19 TS魔法少女、普通に正体がバレかける
「ごめん、俺帰るわ」
やっべー、マズい。
宣戦布告されたら流石に行くしか無いよな………。ここで逃げたら男の恥だしな。いや変身したら女の子だけど。
「悪いね、あとはふたりで頑張って―――」
「え、なんで?一緒に行こうよ?」
………と、急いで帰ろうとする俺の前に、立ち塞がる女が1名。
「いや、用事あって急いでるんで」
「え!?今の一瞬で用事できることある!?」
「急に彼氏に呼び出されたので」
「ナンパの断り文句みたいに言わないでよ!?だいいち梨央は男だよね………」
「今はジェンダーレスという言葉がありまして」
「梨央そんな社会派じゃなくない?倫理とか現代社会の時間おねんねしてるよね?」
俺の抵抗に、ぎゃいぎゃいと文句を言って邪魔してくる皐月。
あのね、ここ図書室だよ?周りの為に静かにしようよ―――
「え!?見たかさっきの配信!?」
「二条がリカちゃんに宣戦布告してたぞ!?」
「アイツ、学校で元気ないと思ったら徹夜で対策してたのか………」
「勉強しろよテストも近いんだぞ………」
「それでこそポンコツ筆頭の二条ではある」
「てか、またリカちゃんのゴン攻め見られるやん!!」
「みんなで見ようぜ。応援上映だ!!」
「サイリウムは用意してるぞ」
………いや、周りの方がうるさかったわ。お前らが勉強しろよ。応援上映って何だよニチアサか?応援相手ここに居るんだが?
「リカ霊媒師としては、今日は鼠径部フェザータッチの可能性が高いと見るが」
「リカ占い師COします!私リカを占って、指舐め扇情的上目遣いと出ました!」
「占い師CO対抗します!俺がリカを占った結果、彼女は送り狼でした!戦闘終了後に『一緒に居たい』って甘えた声でおねだりすると予想します!」
「んじゃあロラしましょう。二人の占い師はスマホのリカ秘蔵写真を開示してください。より妹っぽい写真を持っていた人が生き残りです」
あとお前らは何なんだ。俺で人狼ゲームすんな。そもそも全員欲望ダダ漏れじゃねぇか。
あと人を勝手に送り狼にすんじゃねぇ、そんな所で人狼と無駄に絡めようとしなくていいんだよ。
「あれ………?もしかして………梨央ってあのクソ女?いやでも………」
「ギャッ!?」
そんな事を言っている間に、皐月が気付いちゃいけない所に気付きかけていた。
ヤバいって。それバレたら一巻の終わりだって。俺がド変態として生きてかなきゃいけなくなるじゃん。
―――えーっと、解決策考えろ………。
………よし、これでいこう。
「ごめんな。俺、あの淫乱のファンなんだ」
土壇場で生み出した理論通りに、俺は言葉を紡ぐ。
「………え」
そして、彼女の思考を止めることに成功する。
「俺は今から帰って、ネット掲示板の同志達とリカのえちえちムーブを実況しなきゃいけない」
………同時に、彼女の視線が友情から軽蔑に変わっていく事が感じ取れる。
「………え、信じられないんだけど」
「仕方ない。アイツと俺は一心同体だ」
「そこまで惚れ込んじゃってんの………うそ………」
嘘は言ってない。マジで一心同体だし。だって本人だし。
「裸だって見たことある」
「うーっわ………」
嘘は言ってない。この間買い物行った時の着替えで自分の裸見たし。その気になればいつでも見れるし。
「あーもう最低…………」
そして。
俺が全く嘘をついてないことを悟ってか、皐月は俺を侮蔑した目線を送った後、タブレットが壊れるんじゃないかってほど手に力を入れ。
「………変態!!大切な友達まで奪うとかあの女最低!!絶対殺す!!」
ずかずかとわざとらしく足音を立てながら、彼女は図書室を後にした。
―――グッバイ、俺の恋心。
◇
「よく来たな!!!今日はこの装備で行かせてもらう!!!」
淡い恋が弾けた音を噛み締めながらゲートをくぐり抜け、わたしが観衆集まる戦場へ降り立つと。
宣戦布告してきた男・二条早都が仁王立ちし、鼻にかかる声で堂々宣言していた。
「…………あの、それは」
「ふっふっふ………俺は気付いたんだ!この間の俺の問題点は、視覚・嗅覚・聴覚にやられた事だと!!」
わたしは、その男の凜々たる立ち姿を見やり。
「…………引くわ」
はっきり言ってドン引きしてしまっていた。
何故ならば―――
「え!?どこに引く要素があるんだよ!?」
「全部だよ」
ここで皆様に、早都の恰好を説明しよう。
目元。真っ黒なアイマスク。
鼻。両穴を閉じた洗濯バサミ。
耳。クソデカヘッドホン。
「あのね早都、これドッキリ番組じゃないのさ」
「え?」
「端から見たら、どこかに連れて行かれる芸人さんか、R18エロ同人音声を楽しんでる変態男性にしか見えないんだけど」
「え?なんだって?」
「ほんっと気持ち悪い!!!!!!」
『おお〜!!!』
私は思いっきりの罵倒をぶちかますと、高速で彼に近寄り、エロASMRセットを奪い取る。
………あと観衆。わたしの罵倒で興奮して声出すんじゃない。罰として貞操奪い取ってやろうか?
「何すんだよぉ!?」
「気持ち悪い。だいたい五感なんて魔法で遮断すればいいじゃん〜」
「…………そうか!!その手があったか!!」
「ばーか♡あーほ♡みっともなぁ♡」
「クッ………!!!」
ちょっろ。この男ちょっろ。わたしのメスガキボイスにすら負けてんの笑える。絶対わからせ系の音声買ってるでしょ。確信無いけどたぶんそう。
「いや………でも俺はこの女をわからせるんだ!!皆、応援してくれ!!」
「「おー!!」」
「「「「「ぶーぶーぶー!!!」」」」」
しかも観衆煽ってもブーイングの方多いし。それでヒーロー名乗れるの?
…………とはいえ、一応仲間いたほうが良いのは事実な訳で。
ささっと先輩に救援要請しとくか。
「あのーごめんなさいリカです」
『どした?』
『何でしょう〜』
反応早い。さすが先輩。
「皆さん暇ですか?一応わたし一人でボコせそうですが、手伝い来てくれると有り難いんですが」
『ごっめん、私これから用事あるからかなり遅れそう』
『わたくしも、家でご飯作ってから行くので、遅れると思います〜』
………一応相手現役トップクラスのヒーローだけどな。舐められてるねコレ。
「じゃあ、暇になったら来てください」
『わかりました〜』
『ヤバくなったら逃げるんだよ〜』
「りょーかいです」
と、二人の声を聞いて少し安心したわたしは。
「今回も、いっぱい楽しませて貰うよぉ♡」
「俺が…………わからせてやるッ………!!!」
親友かつ敵な男へと、駆けていった。
―――あのさぁ、『かかってこい』じゃなくて『わからせてやる』ってさぁ。
やっぱメスガキ好きなんだね、早都………
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