛いって思ってるんだろう。
なんだこの愛玩動物は。
「あのな響季、お前が悪いぞ?」
「なんでそうなるのさ………」
「だって、わざわざ俺の服借りなくても良くない?隣の部屋に取りに行けばいいじゃん」
「………うっ」
「はい論破」
とはいえ、俺にも主張はある。
当然の論理に反論できない様子の、恥ずかし女は―――
「だって、雪菜ひとりだけ梨央くんの服着るのずるいでしょ!?僕も着たいんだけど!?」
「「!?」」
―――もっと恥ずかしい事実をぶちまけやがった。
やめろ。修羅場が現実になるぞこのままじゃ。
あっほら、雪菜さん頭抱えてるし………
「僕の何が悪いんだよぉ!!」
「………ねぇ響季、梨央の服着たいのはなんで?」
「だって僕だけ仲間外れじゃん!寂しいじゃん!!3人で梨央の服着ようよ!!みんな仲良しだよ!!」
「あー、そういう」
「じゃあ逆に雪菜はなんで梨央の服借りたの!?」
「いや、そりゃ着替え持ってないからでしょ」
「僕の服借りれば良くない?隣の部屋に取りに行くよ!?」
「それでさっき論破されてなかった?」
「良いから!!なんで!?」
ヒートアップした響季は、自分の論理の破綻を棚に上げ、雪菜さんを詰める。
「………男の部屋に転がり込んだら、男の匂いを堪能するのが作法でしょうが!?」
………いや雪菜さん、あんたヤバいっすよ?
響季の純情な理由に比べると、汚れまくってヤバいですよ?
「………変態」
「そうだけど!?悪い!?」
「折角さっき仲良くなれたのに………」
「裸の付き合いのお蔭でね♡」
「雪菜がそれを言うと意味深なんだよ………」
いやしかし、この1時間弱のお風呂で2人が仲良くなっていたらしい。
お互いを呼び捨てするようになったし、もう壁とか感じない。
距離感バグ同士だと、こんな一瞬で仲良くなれるんだね………。
「じゃあ、3人で野球拳するかぁ」
「え?僕の聞き間違いかな?」
「男、脱がすかぁ」
「え?僕の貞操観念がおかしいのかな?」
「じゃあ、野球ゲームで負けた人が脱ぐ感じで。げっへっへ………」
「………多分この人とヒロインレースしても余裕で勝てる気がする」
ゲスい笑顔を浮かべる変態を差し置いて、響季は俺にテレビゲームのリモコンを手渡す。
「ごめんね梨央くん、巻き込んで」
「いや別に気にしてねぇよ」
「けどまぁ、きっと楽しいと思うよ?」
「………それは知ってる」
そして、俺はテレビのスイッチを押す―――
『えー、どうも。じゆヒスのママ担当ことサヤです』
「あれ?なんかやってる」
「「……………………」」
―――テレビの電源入れたら、なんかうちの同僚魔法少女さんが映ってた。
『テレビをご覧の皆さん、急に電波ジャックして申し訳ありません。
では、端的に申し上げますね』
「ちょっと待ってね、もしかしてコレ僕が出動するヤツかな………?」
「「……………………」」
メッセージアプリで連絡を取っている響季を尻目に。
画面に映る紫髪の女の子の気持ち悪いほどの笑みに俺と雪菜さんは言葉を失い、冷や汗をかく。
…………これは、ヤバい。
『わたくしとおねんねするという約束を放棄したユキと、その浮気相手であるリカへ。
―――明日、5発くらいボコりますので、覚悟しておいてくださいね』
「「………………ァァァ」」
「あ、サヤは外に出てないみたいだから大丈夫だって!じゃあゲームしようか」
「「…………いや、寝よう」」
ウキウキの響季を尻目に、俺と雪菜さんは怯えた顔で布団に逃げ込んだ…………。
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