8 無自覚中二病僕っ娘、頭がピンクの争いに参戦する



「まあ、そんな感じで愛情吸い尽くすまで離しませぇーん♡」

「ギャア!?猛獣ですわ!?猛獣すぎますわ!!」

「わたしは愛の狼だからね」

「中二病も併発してますわ!!助けてくださいリョーマ!!」

「やだ」

「なんでですの!?」

「だってオレ男だもん?男なのにラッキースケベを女に奪われるって何だよ?」

「これのどこがラッキーに見えますの!?どう見てもアンラッキーですわよ!?」

「わたしと一緒になれて、エリザベスはハッピースケベだね☆」

「くっだらない韻踏まないでくださいまし!?」

「ざまぁwww」

「味方が味方じゃなくなりましたわ!!」



エリザベスの豊満な胸―――いやコレ触ったら全部パッドの偽乳じゃん―――を鷲掴みにし、貞操を奪うわたし。



「あーあ!!オレもエロい美少女にキス迫られたりしねぇかなぁ!!」



味方だというのに全く助ける気配の無いリョーマは、そんな事を言った。









…………待って、それってフラグじゃ―――






「私のクズ男センサーがびびんと来ました!!!あそこに居るのはカス太郎じゃないの!!私と一緒に愛に溺れてもらいまーすッ!!!」




予感通り、エロい美少女ユキさんが彼にキスを迫っていた。


しかし当の本人は―――




「やめろメンヘラ!!お前は無理だよ!!!エロい想像する度に激重感情と自傷行為がチラついて興奮できねぇんだよ!!!」

「でも私は貴方が大好きだよ?」

「どうせクズ男だからだろ!?」

「もちろん!私と同類だから捨てても何も思わないで済むし!後腐れないし!!」

「頭おかしいんじゃねぇの!?てかなんでじゆヒスにクズ男性癖とクズ女性癖が両方居るんだよ!?どう見ても地雷パーティじゃねぇか!?」

「それはそれとして私を縛ってください」

「魔法で縄を作るな!!んで手渡すな!!」



あー………ひどいなコレ。

ユキさんがリョーマにダル絡みしてる。性癖全開フルぶっぱしてる。



「ユキさんってほんと男癖悪いよね………」

「全くその通りですわ。どんな育ち方したらこんな女に育つのでしょう」



手首足首を固めてエリザベスを拘束しながら、わたしはため息を付く。



「少なくともわたしは性癖叫ぶ女になりたくはないわ」

「…………は?」

「やっぱり愛を注ぐには暴力って良くないからさ」

「今すぐ鏡見なさいなこのすっとこどっこい!!」



キレてるエリザベスと同様、リョーマは絶対絶命。


今のままだとユキさんが襲いきってしまいそう―――













「一心不乱に俯瞰と普段を愛するアイロニカルの化身よ、消し炭の景色の見識を剣先に咲き誇らせ応えよ」



しかしその試みは、リョーマを護る防壁によって防がれる。

その防御の主は、わたしたちにもひと目で分かった。



………なぜならば、誰がどう見ても呪文の詠唱な事を言っているヤツが居たからである。




「防壁破りの攻撃の恰好の標的、蛇行する構想に高層の装甲を以て、奏功へと至らん。愛し合い、愛に溺れ、愛を演じて愛を縁とす」



………そしてその詠唱の中身は、ほんっとに1ミリも理解できない。東大の英語の問題を解いてるみたいに分からなかった。ヒエログリフかな?


観客が「すげぇ韻だ!」「フロウでフロアが沸き立つぜ!」とか言ってるけど、アレ語感でしか考えてないと思うよ。絶対中身とか無い。








「拒絶せよ―――《愛擬あいぎすの盾》」





けれどその威力は絶大で。

文字通りゼロ距離になっていたユキさんの接近を、まんまと跳ね返した。



「なんで拒絶すんの……?私のこと嫌いになったの………?好きって言ったよね………?」

「記憶捏造すんな!!」

「じゃあ女………?新しい女でもできたの………?」

「ちげぇよ!!今俺を助けてくれたのはオレの仲間でな………」



そして、わたしを含めその場にいる全員が、リョーマが指差す方向を見やる。

そこにいたのは、ショートで紺色の髪をした、中性的な男の子であった。






「どーも。山県やまがた響季ひびきです」





ハスキーな声に、落ち着いた喋り方。

少なくともこの場にはいないタイプの人間だ。

ヒーローとしての恰好もパーカーにワイドパンツとかいうユニセックスかつスポーティな装いで、部活帰りと言われてもおかしくはない。



んで、何故か彼はクソな部活の先輩―――いやリョーマに詰められていた。



「名前が違うって言ってんだろ!?」

「いや僕の本名なんだけど?」

「お前は『山県シンフォニー』だろ!?」

「知らないよそんな中二病ネーム」

「『山県シンフォニアス15世』ですわよね!?」

「違うよ。フランス王朝レベルの歴史も無いよ」

「じゃあ………お前は山県響季だったって言うのか………?この【キケンナアソビ】に日本人がいるわけがないと思っていたのに………!?」

「リョーマってどう考えても日本人だろ。多様性舐めんな」

「じゃあお前は何なんだよ!?」

「キケンナアソビ所属、防御型ヒーロー、山県響季ですが何か?」

「中二病罹患歴もあるだろ!!」

「アレのどこが中二病なのかな?普通じゃない?」

「はー………無自覚かぁ………」



クズ先輩たちのボケを、難なく受け流していく響季とやら。

………こいつ、結構な手練れだね。中性的なイケメンだし面白いしで女の子にモテそう―――







「イケメン!!!抱いて!!!」



………と思ったと同時に、先輩ユキさんが駆け出していた。

ちなみにわたしも駆け出した。ユキさんからナイフ飛んできてたけど。何この人こわい………



「…………いや、ごめんよ」



しかし、そんな攻撃もモノともしない山県響季。

むしろ申し訳無さそうな顔をして、シールドを出さずにユキさんの愛を受け入れる。



「えー!!いいなぁわたしも混ざる!!!」



そしてわたしも彼女に追いつき、ズボンを脱がせ始める。



「なーんでアイツだけ3Pしてんだよォ!?」

「中性的な子って男女両方にも人気ありますものね」

「俺だって男女両方に人気あるだろ!?」

「笑いものとして、ですわね」



そんなふうに軽口を叩くヒーロー達。

しかしわたしは、とんでもない事実を知ってしまう。







「あるべきはずのものが…………無い………!!!」




その言葉に重ねるようにして。

紺色のイケメンは、衝撃の暴露を行った。















「―――いや僕さ、女の子なんだよね」





…………というわけで。

無自覚中二病僕っ娘、参戦。

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